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フィードバックが生み出す無能感

人の成長にはフィードバックが重要であると言われる。フィードバックは当人の立ち位置を知らせ、その立ち位置から今後向かうべき方向性や改善を促す情報元になる。ビジネスパーソンはつねに成長を求められる。成長に向けた情報源としてフィードバックは貴重なものだ。フィードバックは栄養であり、成長に向けた材料になりうるものだ。

でも、ほとんど場合、そううまくいはいかない。どううまくいかないのか。フィードバックが成長への情報源にはならず、むしろ、当人の無能感を深めてしまうという問題だ。フィードバックをもらった人は、自分は有能ではないと思ってしまうのだ。どうしてそのようなことになってしまうのだろうか。

フィードバックが成長の情報源であるという理屈はこうだ。フィードバックは、自分の現在地を教えてくれる。たとえば、今、自分は80点の仕事をしているのだ、という具合に。となると、あと20点埋めればよい。その20点を埋めるためには、どうすればよいだろう。この思考こそが、成長を可能にする。でも、実際はそうはならない。なぜか。

ぼくは、立場上、フィードバックをおこなうことが多い。人材を育てる、そのためにフィードバックが必要だし、マネジメントの役割上、おこなうべきことだからだ。これまで、たくさんのフィードバックをしてきた。そのなかで、なぜ、フィードバックが相手の無能感を深めるのか。そんなことをずっと考えてきた。

経験上、フィードバックが無能感を招くのはこういうケースだ。ぼくが相手にフィードバックをする。相手の現在地が80点だと伝え、100点になるために何が必要かを伝える。でも、相手が自分の仕事を90点だと捉えているとするとどうだろう。そこには10点の差が生じる。自分が思っていたほど自分は仕事ができていなかったのだとガッカリする。この10点の差が無能を感じるように作用する。

問題はそれだけじゃない。この10点の差による無能感の程度が、人によって異なることである。この10点の差にはがっかりしたけれども気を取り直して頑張ろうと思えれば、まだ、マシである。この10点の差で、やっぱり自分は仕事ができないんだ、なんて自分は無能なんだ、と世界が終わったように傷つく人もいる。

なぜ、こんなことが起こるのか。一言でいえば、フィードバックによって無能を感じる人は、自分に対する理想が高いという特徴がある。理想と現実のギャップによって無能を感じてしまうのだ。誰でも自分が有能な存在でありたいというと思う気持ちはわかる。でも、その自分への期待が現実とのギャップをつくりだし、無能感に苛んでしまう。

そういう意味で、大事なことは今の自分が有能であると思えること、つまり、今のままでもよい、とおもえる自己肯定感が大事なのである。日本人は外国に比べて、自己肯定感が低いとされる。自己肯定感が低いがために、フィードバックが栄養ではなくて、自分を傷つけるものとして捉えられてしまう今の事態は好ましいとはいえない。ぼく自身、相手が受け取りやすいフィードバック方法を日々考え続けるとともに、自己肯定感の向上にも貢献していきたい。


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勝又康仁 人事と組織開発 HR&OD
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