ビジネスパーソンのための成人発達理論についての「学びと実践」の軌跡シリーズ〜 その1 そもそも成人発達理論とは?〜
はじめに
最近、ひょんなことから学び始めた成人発達理論が
大変面白いです。
私個人の経験の棚卸しになることもあり、
今集中的に学んでいます。
アウトプットを通じて理解を深めたいと思い、
今回記事化してみることにしました。
書き終わってから気づきましたが、
これもLearningJourenyShareシリーズだと思ったので
第3弾として書いていきます。
(同時並行で増えすぎ 笑)
本記事では、
・成人発達理論の概要
・書籍に基づく成人発達理論の要約紹介(目次的なイメージ)
・会社組織と成人発達理論について
・学んでいる中で感じた私見
など書いています。
この分野へさらに踏み込んでみようと
思うきっかけになれば嬉しいです。
なお、この記事で紹介する成人発達理論は
主に以下の書籍の内容を引用・参照していますので
ご了承ください。
加藤洋平(2016).組織も人も変わることができる! なぜ部下とうまくいかないのか 「自他変革」の発達心理学 日本能率協会マネジメントセンター
成人発達理論とは?人間の2つの成長から捉える
成人発達理論では人間の成長を2つの方向性で捉えています。
以下は、書籍を基に作成した図です。
①垂直的成長
人間としての器(人間性や度量)の成長
例)PCで言う、OSに関するもの。
→今の社会では以下の水平的成長だけにフォーカスされているため、
こちらの分野の成人発達理論が注目されているそうです。
②水平的成長
私たちが発揮する具体的な能力(スキル)の成長
例)PCで言う、アプリケーションに関するもの。
日本では、それぞれの成長を取り扱う研究者がビジネスパーソン向けに
書籍を出しています。簡単な図にまとめました。
また、この2つの成長の方向性を捉えるときの
留意点を複数の書籍から引用します。
ここで注意が必要なのは、OSがないとアプリケーションは機能しないため、OSのほうがアプリケーションよりも重要だと思われがちなことです。ところが、実際の人間を見て観ると、キーガンたちの成長モデルでは、器のレベルを低く見られてしまいがちな人たち(例えば、他者の心を理解することはできないが、ある分野で非常に高度な能力を発揮するアスペルガー症候群の人たち)が、極めて優れた能力があることがあります。こうしたケースから、OSのほうがアプリケーションよりも重要だ、と一概に述べることはできません。
加藤洋平訳(2017). 成人発達理論による能力の成長 ダイナミックスキル理論の実践的活用法 日本能率協会マネジメントセンター (P30より引用)
これら2つ(OSとアプリケーション)は互いに独立したものでありながら、相互に影響を与えっています。そのため、私たちが全人格的に成長するというのは、器の成長が掛け合わさった時に初めて実現されます。
加藤洋平訳(2017). 成人発達理論による能力の成長 ダイナミックスキル理論の実践的活用法 日本能率協会マネジメントセンター (P20より引用)
書籍に基づくロバート・キーガンの成人発達理論の紹介
ここでは、日本で知られている発達理論の中でも
ロバート・キーガン氏の発達理論を通して紹介します。
引用・参照元は同じくこちらです。
この理論によると、
人間の心(意識 )は体のように成長・発達していくものであり、
そのプロセスはいくつかの段階に分かれています。
そして、この段階的成長は一生涯にわたって続くものである一方で、
一概に年齢によって決定されるわけではありません。
この段階のことを、発達段階(意識段階)と呼びます。
また、ここでは詳しく紹介しませんが、
キーガンはこの発達段階に関して、以下のようにも言っています。
人間の意識の成長・発達は、「主体から客体へ移行する連続的なプロセスである」(同著 P56から引用)
■発達段階の特徴
それでは、発達段階の特徴について見ていきましょう。
(1)それぞれの段階には固有の特徴と、限界(その段階では困難なこと)がある。
(2)段階が上がったとしてもそれまでの段階の特性が完全に失われるわけではない。
私たちは以前の限界を乗り越えていきながらも、完全に以前の段階を捨て去るわけではなく、一部の特性を受け継ぎながら新しい段階に到達していくのです。(同著P110より引用)
(3)発達段階は、常に一定・固定的なものではなく、置かれている状況や文脈で上下する。
言い換えると、
個人の心(意識)は常に複数の発達段階にまたがっていて、
その中を動いているということです。
他にも自分の体調や感情によっても変動しますが、
いずれにせよ平均的にどの段階に落ち着いているか
という平均値のようなものがあるそうです。
この平均値のことを「意識の重心」と呼びます。
(平均値という捉え方は、私の解釈です。)
そして、この「意識の重心」を中心として
揺れ動く発達段階の幅のことを「発達範囲」と呼ぶそうです。
そのため、この「意識の重心」が上がっていくことが
心(意識)が発達していくことと言えます。
では、
発達していくとどんなことが起こるのでしょうか?
こちらについても書籍から要約して紹介します。
■心が発達する(意識段階が上がる)ことで起こること
(1)世界の見え方が変わる
①広がり:視野が拡大し、これまで気づけなかったことに気がつける。
②深まり:物事の機微や深みに気がつける。
(2)曖昧さに対する耐久性が増加する
他者のみならず、置かれている環境も含めて、
私たちを取り巻く曖昧なものをより受容することができるようになる。
(3)知識や経験の取り入れ方が変わる
(4)質的に異なるアウトプットを出す
いずれも具体例がないため、分かりにくいかもしれませんが
詳細は書籍に委ねます。
気になった人はぜひ読んでみてください。
成人発達理論を活用する上での留意点とは?
私が入門的に読んだ書籍の中には
活用していく上での重要な留意点が紹介されていました。
【発達理論は単純な上下を判断するために使われることを良しとしない】
発達理論のレベル分けと一般的なランクづけとの違い
(1)一般的なランクづけ
ランクの高いほうが良く、ランクが低いことは悪いという前提があるため、抑圧や差別が生じうる。
(2)発達理論のレベル分け
抑圧と差別を認めない。各意識段階が持つ固有な価値を尊重する。
私は現時点で、発達理論に関する書籍は4冊(うち3冊読了)、
web上で公開されている邦訳論文1つを読みましたが、
本テーマで引用した著者の書籍以外では見受けられませんでした。
(見落としているだけな気がします。。)
そのため、
上記の主張は発達理論に書かれているというよりも、
著者が直接研究者と触れ合う中で学んだこと、
あるいは、
著者自身がこの情報に触れるときに
推奨したいスタンスではないかと思いました。
個人的に、この上下を作らない姿勢に共感しました。
ロバート・キーガンの成人発達理論図
それでは、ここからは具体的にロバート・キーガンの
発達理論をまとめた図を紹介します。
(1)それぞれの発達段階と特徴について
補足)
・ロバート・キーガンの発達理論は大きく分けると5つの段階ですが、
実際には16の段階に分かれているそうです。
→つまり、個人の発達段階は、この16の段階の中の、その時点での「意識の重心」に基づく「発達範囲」の中で揺れ動いているということです。
・私たちは自分よりも上の意識段階を理解することができないと言われている。
→このことは、上司と部下のすれ違いの要因の1つと言えるでしょう。
(本人が)どんな言葉を使っているか以上に、それらの言葉をどのような意味でどういうふうに使っているのかで発達段階が明らかになっていきます。(同著P72より引用)
(2)それぞれ次の段階に行くためのヒント
補足)
・ヒントは、それぞれの発達段階の限界を超えるためのものであると同時に、裏返すことで、それぞれの段階の人が持つ限界についても教えてくれています。(いずれもこれで全てではなくあくまで一部)
・同じくヒントは、解釈の余地が大いにある簡略化になっているため具体的に気になると思いますが、ぜひ書籍を通じて学んでみてください。
成人発達理論と、実際のビジネスシーン
書籍の中では、プロフェッショナルとは、
単純に何かの専門知識のある個人ではなく、
自律的・主体的な行動ができる個人のことを指していました。
ちなみに、
記事上部で紹介した人間の2つの種類の成長のうち、
水平的成長は能力に関するものです。
発達段階の高低に関わらず、能力が卓越している人も
たくさん存在しています。
そういった意味で、
仕事のプロフェッショナル=発達段階が高いとは
一概には言えません。
その上で、発達段階との関係について
このように紹介されています。
段階3のプロフェッショナルは、業界固有のベストプラクティスに盲目的なところがあります。要するに、彼らは業界で浸透している考え方や理論に従順であり、そこに自分なりの知見を加えるということができないのです。その結果として、クライアントは多様性に溢れているのに、画一的なアプローチしかできないということに陥りがちです。
それに対して、段階4のプロフェッショナルは、業界固有の考え方や理論を客観的に眺めることができ、さらに自らの経験や考え方と照らし合わせて、独自の理論を構築することができるようになってきます。
その結果、業界固有の決まり切ったアプローチを鵜呑みにするのではなく、クライアントの特性に応じたアプローチを採用することができるようになってくると思います。(同著P163より引用)
こう考えると様々な企業で求められている優秀な人材とは、
段階4以上の人材と言えますね。
指導者側はそういった人材を育成したい一方で、
本人が気づきにくい盲点があります。
それは、組織にも発達範囲があるという視点です。
引用します。
「単純に個人の意識段階の合計が、組織の意識段階を表すわけではないのですが、〜中略〜 個人は、間違いなく、集合意識に引っ張られてしまうのです。これは避けられないことでもあります。
というのも、集団や社会は、極めて強力な求心力を持っており、個人の意識段階が集団の意識段階を逸脱しないようにするような働きかけをするのです。」(同著P125より引用)
このメリットとしては、
「組織の、意識の重心」があるとすれば、
その重心まで個人を引き上げてくれる作用が働いている
ということです。
例えば、重心が発達段階3にある組織は、
発達段階2にある個人を3まで引き上げてくれる環境であると言えます。
一方でデメリットは、
同時にその重心に留めてしまう力も働いているということです。
例えば、組織の重心が段階3の会社の場合、
・上司は偉く、部下は偉くない。年次の上の者は偉く、年次の下の者は偉くない、というような思い込みが蔓延している
・ポジションや年齢が上の人に対して、自分の考えや意見を伝えにくいような心理的なブレーキが存在している
といったケースがありえるということです。
こうした重心に基づくメカニズムが生まれている組織の中で
個人単位で一方的に、自律的ではない部下を糾弾しても、
双方にとってただ疲弊するだけの無駄足かもしれないのです。
実際に大企業に対して支援されている方は、
ある会社組織で発達した個人は辞めてしまう
という事例を話していました。
これは、会社側からみたら悲劇ですよね。
求める人材に成長したと思ったら
その人材にとって適切・魅力と感じる環境ではないため、
卒業されてしまったという悲劇。
(単純化して言っています)
一方で、個人に視点を変えると、
「会社組織とはある段階まで自分の意識を
成長させてくれる場である」という捉え方ができます。
人生100年時代と言われて久しいですが、
終身雇用に慣れている人がまだまだ多い日本においては
今後、この捉え方はより広がっていくかもしれませんね。
一方の会社組織としては、これまでインセンティブとして
働いてきた、働くと思ってきた給与・福利厚生以外に、
段階4以上の個人にとって充実感を感じられる要素を作っていくことが個人 から選ばれる会社組織にしていくために必須条件となっていくのかもしれません。
さいごに
繰り返しになりますが、今の私にとって
非常に面白い分野で、もっか探求中ですが、
すでにいくつかの問いと仮説が生まれています。
例を紹介します。
【問い】
書籍で紹介されているのはあくまで
仕事のフィールドにおける発達の話だと思えており、
例えば家庭などのフィールドとはどう関連してくるのか。
なぜならば、家族との関係、恋人との関係においては、
仕事の上で発達段階が表出している行動と
質が異なる行動が起こっているケースも多々見受けられるからです。
(私も含めて 汗)
【問いに対する仮説】
仕事も、家族も合わせた(あくまでその時点でのという意味での)人生という枠組みでの発達範囲、重心というのもあるのではないか?と妄想しています。
【別の仮説】
組織の意識の重心に大きく影響しているのは、その組織のトップ層と、マネジメントの日常の関係性・コミュニケーションに表出している発達段階なのではないか。(これは、小さい会社であれば、コアメンバーとの間、大企業であればトップと、現場に最も近い責任者の間の話。)
これらはまだまだ考察中ですが、
まとめられたら紹介したいなと思います。
今回は私が友人に説明する上で「まずはこれを読んでみて!」と
ライトに言える記事を用意しておこうという狙いもあって
私の認知できた範囲で最低限知っておくべきだと
思ったポイントについて載せました。
そのため、長文になってしまいましたが
他に役立ててもらえる方がいればシェア大歓迎です。
ひとまず、今回のLearning Joureny Share はここまで。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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