原作を知らずに見る 『KINGDOM 大将軍の帰還』(2024年7月公開)【映画感想】
原作は原泰久『キングダム』。
今回が映画シリーズ4作目で、24年7月公開。
*ネタバレを含みます。ご留意くださいませ
*原作を知らずに映画を見ています
🐎要潤も大活躍
ここまでずっと、なぜ要潤を、こんなもったいない使い方しているんだろうと思ってきた。
要潤が演じる騰は、大将軍王騎を支える副将ではあるが、ここまでの3作ではセリフも少なく、悪い人物ではなさそうだが個性が見えなかった。
『大将軍の帰還』でようやく、(シュィシュィと剣を振り回すその技がカッコいいかどうかは別として)騰の戦闘能力の高さ、王騎という偉大な大将軍の副将を務めるに相応しい人物であることが明示される。
良かった。要潤はここまで、温存されていたわけだ。
さて、原作も知らず、1作目が作られた頃はキャスティングも含めてまったく興味がなかった『KINGDOM』を、4作目だけスクリーンで見たのは、小学生の娘が大沢たかお演じる王騎にツボってしまったからだった。
映画館ほかで流れる宣伝の「全軍、前進。」や、「あなたは何故、中華統一を目指すのか。」といった独特のセリフ回しが気に入ったようで真似し始め、その面白いセリフはどこで登場するのだろう?と家族でWOWOWの放送を見たのがきっかけである。
結果、家族全員が、王騎にツボってしまった。
その王騎がメインの4作目。これはスクリーンで見ねばなるまい、という展開である。
🐎なんかクセになる、から「殿ォオオオ!」へ
大沢たかおが演じる王騎は、わたしがこれまで見たことのない、「キモかっこいい」新タイプの英雄だ。
前の3作では、いつも一人だけ別の空気を吸っているようなスカしたキモさと怖さを感じ、筋肉隆々の二の腕に似合わぬ微笑は果たして温かいのか狂気なのか、謎めいていた。
それが今作、蒙武(平山祐介)を助けに行くあたりから違って見えてくる。
王騎が、実は一人ひとりの兵に思いをかけ、彼らの命を大切に扱ってきたこと。
命を預かる重圧に耐えるだけの精神と肉体を、彼が磨き続けてきた姿が描かれる。
新木優子演じる、摎の死が、王騎にとって特別、心にこたえるものだったことは違いないが、それ以前からずっと、王騎は己の力の誇示や地位のためでなく、人々との幸せのために戦ってきたことが、この映画ではっきりと示される。
吉川晃司演じる、趙の総大将龐煖との一騎打ちのシーンは圧巻だった。
ワイヤーアクションであるし、中国のこの時代を取り上げた映画らしくド派手な誇張が満載で、音と音楽でいくらか強引に盛り上げてくる感じももちろんある。
それでも、ほとんど感情を排した戦いの権化「武神」と、実は誰よりも生身である王騎の対決は息を呑む緊張感であり、2人の目から迸る殺気は凄まじい。
そしてこのシーンは、予想を遥かに越えて長い。
王騎が大将軍たる力を見せるのは、手負いになってからが本番である。
「キモかっこいい」王騎の印象は、次第に「キモ」くなくなり、「かっこいい」を越えて文字通り「偉大」「崇高」へと昇っていく。
兵を鼓舞する武将とはこれほど輝くものか、と初めて知る。
生きる中で忠義とか忠誠などまったく感じたことのないわたしでも、こんな武将だったら惚れてしまって、命の限り戦おうと思わせるそのありさま。
気持ちはすでに「殿ぉオオオ!」である。
信(山﨑賢人)に矛を託すシーンでは、これまで聴いたどんなセリフより温かい「ばかもの」「素質はありますよ」という言葉が馬上から発せられる。
どうしよう、もう全然キモくない。スクリーンで見てよかった。
🐎この映画の主役って…?
さて、テレビで先の3作を見ていて、興味深いと感じたことがある。
過酷なアクションを売りにしつつも、主役は実は若手でなく、年齢としては中年以上の俳優に見えることだ。
試しに、公式サイトの相関図に、役者の年齢を書き込んでみた。
(年齢は単純に生まれ年から2024年までを数えたもので、誕生日や撮影年月は考慮しておりません。)
別に役者を年齢で見るつもりはない。
若くたって老け役も深い芝居もできるのだろうけれど、こうしてみると、やはり年齢と経験を重ねた役者に、要求されているものが高いことが分かる。
草刈正雄などは、2シーンくらいしか出てこないのだが、出た瞬間から神様級のオーラが求められる。
そして実際、要潤も含めて、役者は経験というか、年齢を重ねるごとに演技に幅と深みが出ていくことをあらためて感じる。
🐎シーンは短いが魅力的! 新木優子の摎
乱世の武将の物語で、男性キャラクタの比率が高いが、女性キャラクタの中では長澤まさみと新木優が、充分な存在感を放っていた。
山の王、楊端和を引き続き長澤まさみが演じている。
毎回、出番は多くない。今回は直接に戦場のシーンがないが、嬴政(吉沢亮)のもとを訪れたときに、遠方で見てきた戦場の空気をまとっていたのがさすがだと思う。
戦おうと出向いたら相手の10万もの屍を見たという、不穏な情報を持ってくる役で、その役割を十分に果たしている。
新木優子演じる、摎は、今作で登場して今作で死んでしまうのだが、存在感があった。
美しさだけでなく気品とスケール感があり、王騎将軍の相手役としてふさわしい人物が出来上がっていた。
馬上で剣を振るう姿は美貌と相まって壮絶で、「戦の神に愛された」という劇中の表現にまさにぴったりだった。
彼女の登場シーンは少ない上に、同じシーンには草刈正雄、髙嶋政宏、大沢たかお、吉川晃司というベテランが並ぶ。この中で、スッと立つ白百合のように香しく気高く、なおかつ、約束を覚えてくれていた王騎への熱い思いがこみ上げる場面ではあどけなかった昔の姿を想像させる可愛らしい涙も印象に残る。
一方、戦場に直接出ない軍師系の面々は、若いほど演技のしどころがなく難しい。
橋本環奈、萩原利久、佐久間由衣は状況説明としての役割にとどまり、それぞれのキャラクタの面白さを出すには至らない。戦いの臨場感も出ない。
前作『運命の炎』の後半で突如現れた李牧(小栗旬)は、経験が物を言うのか、奇抜な出で立ちで損がある(?)にもかかわらず、今後は王騎に代わってこの物語の台風の目になってもおかしくは…ないかな…という雰囲気を作り出している。
出番が少ない中で健闘していたのは山田裕貴の万極。
『運命の炎』でその壊れた残虐さを示したところだが、声に工夫があり(この人は声に特徴があって、どんな役でも山田裕貴になるのは強みでも弱みでもあると思う)、死地をくぐってきた者が持つ不気味な嗅覚というか、死から這い上がってきたゾンビの恐ろしさのようなものを感じさせた。
🐎さいごに
そんなわけで、3作かけて作り上げてきた王騎の存在がついにメインに立つ4作目『KINGDOM 大将軍の帰還』。
一緒に見た娘は「(鬼滅の刃 無限列車編)煉獄さんが死ぬとき以上に泣いた」、「もう一回見てもいい(なぜか上から目線)」と言っていた。
わたしは煉獄さんのほうが泣いたけれども、それはたぶん、王騎の描かれ方と、それをやりきった大沢たかおに圧倒され、秦の一兵卒になった気持ちだったからだろう。
死を哀しみ嘆くより、「殿と帰還したぞ」という気持ちだったせいかもしれない。
帰還といえば、帰途で信が皆に声をかける「顔あげろ!!!」が、4作を通して山﨑賢人のセリフで最も良かった。
昭王(草刈正雄)から預かった大切な言葉を、嬴政(吉沢亮)に伝えた王騎。
秦に多くを与えて去った大将軍の、喪失感はあまりに大きい。
「最終章」という名前の付け方は、ラストではないという意味だと思うのだが、どうなのだろうか…。
最後までお付き合いいただき、まことにありがとうございます。