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アレクサで認知症カラオケ 〜人生って素敵なものですね〜

かれこれ86歳になったmy母。数ヶ月前に要介護4と認定されました。できなくなったこと、いっぱいあります。ついに自分でトイレにいけなくなりました。それ以外にも、携帯で電話をすること、メモに自分の気持ちを綴ることも難しい。そして何を話していいかわからないため、人と話すこともなくなり、声も出なくなってきました。

認知症がきっかけでできなくなることは多くありますが、「声がでない」というのは、機会さえあればある程度は復活するのではないか、と思い、取り組んでいることのひとつに「アレクサカラオケ」があります。母は戦後入ってきたアメリカカルチャーが好きだったため、amazonミュージックでかけているのはナットキング・コールやプレスリー、ジャズなど。でもそれらの曲は自分で歌うのは難しいため、ただのBGMでした。でもプレスリーの曲がかかっているときに英語でアレクサの画面に歌詞が出てきているのを見て、これはカラオケができるなと気がつきました。

初めてアレクサカラオケをした日の話。
「ねえねえ、日本の歌手で好きな人っていないの?」と尋ねると、うーん、、と考えて答えません。ボソッと「いないね」とのこと。しかし若い時には歌番組を見ていたこともあるので、誰かしらは聞いていたのだと思うのです。だれだったかなあ、、、と記憶を辿っても歌手が浮かばなかったのですが、ふと、家から持ってきたmy母のコーヒーカップを見ると「misora hibari memorial hall kyoto」と書いてあるではないですか。「ねえ、美空ひばりは好きだったんじゃないの?」というと「ああ、そうだね。」と返事。ではでは、とアレクサに美空ひばりをかけてもらうと、歌詞が画面に流れてきました。「これ、一緒に歌おうよ!」というと、にやり、と笑うmy母。それで、アレクサの選曲で流れるがままに、美空ひばりをボソボソと歌う親子。

だんだんと興に乗って「もっと声出すといいよ!」と掛け声をしたり、一緒に左右に揺れたりしながら歌います。“港町十三番地”や“みだれ髪”など、音の変調が多くて難しいひばりちゃんの曲。でも、発声練習としてはなんだっていいんです。だんだん、母のためというより自分もストレス解消にと割と大きな声で歌ったり。調子が乗ってきたところに流れてきたのが“愛燦燦“でした。「雨〜潸潸(さんさん)と〜 こぉのぉ〜身に落ちてぇー」と気分良く歌います。この曲、必ず「人生って○○なものですね〜」で締めるのですが、これがまた胸にぐーっとくるんです。最初は「人生って不思議なものですね」。2番目は「人生って嬉しいものですね」。3番目は「人生って素敵なものですね」。4番目は「人生って不思議なものですね」。最後に「人生って嬉しいものですね」。この「じぃ〜んせぇ〜えええええええてぇ」のフレーズのときに、my母と顔を見合わせるのですが、泣かないようにするのがもう大変。泣くと、いずれmy母が歌えない日が来ること、一緒に歌えなくなる日を想像してしまっていることが透けてしまう気がして、泣かないように食いしばって歌い上げました。一方my母はそんな私の調子外れの「じぃ〜んせぇ〜えええええええてぇ」に毎回爆笑していました。まあ、それはそれでよかったよかった。

こうしてアレクサカラオケは成功に終わり、これからはmy母を訪れた時には必ず何か歌うとするか、と考えながら、施設を後にしました。家に帰る夜道、バスに乗らず歩いて帰りました。歌詞を覚えていない愛燦燦はまったく歌えないのですが、最後のフレーズだけ、声を出して歌いました。「じぃ〜んせぇ〜えええええええてぇ、すてきぃ〜なものぉでぇすねぇ〜」。そしてホロリ涙。「人生って、素敵なものですね」。これって本当に、いい言葉です。

その後も、アレクサカラオケ、続けています。関連したおすすめに、テレサ・テンや石川さゆりなどが出てくるため、美空ひばり以外にもレパートリーが増えました。声を出す以外にも、過去の記憶が蘇り、認知症にはぴったり。注意点としては、歌うというのも、体力を使うこと。ほどほどに、疲れすぎないほどに歌う、というのがどうやらよさそうです。


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