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【柳町光男シリーズ#7】「仕立て屋の恋」『さよなら渓谷(文庫解説)』より
こんにちは、三太です。
昨日も投稿したのですが、今週は毎日投稿を頑張ります。
では、今回は以前、『さよなら渓谷』の作品紹介をしたときに取り上げた「映画監督、柳町光男さんの解説」に出てきた映画「仕立て屋の恋」を紹介します。
『さよなら渓谷』の文庫解説に出てくる11作の映画のうちの7作目です。
吉田修一さんの『さよなら渓谷』の文庫解説が映画監督の柳町光男さんでした。
柳町さんは吉田修一さんを「紛れもなく真底映画が大好きな小説家」(p.240)だと述べた後、『さよなら渓谷』という作品もとても映画的だと言います。
例えば、「主題と主人公のすり替わりがなんとも映画的だ」(p.241)ということで映画『サイコ』を引用します。
また『さよなら渓谷』では市営団地のお隣さん同士が重要な登場人物として出てくるのですが、〈隣の家〉という視点からは映画『隣の女』、『グラン・トリノ』などを引き出します。
〈隣の家〉から〈隣の部屋〉、〈向かいの部屋〉まで押し広げて、まずは『裏窓』。
そして同様に『非常の罠』、『ノックは無用』
その後今回取り上げた『仕立て屋の恋』について触れられました。
ちなみに「仕立て屋の恋」については以下のような記述となります。
息子殺害の里美の家と、俊介とかなこの家が市営団地の隣り合わせというのも映画的である。私は大いに刺激を受けた。私の観点からすると、ここに映画の映画たる所以のひとつがある。〈隣の家〉のたとえ一方の家しか画面に映っていなくても、もう一軒の家で何が起っているかが同時に且つ容易に想像でき、空間的にも時間的にも映画的要素が濃密である。そして、そこには〈境界〉のテーマとイメージが用意されている。
(中略)
〈隣の家〉を〈隣の部屋〉や〈向かいの部屋〉まで押し広げると、更に多くの映画が該当する。先ずはその空間の妙を最大限活用したヒッチコックの傑作『裏窓』。中庭を挟んだ向かいの部屋の美しい女性を垣間見、惚れてしまう男性の話では、スタンリー・キューブリックの『非情の罠』、マリリン・モンローとリチャード・ウィドマーク共演でロイ・ウォード・ベイカーの『ノックは無用』、パトリス・ルコントの『仕立て屋の恋』、・・・
では、実際に今から見ていきます。
基本情報
監督:パトリス・ルコント
出演者:イール(ミシェル・ブラン)
アリス(サンドリーヌ・ボネール)
エミール(リュック・テュイリエ)
刑事(アンドレ・ウィルム)
上映時間:1時間16分
公開:1989年
あらすじ
町で若い女性の殺害事件が起こります。
刑事にその事件の犯行を疑われる仕立て屋のイール。
しかし、 彼が行っていたのは向かいのマンションの女性アリスの覗き見でした。
はじめはバレずに覗き見をしていたのですが、ある日、雷の光で気づかれてしまいます。
覗き見に気づいたアリスはなぜかイールに近づこうとします。
このアリスの不可解な行動の裏には婚約者エミールとのある秘密がありました。
設定
・せつない恋愛
・窓越しの覗き見
・気持ち悪さ
感想
76分ほどの短い映画でしたが、男女の思いのすれ違いがとても上手に描かれていました。
序盤からイールの気持ち悪さは抜群です。
覗き見をしているときに窓に映った顔は見られている側からしたら、気持ち悪さの極致だと思います。
むしろ、イールの気持ち悪さ、怪しさは強調され続けます。
ある種それは変態的域まで到達します。
けれどもなぜか覗き見に気づいたアリスはイールに近づく。
普通カーテンを閉めて、関わりを断ちますよねという状況で。
その理由に気づいたときに、「この映画めちゃ面白い!」となりました。
と同時にイールの気持ち悪さは少し和らいだようにも思えました。
結末はとてもせつなかったです。
覗き見る彼を使おう冬ざるる
その他
・ウィキペディアより
→原作はジョルジュ・シムノンの1933年の同名小説(フランス語版)(原題:Les Fiançailles de Mr Hire)。同原作の映像化作品としてはジュリアン・デュヴィヴィエ監督による1946年の映画『パニック(フランス語版)』などがあり、本作はそのリメイクである。
→原作を書いたジョルジュ・シムノンは103編ある、ジュール・メグレ警視(Jules Maigret, 後に警視長)が登場する一連の推理小説でも知られる作家である。
吉田修一作品とのつながり
・窓越しの覗き見は、『おかえり横道世之介』での世之介と桜子との出会い方と同じです。
気持ち悪さは随分と違いますが・・・。
以上で、「仕立て屋の恋」については終わります。
男女のすれ違いのせつなさを巧みに描いた映画でした。
それでは、読んでいただき、ありがとうございました。