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春のような温かさがいつもある学校に…どうしてそこを雑巾で拭こうと思えるの 〜心の宝物98・99・100・101
🌷炎天下の「なかよし通り」で
コロナ機の学校
低学年の教室がある校舎と、職員室等のある校舎をつなぐ渡り廊下を、この学校では「なかよし通り」と呼んでいました。3年後に創立150年を迎える校舎は、建築当初は最新の鉄筋コンクリート造りでしたが、いたるところの段差や老朽化等、現代の基準では不都合な部分も目立つようになっていました。
なかよし通りも、雨除けの屋根とフェンスこそありますが、ほぼ吹きさらしのコンクリートの床で、感覚的にはほとんど屋外。その場所の掃除の担当が1年生でした。
掃除を見て回りながら、なかよし通りに差し掛かって驚きました。
厳しい残暑の中、1年生が、膝をついて、コンクリートの床を水拭きしているのです。
小さな手に、全身に力を込めてごしごしと磨いています。競い合うように、生き生きと楽しそうに拭く姿から、先生や上級生から指示されたのではなく、自分たちで考えて行っているであろうことが推察できました。ごつごつした床についた膝が、擦りむけてしまうのではないかと心配されるほどの力の入れようです。
🌷どうしてそこを雑巾で拭こうと思えるの
彼女は、何事もゆっくりと自分のペースで、しかし一生懸命にやり抜く人でした。声をかけてくれた人には、それが賞賛であっても注意であっても「ありがとう」という言葉で思いを返します。この日もそうでした。「すごく頑張っていますね」とかけた声に「ありがとうございます」と答えて、一段と集中力を高めて作業に戻ります。その生真面目さは、この後学年が進んでも変わりませんでした。
てきぱきと動く彼女は、バケツに水を汲んで、作業の効率が上がるように工夫していました。掃除場所が変わっても、授業や給食等、学級の中でも、周りをよく見て、その時するとよいことを見つけ、ためらわず行動します。仲間の困り感を察知し、寄り添う姿は、優しさとして周囲から信頼されていました。
彼女は、コロナ休校中の、学校での預かりのときから、他の子よりも一足早く登校していた中の一人でした。はじめは上級生の中で、やや緊張していましたが、すぐになじみ、落ち着いて読書や勉強に取り組むようになりました。この日も、黙々と、しかし力を込めて、暑いコンクリートの床を磨いていました。
彼女も優しい人でした。多くを語る人ではありませんが、休み時間には、仲間とシロツメクサを編んで、ブレスレットや大きな首飾りに仕立て、校長室までとどけてくれました。持ち前の確かな行動力と意志の強さがお母さま譲りであることは、中学時代の担任だった私にはすぐにわかりました。無言で黙々と力強く磨く姿は1年生とは思えないほどです。
そんな彼女たちに「どうしてここを、雑巾で拭こうと思ったの」と尋ねてみました。
「だってそのほうがきれいになるでしょ」
「砂のつぶが一つもなくなるよ」
「そのほうが、みんながきもちいいでしょ」
真っ直ぐな答えが返ってきました。
ここは外みたいなものだから、教室のように、雑巾で拭くなんて校長先生も思いつかなかったよ。君たちが、もっときれいにしようと考える力はすごいね。
「でも、したがごつごつしているから、お膝をすりむかないようにしてくださいね」
「はあい!」
元気に返事をしつつ、一段と力を入れて磨く小さな背中と、膝を、はらはらしながら、しかしたまらなく愛おしく眺めていました。
かけがえのないあなたへ。
素敵なきらめきをありがとう。
出会ってくれてありがとう。
生まれてきてくれてありがとう。
どうか、ありのままで。
どうか、幸せで。