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追憶の中のカフェを探しながら
相変わらず、転職先の業務の難易度に追いつくための勉強と睡眠不足が続いている。近頃の若いもんは阿修羅観音の如くマルチタスクをこなしており、私もそれに必死に追いつこうとしてはいるが、ついにクラクラっとなったため、現実逃避のためにデンマークへ週末旅行に出かけることにした。
以前からデンマークの友人に誘われていたのだが、さほど乗り気ではなかったため訪問を決めかねていたのだ。
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何故、デンマーク訪問に乗り気ではなかったのか。
外国旅行において、私が楽しみにしている活動の一つは、買い物なのであるが、物価が高い国における買い物は楽しくないのである。スウェーデンから出向くと、デンマークはとにかく物価が高い。スウェーデンでは一万円のものが一万六千円ぐらいになる。
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弱小スウェーデンクローナを抱えて旅行をしていればいずれの国も物価は高いが、デンマークは特に高い。スウェーデンでさえ物価が高いと感じていた日本人旅行客が以前言っていた。
「デンマークで買い物する時には日本円に換算することは止めた。そういうものだと諦めることにした」
以前の物価は、デンマークもスウェーデンもほぼ同等であったイメージがあるが、いつの間にここまで差がついてしまったのか。と、嘆いていても仕方がないので、最近はデンマークに所用がある時は、出来る範囲で節約をしている。
すなわち物価の(多少)安いスウェーデンのマルメに宿泊して、電車でデンマークへ出かけるのである。同じ金額のホテル宿泊料であれば、デンマークにて宿泊する時は、かなりレベルを落とさなければいけない。
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25階建てのそのホテルの16階の部屋からは夜のマルメが一望できた。
夜景が幻想的になっているのは、窓ガラスがあまりに汚いからである。25階建てのホテルの窓ガラスを清掃するのも命懸けであろう。
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午後のストックホルム行きの電車に乗るまで時間があったのでマルメを散策してみた。
マルメは過去にも数回訪れたが、時々追憶に浮かぶ情景がある。
テレビ番組の収録でマルメを訪れた時のことだ。撮影が終わったあと、コーディネーターの日本人青年、デンマーク人の若い女性カメラマンと私の三人で夕食を頂くところを探していた。
「ここにしよう」
日本人コーディネーターが、こじんまりとしたカフェレストランの前で立ち止まった。
「こういうところが結構穴場なんだよ」、彼はそう言ってカフェレストランのドアを開けた。
彼の見込みに間違いはなかった。
ムール貝の白ワイン蒸し、これを堪能をしたのはこの時が初めてであったと記憶する。長時間の撮影で疲れ切ったあとの夕食とワインは格別であった。
今回、散策をしながらも、そのカフェレストランを探し当ててみたかった。広場の右手の細い道を少し歩いて行ったところに佇んでいたと記憶している。
しかし、それは果たしてどの広場であったのであろう。マルメには広場が数か所もある。それかな、とも思えた広場はあったが、右肩には、細い道というよりは、往来の激しい車道が通っていた。
コーディネーターさんに連絡してみようか。
彼の名前は憶えている。連絡先はわからないが、彼の母親とは多少付き合いがあった時期もある。
しかし、たとえコーディネーターさんとなんとか連絡が付いたところで、果たして、彼はあのカフェレストランを覚えているであろうか。
なにせ十年も前のことである。
また、記憶とは都合の良いもので、実際に訪れてみたら、記憶の中の姿のとはまったく異なっていたということもある。また、右側だと記憶をしていても実は左側だったということも往々にある。
電車の出発時間も迫って来たため、不発の感を抱えながらも、預けたスーツケースを引き取るためにホテルの方角へ歩き始めた。
途中、城址公園があったため、中を通過することにした。「市民の憩いの場」、という表現が最適な空間であった。
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城址公園を歩いているうちに、思い出したことがある。
あの日、私たちは、この公園でも撮影を行っていたのだ。
そのような大掛かりな行事でさえも、十年の月日からはまったく欠落していた。かつて、この場所を訪れたことでさえ追憶からは抜け落ちていたのだ。
結局、人間とは忘れる動物であり、過去を忘却したり、清算することが出来るため、前進することが可能なのかもしれない。
しかし、あのカフェレストランは是非もう一度訪れて、あの晩の追憶に浸ってみたかった。
かりにあの場所にまだ佇んでいるとしたら。
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というわけで、生存報告と週末旅行記でありました。ようやく日本にも秋の兆しが感じられるようになったようで、一安心です。季節の変わり目、皆様どうぞご無理をなされませんように。