【作品#29】『太陽は動かない』
こんにちは、三太です。
9月に入り、朝晩は少しマシになったとはいえ、いっこうに日中の暑さがおさまる気配がありません。
吉田修一さんの作品を読んでいると、夏場に冷房で冷えた体を外の空気であたためるシーンがとてもポジティブに描かれることがあるのですが、この感じは今の照りつけるような暑さにはあまりない気がします。
少なくとも私はキンキンに冷えた部屋のベッドにダイブするのが好きだなと思っている今日この頃です。
では、今回は『太陽は動かない』を読んでいきます。
初出年は2012年(4月)です。
幻冬舎文庫の『太陽は動かない』で読みました。
あらすじ
アジアを舞台にした壮大なスケールのエンタメ小説。
NHKのGNN構想が破綻し、そこで使われるはずであった資金で作られたスパイ組織、AN通信。
そのAN通信で働く鷹野と田岡。
AN通信という組織はスパイ活動で得た情報を売ることで成り立っています。
またそこで働くスパイには一つの秘密があり、裏切りを阻止するため、一日に一度決められた時間に本部に報告ができないと体内に埋められた爆弾を爆破されます。
とても非情な組織です。
本書では大きく二つの案件が扱われます。
鷹野と田岡が臨む案件の一つ目は、天津スタジアムの爆破計画の阻止。
その計画の裏には中国・ウイグル・日本・韓国の石油企業が絡んでいました。
案件の二つ目は、太陽光発電をめぐる、要するにエネルギー資源をかけた争いで、こちらは中国と日本の国家間の争いまで発展します。
敵はもちろん、ライバルのスパイが出てきたり、様々な人が絡んできたりして状況はとても複雑です。
鷹野と田岡は無事これらの案件を乗り切れるのでしょうか。
公式HPの紹介文も載せておきます。
出てくる映画(ページ数)
今回も1作も出てきませんでした。
ただしこの作品自体が映画化されていますので、そちらを見たいと思います。
感想
エンタメ小説ということで、(勝手に自分がそう考えているのですが)とても楽しめました。
スパイ映画を見ているようでした。
ただ、スパイ達のやり取りには、じわりとにじむ人間の情もあったと思います。
例えば、AN通信と敵対するスパイ、デイビッド・キムという男が仕事のために、ある大学教授の娘に近づくのですが、この娘のキムを想う心には読んでいる自分も胸を打たれましたし、キムも一瞬仕事を忘れ、迷いを見せます。
2012年に刊行された意味もあるのかなと思いました。
東日本大震災を受け、特に原子力発電を中心に、エネルギーに対する考え方の変革が必要ではないかというメッセージがあるように感じました。(しかし、これを書いた後、公式HPを見てみると構想・執筆は3.11の震災以前から始まっていたようです。なんたる先見の明!)
また、現実とフィクションが上手く融合していると感じました。
NHKのGNN構想というのは本書でも取り上げられる書籍『本気で巨大メディアを変えようとした男』に出てくるもののようですし、研究者に対する日本の扱いなどはメディアでも報道されているのと同じで(待遇が良い海外の大学に流れてしまう)、親の育児放棄は実際にあった事件が題材になっているようです。(おそらく「大阪二児置き去り死事件」)
鷹野と田岡を中心として、たくさんの登場人物が出てくるのですが、目次のすぐ後に登場人物の一覧がまとめられていてあまり混乱することはありません。
その中で何人か政治家が出てくるのが同じく政治家を扱った『平成猿蟹合戦図』と似ているように感じました。
スパイでも一人の男秋日向
映画とのつながり
小説の終盤、ある人物たちが拉致されて、コンテナ船に積み込まれ運ばれるというシーンが出てきます。
この船からの脱出劇がタイタニックを思わせるような状況でした。
特に船底が90度になるなど、まさにタイタニックと同じでした。
映画のイメージがあってこのシーンが出来ていたら面白いのですが・・・。
以上で、『太陽は動かない』の紹介は終わります。
では、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。