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映画感想『島守の塔』2022年公開
*この文章は2023年12月にAmebloで投稿したものを加筆修正しています
*ネタバレを含みます
WOWOWで放送していたので観た。
心を捕える、冒頭30秒
戦中最後の沖縄県知事として兵庫から沖縄に赴任した島田叡(萩原聖人)と、栃木県出身の荒井退造警察部長(村上淳)が、軍からの要請に苦しみながら、県民を守ろうと尽力するのがストーリーの軸。
知事付きになる県職員の比嘉凛を演じる吉岡里帆と、その妹で学生の由紀を演じる池間夏海をはじめ、戦火の中を逃げ惑う沖縄の人々が描かれる。
最初の30秒で、「これは、しんどいパターンだ」と感じた。
グロいとかではない。轟音もなく静かに始まる。
それが却って、やりきれない。
どう観ても辛いだろう全体を予感させる。
それでも、
この30秒で完全に心は捕まって、
観ずにいられなかった。
そして最後まで観て、あらためて、
この冒頭の表現の力に圧倒された。
映画館で観ていたら、一旦、途中で出たかもしれない。
想像を超えて、しんどかった。
それでも、
一度で分からなかったところをオンデマンドで見返して確認せずにいられなかった。
冒頭30秒での視線が、きちんと見ろと、
ずっとこちらを向いているような気がして。
主役は「県民」
当時のこの国の教えを素直に受け止めて、
ギリリと引き絞った弦のごとく張り詰めた凛(吉岡里帆)と、
アメリカ映画に憧れ、
自由な学びと、生きることを願う由紀(池間夏海)の対比もいい。
萩原聖人も村上淳も、
器用な演技のタイプではないと思う。
けれど、そのあたりは気にならない。
島田(萩原聖人)と荒井(村上淳)をメインに話が進みつつも、
避難する県民や、警察官の家族など、人々の個性や顔が丁寧に描かれている。
名の知れた俳優の演技がどうというより、
気持ちはそういう人々に向かい続ける。
それでいて、
これみよがしに人柄や生活風景のエピソードを盛り込んだ感じもないし、
映像で悲劇を煽る感じもない。
抑えた色調が、命を鮮やかに映し出す
沖縄はとても美しい国。
でもこの映画では、悲壮感を盛り上げる要素に、そういう沖縄の色彩の美しさを利用しない(ように見える)。
花の赤色だけを残した白黒や、ガマの壁にろうそくの炎が揺れるオレンジ色。
ところどころで場面の理解を促すための色の調整はある。
しかし、映画は全体的に、
県民の疲労や我慢をうつしたような、赤みの少ない色調になっている。
中盤、看護部隊として軍と行動することになったと、由紀が凛に報告するシーンがある。
川を挟んで凛と話す由紀の笑顔と裏腹に、色調がとても冷たく暗い。
これも、後半へ繋げる意図があるようにも見える。
後半で、由紀はガマに放り込まれた毒ガスで死んでしまう。
由紀と凛の最期のやりとりは、何度見ても涙が堪えられない。
由紀を演じる池間夏海。
黒髪を揺らす風まで味方につけた、
一種、神がかったような美しさと迫力は、どうだろう。
キャッチコピーの『命どぅ宝』を体現して恐ろしいほどだ。
尊い命が踏み躙られる怒り、辛さ、無力感に、言葉もない。
終盤、知事に歌と踊りを見せに来てくれる村民が登場する。
くらっと魂を吸い取られそうな、澄んだ美しくも切ない歌声の男性。
静かに踊る女性の影が、ガマの壁に揺らめく。
我々は、なんと尊いものを、失ってしまったのだろう。
繰り返し繰り返し、そう胸に問わずにいられない。
キャスト、監督など
戦争映画では、一部の軍人は顔つきも口調も恐ろしく、怪物めいた悪役に描かれることもある。
この映画では第32軍の牛島、八原、長はモンスターでもサイコパスでもない。
悪化していく状況の中で、島田と意見が対立しても、冷酷無比というわけでない。
それが戦争の虚しさ、やり切れなさを感じさせる。
鹿児島県出身で第32軍を指揮した牛島満役は、鹿児島出身の榎木孝明。
『天外者』でも、薩摩の島津斉彬をしていた。
自決の前、ずっとそばにいてくれた髭剃り担当の人(?)に缶詰を食べさせてあげるシーン、優しい声が耳に残る。
第32軍の高級参謀の八原は、水橋研二。
この役者さん、力があるゆえだろうけども、ワタシが見るときほぼ100%、殺人鬼や悪役、怖い役。この作品では戦略担当の参謀を物静かに演じている。
この映画のノベライズも、読んでみようかと思っている。
五十嵐匠監督の他の作品に、『地雷を踏んだらサヨウナラ』がある。
学生の頃に映画館で観た。懐かしい。
あれも、忘れられない映画の一つ。浅野忠信はもちろんだけれど、市毛良枝と羽田美智子がよかったなあ。
戦争を扱った映画の感想を書くのは難しい。
緊張感がまったく違う。
それは、「個人の感想です」的な、
安易な打ち消し表示で逃げられないからかもしれない。
感想を書こうとするとき、
自分が戦争について(も)まるで無知で、
掘り下げる努力もまったく足りていないことをハッキリ感じるし、誤魔化せない。
自分の知識や信条や語彙力のなさを痛感して辛いから、
本当は、ずっと下書きに置いて、書き直して読み直していたい。
それでも公開しておこうと思う。
この映画を知ることができて本当に良かったから。