すずめの戸締り
地震を呼び寄せる扉を閉めて回る、日本縦断5日間の旅。
ウルトラヒットメーカー新海誠監督の最新作。
面白かったです。
終始テンポが良いし、コミカルな場面も多くて楽しめました。
見せ場も序盤・中盤・終盤それぞれにスケール感のある映像があってワクワク。
またロードムービーということで、日本各地のロケーションの豊かさも相まって飽きませんでした。
主人公のJKすずめと椅子になった青年ソウタのやり取りは微笑ましく、2人が旅先で出会う人たちの温かさにはほっこり。
みんな人間味に溢れていて、主人公を助けます。旅は道連れ世は情けとはよく言ったものだなと。
個人的には途中から旅に加わる芹沢君がナイスでした。
また挿入歌に懐メロが多く使われているのも印象的。
女の子が旅に出るって「魔女の宅急便」っぽいなぁと思ってたら後半でユーミンの「ルージュの伝言」笑。もろですね。
振り返れば兵庫で出会うルミさんはどこかオソノさんっぽいような。
話もこれまでのように日本の神話や宗教をモチーフとしたオリジナルの展開。
日本各地で起こっていた地震はいずれも「後ろ戸」と呼ばれる扉から「ミミズ」という意思を持たない力によるものという設定です。
「後ろ戸」はそこに住む人々の営みが途絶えると開いてしまうそうで、それを閉じて地震を防ぐために「閉じ師」であるソウタは日本を旅して回っていました。
そんな彼にホの字になってしまったすずめは後ろ戸を開けてしまい、何なら「要石」という大地震を収める石まで引っこ抜いてしまい、そのせいでソウタは椅子になってしまい、学校をサボって扉を閉める旅に出るも、手掛かりとなる元要石のネコ(ダイジン)には振り回されてしまい、育ての親であるおばさんにはボロクソに言われてしまいます。そう、ほぼすずめのせいです笑。
というのは冗談ですけども、ざっと設定とあらすじはこんな感じでした。
「君の名は。」では彗星、「天気の子」では雨とそれぞれ災害を描いてきた新海監督が、今回扱ったのは地震。かなり直接的ですね。
それも東日本大震災にも繋げられています。
僕も事前情報でチラッと聞いていたため身構えていたとはいえ、劇中で3.11の文字を見た時は心にズシンとくるものがありました。
あれも振り返ればもう12年も前のこと。
今の小学6年生までの人たちは生まれてないんですよね。
中学、高校生もおそらく記憶はあやふやだと思います。
あの日、津波によって一瞬にして瓦礫となった家々が押し流される模様を、僕はただテレビで見ていることしか出来ませんでした。
その後ボランティア等で2度被災地に行きましたが、聞こえるのは波と風の音だけで。
震災は命や景色、そして音までも奪っていったのかと行って初めて気づきました。
人によってはデリケートな題材ですので賛否分かれると思いますが、僕個人としては新海監督が描いたと言うその事実が大きな意味を持つと思います。
僕みたいな無関係な人達が3.11のことを忘れないでいられるし、何より当事者の方々を置き去りにしない姿勢が素晴らしいなと。
また「天気の子」公開時、新海監督がインタビューで「今の東京をアニメーションに残しておきたかった」といってました。
今作で出てくる東北は、3.11以降の姿。
クライマックスですずめが辿り着く「常世(あの世的な場所)」も被災地のようでした。
これから時間が経つにつれて、東北の復興は進んでいくでしょう。
僕がニュースで見ていたあの景色は非現実味を増し、人々が戻り、建物が立ち、そこに新たな営みが生まれてくると思います。
反面、震災を知らない世代はこれからもどんどん増えていく。
そんな人たちに向けて、監督は今の東北の姿を残しておきたかったのかもしれません。
主題歌のカナタハルカもRADWIMPSらしい優しいメロディと歌詞で、エンディングは自然に目が潤みました。
ツッコミどころとしては、散々イライラさせたダイジン、ちょっと説明不足にも程があるかなーと。
あと、ソウタがイケメンでなくてその辺の普通のおっさんやったら何も起こらんかったんかなとか思いました。笑
ともあれ、
自分を救えるのは自分だけ。
取り繕わないで。1人じゃないから。
という厳しくも温かいメッセージを込められた良作でした。