岐阜県中津川市に移住した伊藤 来さんのLOCAL MATCH STORY 〜当たり前だと思っていた自分の故郷の稀有な自然環境を多くの方に感じてもらいたい。守っていきたい。〜
移住を経験し、地域で活躍されている人を紹介する「LOCAL MATCH STORY」。
今回は、故郷である岐阜県中津川市に移住され、延べ12,000名が参加したカヤック体験教室を運営されている伊藤 来さんをご紹介します。
そして、この記事は伊藤さんご本人に執筆いただきました。
私の自己紹介
伊藤 来(いとう きたる)
岐阜県中津川市出身
KAYAK Univ.(カヤック大学) 代表
恵那高校理数科卒 早稲田大学卒
-高校・大学と体育会のボート部に所属
戦績:オリンピック/世界選手権候補選手、国体2位(岐阜県代表)、インカレ2位、インターハイ4位、全国選抜8位、早慶レガッタレギュラーメンバー、世界有名大学レガッタレギュラーメンバー、中日本レガッタ1位、中部選手権1位
-大学ではスポーツ医学を専攻 トレーナーや救急処置(CPRやAED)を学ぶ
大学卒業後、いすゞ自動車株式会社に入社、法人営業にて2年間日本通運などの大手物流会社を担当、リーマンショックによるトラック車両の需要低迷時に中国の建機(ショベル・フォークリフト)のエンジン営業に異動し担当者2名で中国の建機メーカーに対してエンジンを販売、社長に株主総会で「いすゞの3本柱の1つ」と言われるまで成長させる。
いつか、地元に戻り生まれ故郷のお世話になった恵那峡や岐阜に恩返しがしたいと思い続け、2012年年末に退社し岐阜へUターン、2013年よりカヤックの体験教室を開始、初年度から2,000名を超える方にお乗り頂き、既にのべ12,000名を超える方に既にお乗り頂いています。
現在は、中津川市内の日本一の山城にも選ばれた、苗木城の麓の木曽川沿いに120年ものの古民家を購入し改修しながら、天然記念物のニホンカモシカや岐阜県の準絶滅危惧種のヒダサンショウウオと共に一人暮らしをしています。
私が移住した地域はこんなところ
岐阜県中津川市は、南北に100Kmもあり特徴の多い場所ですが、その中でも2027年開業予定のリニア新幹線の岐阜県駅ができる所で、古くは中山道と東山道が通り交通の要所・宿場町として栄え、食としては、栗や栗菓子の「くりきんとん」が有名です。市の南東には、天照大神が生まれた際に臍の緒など(胞衣:えな)を奉納したことが名前の由来とされる恵那山(えなさん)がそびえ、そこから流れ出る木曽川やその支流がとても清らかで気持ちよく山と川の自然の美しい街です。現在は、古い街並みや自然の美しい景観が多くある反面、リニアの建設に伴い、都市部の宅地の建設の増え今まさに大きく変わりつつある場所だと思います。
写真:苗木城からの景観 中津川の街並みと恵那山
※この真下に、住んでいます。
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なぜ移住しようと考えたのか
『木曽路は全て山の中である』
中津川の馬籠出身の島崎藤村の有名な『夜明け前』の冒頭部分です。そんな山の中、中津川で生まれ育った私は、山で木登りや森の恵みを使って遊び、川で舟を漕ぎ、魚を釣り、360度山に囲まれた豊かな自然のある生活を当たり前のものだと思い過ごしていました。
しかし、大学進学とともに地元を離れ、ボートの試合や仕事で、様々な国や東京で暮らしてみて、あの山での暮らし、胸いっぱいに吸い込んだきれいな空気、どこからか聞こえてくる川のせせらぎ、いつも周りで鳴いていた鳥の声、山からの心地よい風。 これらが、いかに贅沢で貴重なものだったのかを、知ることとなります。約10年東京・上海という大都会の中でくらし、東日本大震災を東京で経験し、一度しかない人生だからと、故郷、中津川の素晴らしい自然とともに暮らしたいという思いを強くし、脱サラし、故郷に戻ってきました。
また、多くの人に故郷の自然や河川の楽しさ、美しさ、気持ちよさを五感で感じて欲しいと思い移住を決めました。
写真:恵那山黒井沢登山口 ささゆりの保存や植生調査も行っています。
移住するまでこんなことありました
Uターンでしたので、実家があり以前住んでいた事もあり、とりあえず行ったらなんとかなるんじゃないかと言う、根拠のない自信であふれていました。それは、移住前から、いろんな方からサポートしていただき、元会社の先輩からは「頑張れ」とカヤックを積むための車を無償で頂いたり、カヤックで教室を開きたいと考えてから、東京の江戸川区の"みずかん"(水辺環境創造グループ)でカヤックのインストラクターとして、講師をさせて頂いたり、日本赤十字のライセンスのために通ったり、本当に沢山の方からアドバイスを頂いたり、支えて頂いた事も大きかったと思います。今でもその当時の方と交流があり、本当に、感謝しています。「人脈こそ資産」だと思います。
しかしながら、移住してからが予想以上の苦労が山積みでした。
写真:江戸川区のみずかんの仲間達
写真:移住前に色々相談にのって頂いたSAIブランドの結城さんと
移住後のライフスタイル
横浜で自動車会社の海外営業をしていた移住前とは、大きく変わりました。
前職では、朝7時に電車に乗り、1時間半かけて品川の会社へ行き、仕事や飲み会で終電で帰る事も多かったです。今考えても毎日3時間を移動時間に費やしていたのは非効率でした。ただ、決して恨んでいるとか言うものではなく、やりがいがあり良い経験をさせて頂いたと思っています。
現在の働き方は・・・
平日は 9:00-12:00は家時間(畑を見たり、家を直したり、薪を割ったり)
12:00-15:00は学習時間(人にあったり、打合せしたり)
16:00-20:00は仕事(学習塾)
休日は 終日 カヤックの体験教室
冬期は ワークショップやクラフト教室や講演
最初は時間を決めずに、田舎仕事は終わりがないので、ずるずるとやっていましたが、ある程度時間で区切った方が、体力的にも仕事の質的にも効率が良く、また天気によって計画通りいかない事も多いので、午前・午後を入れ替えたりフレキシブルに臨機応変に変更したりしています。
写真:移住一年目 顔サイズのサツマイモ 収穫は猪との競争です。
写真:基本的に、暖は薪ストーブを使っています。木工の端材や間伐材を使ってます。
移住してわかった地方暮らしの魅力
「自分の根気とやる気があれば、やりたい事はなんでもできる。」
私は、苗木城と言う山城の麓の木曽川沿いに120年ものの古民家に移住し2年目ですが、竹林・山林を管理し、現在は小さな畑やビニールハウスを建てて収穫しながら、生活しています。その中でも、筍や柿、原木のキノコ、桑の実などなど、既に収穫できつつあります。特に美味しいものが好きな方は、絶対に田舎に移住するべきだと思います。目の前の畑の採れたてのトマトのとうもろこしの水菜のフルーティな甘さ、シャキシャキとした食感は、食べた方にしかわからないと思います。
また、畑だけに留まらず、古民家の手直しからしているので、ある時は大工、ある時は左官、またある時はチェーンソー片手に木こり・薪割り、家の設計や配線までやります。中には法的に資格のいるものもありますが、専門家にこうしたいと相談しながら本当に0(ゼロ)から作り上げる事ができます。もちろん、お金を払って依頼する事もできますが、創る苦労が田舎・地方暮らしの楽しみなんだと思います。
写真:キッチンが元々土間だったので床を入れています。床下には竹炭を入れています!
写真:竹林や森もあるため、間伐もやっています。
そして、うちの敷地には天然記念物のニホンカモシカは毎週のように見かけますし、タヌキ、アナグマ、リス、ネズミ、うり坊。水辺には、サワガニや準絶滅危惧種のヒダサンショウウオが住んでいます。私自身は1人暮らしですが、彼らと作物の収穫競争をしながらワイワイと賑やかに楽しく暮らしています。そういった自然豊かな学びや暮らしは、大きな魅力の1つだと思います。
写真:家に現れるニホンカモシカ。ぼーっとしてて、おじいちゃんみたいなのでカモシカ 先生と呼んでいます。
移住先での住まいについて
よく、「移住する前にしっかりと準備して」と言いますが、確かに準備は大切ですし間違ってないですが・・・私はあえて、先に、移住先のエリアのアパートでもいいから現地に移住してしまえと思います。と言うのもネットでは検索できない埋もれている空き家・古民家は、本当に多いです。また、いい空き家・古民家はネットに掲載される前に売れてしまうし、よくあるのは空き家を持っていても「よくわからない方には売りたくない」「ある程度安心できる方に売りたい」と言う事が多くあります。だからこそ、先に行って人脈作りから行う事が良い住まいを探す一番の早道だと思います。
私自身もUターンなので、最初は実家に住みつつ、川沿いの物件を探していました。市の空き家バンクにも登録しましたが、良い物件には巡り合えず、結局、いろいろな知り合いの方に、情報収集をしながら、今の家を買うに至りました。
写真:我が家 全景。(崖崩れ前) こんなところに住んでいます。
移住先でのお金事情について
元々、いすゞ自動車に勤めて、海外営業をしていたので、その時と現在のカヤックだけで比べると、収入は、半分以下になったかもしれません。また、コロナの今年はカヤックでの、収入0(ゼロ)です。観光業なので仕方のない部分だと思います。
ただ、都会の時と比べると、圧倒的に支出は大きく減少します。また、私の場合は古民家を土地ごと買ってしまったので、家賃がかからないのも大きいです。
ざっくりの年間支出は・・・・・
税金 25万(固定資産税・所得税など)、
光熱費15万(電気・灯油)
※水道は湧き水(無料)、
暖房は薪ストーブをメインに使用(薪は調達)、
自動車25万(ガソリン・保険)、
通信費24万(スマホ・ネット)、
消耗品60万(食費や交友費や消耗品など)、
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計149万+α(保険・年金)
収入面は、私はその他にもいろいろな仕事しています。学習塾もそうですが、SNS活用の講演であったり、地域の活性化やブラッシュアップのワークショップ、ホームページ作成や、地域のネット対応などなど・・・
その事業費が上記とは別にかかったりしますが、年収200万があれば、暮らしては行けると思います。
写真:地域の活性化講演の様子 ご依頼お待ちしております。
移住先での暮らしで困ったこと
今年の夏の局所的な豪雨で、自宅の石垣が崩れて被災しました。
50メートル近く土砂が流れ出し、大事でした。市や県の方に相談しましたが、なかなか良い回答に巡り合えず、また、市や県の被災補助金の対象にもならず、本当に難儀をしましたが、被災して一番最初に相談した地元の石を専門に取り扱う建設会社((株)永冶建設)さんに重機を2台も使って頂き、なんとかもとの暮らしに戻れました。ここに至るまでに、色々な方にアドバイスやお知恵を頂きました。ありがとうございます。今となっては、いい経験だったと思いますが、もちろん2度と被災はしたくありませんが、被災し崩れ落ち流れ出した土砂を見た瞬間は本当に途方に暮れました。
写真:今年(2020)の集中豪雨で崩れた石積み
写真:改めて大きな根石を入れて頂きました。
無理なことは無理と諦めて、他者を頼る事も大切だと感じる毎日です。
事業を始めようと思ったわけ
学生時代から、競技でボートに乗っており、海外へ行き、また全国の多種多様な河川で漕ぐ中で、自分の故郷の当たり前だと思っていた自然環境が稀有な存在であることに気づき、それを多くの方に感じてもらいたい。守っていきたいと思った事が事業を始めるに至った想いです。自然の中で遊びながら学ぶことが日々の生活の中でも考えることのできる人づくりにもつながると考えられ、多くの人が自然体験を積極的に楽しんでいます。
写真:高校の全国大会にて
この自然保護・自然教育の活動は、自然の中で育ち、都会での生活を経験してその価値を知った私の使命だと思っています。
写真:夏に開催している恵那峡カヤックアテンドツアー
事業を始めるまでにやったこと
最初カヤックをやろうと見込んでいた場所で、カヤックができなかった事です。学生時代に漕いでいた場所で行おうとしたら、「安全が確保できない」「前例がない」などの理由で断られました。
その困った時に、お会いしたのが現在の私の師に当たる栗谷本征二さんです。山野草の知識が豊富で、地元の木材の端材からクラフトを作成したり、自然のガイドも行っています。この栗谷本さんにお会いできたことで、現在メインでカヤックを行っている椛の湖(はなのこ)オートキャンプ場を紹介していただいたりしています。この出会いが私にとっての大きなターニングポイントになったと思います。
事業を行う際に大切なのは、仲間やファンを増やすことだと思います。
写真:師匠 栗谷本征二さんと
カヤック&森の学校開校時の朝日新聞記事(2015/7/7)
事業の内容について
現在のカヤックの仕事は、
毎週土日開催 椛の湖オートキャンプ場でのカヤックの体験会、
毎月1回開催 高峰湖カヤックアテンドツアー、
夏休み限定恵那峡アテンドツアーなどを行っています。
ご依頼があればカヤックを持ち込んでのイベントのご提案します。
過去には、カヤック街コンや、カヤックでの河川清掃活動、なども行いました。
また、カヤックに限らず、
平日や冬期には、木を使った木育や自然ガイドや、その時期に一番良い場所をコースをお連れするガイドツアーを行っています。過去には、彼女に告白したいから貸切にできる絶景ポイントを教えて欲しいなどと言う要望もありました。
写真:高峰湖でのカヤックアテンドツアー 人工の音のしない山の中。
事業の今後のプラン
コロナの影響で今年は、カヤックを開催できませんでしたが、今後は移住した木曽川からカヤックに乗り歩いてはいけない場所でBBQなどをするプランも行いたいと考えています。いろいろ考えていますが、企業秘密です。是非、今後にご期待ください。
写真:家の前の木曽川 まだまだ、地方には知られざる魅力スポットが眠っています。
地方で起業して分かった面白さ、やりがい
地方に限らずですが、起業すればなんでもやる事ができます。ルールはないので、自分が仕事になると思えば、取り組んでいいんです。そういう意味でも、他者に与えられるわけではなく自分で仕事を見つけ出す面白さは大きいです。
特に地方や田舎であれば、まだ見出されていない魅力が埋もれています。
それを掘り起こして、自分の感性で磨き上げて光を当てることは、とても面白いですし、それによって、喜んだり感謝してくれる人がいるので、大きなやりがいを感じます。
実際に、カヤックの事業をはじめてから気づいたことですが、このカヤックをやっていると、初めてボートやカヤックにお乗ると言うお子さんが多いのですが、初めてなので乗る際にもビクビクしていますが、上がって来る頃には、簡単に1人でも進むようになって上がって来られます。その時に「楽しかったー、また乗りたい」と言ってくれます。この成功体験がとても大切だと思っていて、中には、体の大きな私にびっくりしたのかもしれませんが、最初、出会った時にはビクビクしてお母さんの影に隠れるようなお子さんでも、自信がついたのかハイタッチしてくれるようにまでなる子もいます。中には、お子さんのカヤックから上がってくる際に、涙を流されるお母さんがいて、怪我でもしたのかとびっくりしたのですが、詳しく聞いたら、一緒に乗ったお子さんが、まだまだ小さいと思っていたお子さんが、お母さんの疲れている姿を見て「お母さんの分も僕が漕ぐから休んでてよ」と声をかけられて、成長の嬉しさと同時に寂しさを感じて思わず、泣いてしまいましたと話して頂いた事もあります。
残念ながら今の学校教育は、どちらかと言うと、事なかれ主義で、何事も禁止される事が多いと思います。その中で、自然の中で、学ぶ体験活動の意義というものを、私自身学びましたし、このカヤックの事業を始めて良かったとこれからも続けていきたいと思わせてくれる瞬間でもあります。
写真:カヤックに乗ってくれた、お母さんと男の子
移住検討している方へメッセージ
やりたい事があるなら、自力でやれるところまでやってみる事!!
とりあえず、船を水に浮かべる事!!
移住相談を受ける事も多いですが、カヤックも一緒で自分でとりあえず、漕ぎ出して水に浮かべてくれないと船は進みません。準備も大切ですがある程度準備したら、漕ぎ出していいんです。そうしないと、いつまでも丘の上であれこれ悩んでも、目的地の島には絶対に到着はできません。もし、自分の乗った船が泥舟だったら、元いた島に泳いで戻ればいいだけですし、途中で漂流したり座礁しても、途中の島や漂流物で船を作り直してもいいですし、近くを通った別の人の大きな船に載ってもいいし、目的の島を変えたって良いんです。
写真:椛の湖(はなのこ)でのカヤック体験会 お一人1250円〜お乗りいただけます!
もし、何か私でお役に立てる事があれば、お気軽にご連絡ください。
写真:2人乗りカヤックを4台積み込み、ご依頼があればどこへでも行きます。
KAYAK UNIV.
watari2fune@gmail.com
伊藤来
(終わり) 執筆時期:2020年12月
LIFULL 地方創生からお知らせ
地方移住マッチングサービス「LOCAL MATCH」のティザーページ公開
【未来が描ける移住はじめませんか】
地方移住マッチングサービス「LOCAL MATCH」2021年5月サービス開始
LOCAL MATCH は、未来の「仕事」「暮らし」「将来設計」を事前に描ける移住プラットフォームです。
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