書評「奴隷のしつけ方」~あれ?これってサラリーマンと同じじゃないか?~
今回は、この本をご紹介します。
マルクス・シドニウス・ファルクス著「奴隷のしつけ方」
この本は、古代ローマ時代にマルクス・シドニウス・ファルクスが書いた書物を、現代人語訳した書籍です。
何が学べるのか?
・サラリーマンと奴隷の共通点
・経営者の視点
・サラリーマンは経営者から何を求められているのか
会社で働くことに違和感を感じる方、自由の利かなさに疲れている方が読むと、今感じている不満を客観的に理解できるようになるかもしれません。
会社経営者、または会社員の方は本書に共感できると思います。会社とはどんな存在で、そこで働くとはどういう意味を持つのかがわかるようになると思います。
本書はどんな本?
古代ローマの貴族は大勢の奴隷を抱え、彼らに働いてもらい、豊かな暮らしをしていました。
貴族が所有する土地と、そこで働く奴隷たちを合わせて、ファミリアと呼びます。
貴族はこのファミリアの管理、運営、そして拡大を常に目論んでいたのです。
そのためには奴隷に最大限働いてもらう必要がありました。
奴隷は人間ですから、適切な人選と、配置(どんな仕事を任せるか)、労働管理が必要なのです。さもないと、資産を食いつぶすだけの負債になってしまいます。
そこで、マルクスはどうすればいい奴隷を手に入れ、彼らが気持ちよく働くようになるのか。そのHow toを書き記しました。
その現代語訳版が本書というわけです。
読んだ感想は
現代の会社=古代ローマのファミリア
企業経営者から見たサラリーマン=古代ローマ人貴族から見た奴隷
そう思ってしまうほど、この本に書かれた内容が現代の労働管理に似ていると思いました。
先に断っておきますが、サラリーマンは奴隷だ!というアナーキズムプンプンの意見を発信するつもりは毛頭ありません。
ただし、会社経営者と奴隷主は、程度の差こそあれ同じ考えだと思います。
古代ローマの貴族も、現代の経営者と同じように、「利益を最大化するために、一生懸命に働いて欲しい」と願っていたのです。
実際に、どれくらい奴隷とサラリーマンの募集と働かせ方が似ているか比べてみます。
ファミリアの奴隷の募集と働かせ方
1. 奴隷市場で奴隷を物色
2. 奴隷に神経薄弱な部分、怒りっぽい部分、前科などないか確認
3. 奴隷の特性を見極めて、つかせたい労働を選ぶ
4. 奴隷に仕事を実地で教える
5. 奴隷に労働意欲を湧かせる為の方法を色々と考案する
会社における社員の募集と働き方
1. 求人募集をかける
2. 面接
3. 適性の診断
4. 研修と実地での教育をして仕事を覚える
5. モチベーションマネージメント、キャリア構築を軸に働く
もちろん、会社員は売り物ではありませんし、市場に売られているわけでもありません。しかし、高いお金を払って雇い、十分な働きがあって初めて利益が発生する。ここは共通点だと思います。
その他、奴隷を働かせる上で必須の手段がいろいろと書かれていました。それらはおおよそ「あれ、これ経営者がサラリーマンにやってるのと同じじゃないか?」と思ってしまう内容でした。
奴隷とサラリーマンやっぱり似てる
奴隷にも、サラリーマンにも共通して言えることは「利益を最大化させるためにバリバリ働いて欲しいと思われている」ということです。
なので、奴隷に対して鞭を打ちながら無理やり働かせる。といったステレオタイプと異なり、労働環境を整え、適切な量の給料(食料)と衣類、住居を提供する。といったシステムがあったそうです。
もちろん、この給料、奴隷に対する接し方は、ファミリアの経営者によってまちまちだったそうです。ひどいファミリア(=ブラック企業)では、重労働に加えて少しの食料しかもらえません。一方で良いファミリア(=ホワイト企業)はそれなりの生活ができたようです。
これだけ聞くと、サラリーマンも勤務中は奴隷と同じような管理下にあると考えてもよさそうです。
ということで
「会社で理不尽な要求を受ける。会社の経営方針が納得できない!」
そう思ったら本書を手に取ってみてはいかがでしょうか?
経営者が何を考えているのかわかるようになると思います。経営者はとても冷静で身勝手な考えのもと、利益の最大化を図っているのです。それが理解できれば、多少の理不尽も客観的に受け止められると思います。
詳しい読解は追って投稿します。その前にどれくらいサラリーマンと奴隷の労働管理が似通っているのか、いくつかの記載事項を抜粋して比較してみましょう。
具体的にサラリーマンと奴隷の共通項を感じた箇所
哲学者のセネカは、奴隷として一番いいのは家内出生奴隷(奴隷から生まれた奴隷)だと考えた。第1章奴隷の買い方より
新たに奴隷になった者たちはまだ湿っている粘土のようなもので、主人の意のままに整形できると考える人は少なくない。第1章奴隷の買い方より
次の段階は教育である。子供の教育が人格形成に影響を及ぼすことは周知の事実だが、奴隷の場合も指導と訓練が重要で、その内容は任せる仕事に応じた適切なものでなければならない。だからこそ、多くの場合、すでに奴隷だったものより新たに連れてこられたばかりの奴隷を買う方がやりやすく、うまくいくといわれるのである。第2章 奴隷の活用法より
この文は日本の新卒一括採用と似ているように感じます。若い者をまっさらな状態で採用する。そして、会社の仕事を覚えさせて働けるようにする。奴隷主にとって、好ましい存在は従順な労働者だったというわけです。そんな現代の会社の考えと似たものがあるように思います。
奴隷を買ってきたらすぐに仕事を教え始めてかまわない。まず言葉で納得させてからという人もいないわけではないが、バカバカしい。(中略) 奴隷に必要なのは仕込むことであって、野生動物を手なずけるのと同じだ。第2章 奴隷の活用法より
これは実務訓練、on the job training(OJT)と似たものを感じました。教育を施すのではなく、実地で仕事をさせながら働けるようにしていくというわけです。
奴隷に与える食品や量を決める際には、薬を処方する医者のようでなければならない。奴隷一人ひとりに対し、その仕事にふさわしいと同時に、奴隷という身分にふさわしいものを与えなければならない。奴隷の食事は純粋な栄養補給であるべきで、贅沢をさせてはいけない。第2章 奴隷の活用法より
食料と同様に、衣服も働きに応じて与える 第2章 奴隷の活用法より
奴隷たちにはそれなりの寝場所を確保してやらなければならない 第2章 奴隷の活用法より
これは、仕事の難易度に応じて給料が増減する給与制度に似ているように思いませんか?
まとめると
ファミリア
食料、寝床や衣服などは働きに応じて現物支給
会社
現金をまとめて支給し、その範囲の中で各々が衣食住を確保する。
少なくとも私は、保障という意味では全く同じ構造だと思います。
そして面白いことは、奴隷に対してもモチベーション管理やキャリアプラン構築などを施していたことです。
さんざん苦労したのに怠けていた奴隷と同じ食事しかもらえないとしたら、どんな奴隷でもやる気をなくす。第2章 奴隷の活用法より
奴隷一人ひとりに長期目標を持たせることも重要である。一生懸命働けばいずれ自由になれるという希望を持たせてやるのもいい。第2章 奴隷の活用法より
会社でも長期目標やキャリア構築を求められますが、先を見て一生懸命働いて欲しいのかな。と穿った見方もできます。
子供を持たせるのも良い方法だ。懸命に働けば家族が持てるというのは喜びであり、いい刺激になる。逆にもし期待を裏切ったら罰として子供を別の主人に売ってしまうこともできる。第2章 奴隷の活用法より
奴隷に子供を作らせて、その子を人質にするという考え方です。これはひどい。と思いつつ、サラリーマンでも同じような状況があります。それは結婚をして子供を持つと起こります。
今の時代、子供を売り飛ばされることはないでしょう。しかし自分が働かないと子供が、そして家族が露頭に迷います。なので、クビにならないように会社の命令に素直に従う。そう考えると、間接的に人質を取られているとも思えますね。
こういった感じで、古代ローマの奴隷は、自由の程度こそ違え、現代のサラリーマンと同じような暮らしをしていたのだと推察できます。
読み物としても大変面白いのでお勧めです。
こちら、読解していく予定ですので、良かったらそちらも読んでみて下さい。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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