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企業が人材を育てなくなった時代に僕たちは

この夏、選挙の影響もあって僕は300社以上の企業訪問を行いました。多くは中小零細企業で、社長や役員の方からお話を伺います。さまざまお話を伺った中で最も話題として上がったのが経営状況はどうかという点でした。コロナの影響はどうだったのか、ということです。

企業によっては「逆に業績上がりましたよ」なんてところもありました。ただ、業績に関係なく共通していた悩みが人材についてでした。

慢性的に人手が足りない
・・・でも育成する気はない

え?なんじゃそりゃ?
となって毎回ちょっと詳しく社長さんたちに聞いてみたことをまとめます。

なぜ中小企業は人材育成をしなくなったのか

人手が足りないのに育てないのには深いわけがありました。メモに残していた中小企業社長等の声を書いていこうと思います。

資金の余裕がない派

サラリーマンをしていると知らないことも多いのですが、従業員を雇用するにあたっては給料以外にも多くの経費が必要です。例えば社会保険料は半分会社負担です。他にも雇用保険、退職金、業務に必要な道具など多くの経費がかかっています。

飲食店オーナー
「客は少しずつ戻ってきたけど、まだまだキツイ。これからコロナで借りたお金の返済も始まるし、早く(コロナが)収まってくれることを祈るしかない」

観光会社社長
「(業界内での)倒産、閉業の話もよく聞きます。コロナ融資を借りたはいいけどみんな返せないんですよ」

クリーニング会社管理職
「熟練のパートさんを社員にしたいとは思っているんですけど、社員にすると経費が多くかかってしまうから無理。ましてや未経験の新人を正社員で雇うとなると相当厳しい」

これまでのコロナの影響もあって、資金繰りが苦しいという企業がたくさんありました。その中で社員の育成に予算が割けるかと言われれば厳しいところなのでしょう。

時間の余裕がない派

日本の企業の99%以上は中小零細企業です。大手企業であれば10年20年スパンで採用計画立てて人材を確保し育成していくのですが、目の前にある仕事をクリアしていくことで目一杯の小さな会社は採用計画よりも事業計画の方が大事です。

中小企業が採用活動をする理由は「今」人手が足りないからであって、将来を見越して安定して人材を確保することではないのです。

設備会社の社長
「仕事はあるんだけど、物が入ってこないから売り上げが立たない。物価高も重なって仕入れがキツイけど、職人を切るわけにはいかないから手出し(会社負担)しながらやりくりしてる」

建設会社社長
「大手ゼネコンの現場はある。でも社員じゃないと現場には入れられない。昔は資格持っているやつを臨時で雇って必要な時だけ働いてもらうこともできたんだが、管理が厳しくなって正社員で事前に登録しておかないと現場サイトに入れないんだ」

I T企業社長
「うちは従業員も少ないので、すぐに仕事に入ってもらえないとキツイですね。勉強してからきてねと言っています」

飲食や観光、接客業などを除き、経済は回っているので仕事自体はあるようですが、仕事をこなすことができる人がいないとのこと。中小企業が欲しいのは若くて未経験ではなく、歳はいっていても経験者が良いという傾向がありました。

すぐやめてしまうから無駄派

最も衝撃的だった理由がこれでした。「(人材育成は)無駄」の一言。それもいろんな業界で口々に言われていました。

インテリア設備会社社長
「職人が不足しているからこちらも一生懸命教えるんだけども、気に入らないことがあるとすぐ辞められてしまう。こんなのが続くとこっちもやる気無くなっちまう」

土木会社社長夫人
「2〜3年勤めたらみんなすぐ独立しちゃう。一人親方っていうの?でもこちらも社員じゃないと大きな現場はお願いできないからお互い苦しいわよね」

介護事業団体理事長
「資格を取得する前に辞めてしまうので、未経験者よりも資格持ちが欲しい」

電気設備会社社長
「技術的なことも金払って専門学校などで教えてもらってから就職してほしい。なぜこっちが金払って教えてやらなければいけないのか」

確かにかつてと比べて転職がマイナスな見方をされなくなってきたといいますか、人材の流動性が高くなってきたように感じます。それが中小企業にとっては大きくマイナスに働いているということがわかりました。

職を転々としていても手に職があれば食っていけるのが職人というものでしたが、今では教える余裕もなくなり、技術の継承も危うくなっているとのことです。

育成されなかった人材は社会に放り出されてどうなる?

中小企業から「育成する余裕はない」という話を聞いていますが、大企業も遅かれ早かれ同じような状況になるのではないかと考えています。

Office365として生きる危険性

コロナ禍も円安も物価高も持ち堪えるには限度がある。会社を立て直すためにカットしやすくかつ効果的な費用が人件費です。採用数を減らしたり、実績が伴わない社員のリストラを敢行することになるでしょう。

窓際でも年収2000万円の中年社員をWindows2000と呼ぶそうですが、2000万といかなくとも、窓際社員はどんどん淘汰されていくと思われます。

Windows2000とセットで語られるのがOffice365です。オフィスに365日住んでいるかのような社畜のことをこう呼ぶそうです。個人的な見解ではありますが、Windows2000よりもOffice365の方が危険だと考えています。

Office365はワーキングプア層が多数いることも確かです。たくさん働かなくてはいけないのは、労働力にしか対価が見出せていないから。特殊能力やスキルがあれば単価が高くなるので長時間労働しなくても十分な報酬が見込めます。

スキルがなく転職や就職せざるを得なくなった場合、Office365になってしまう可能性が大です。そして時間労働をしているリスクは体を壊しやすく、体調を壊した途端に収入が絶たれてしまうことにあります。

スキルがなければ転職は不可能

かつて転職は35歳限界説というものがありました。35歳を過ぎると転職が厳しくなる、と。ところが今ではミドル転職という言葉もあるくらいで、40代50代の転職も増えてきています。

しかし40代50代で転職できるのは実績と経験があるごく一部の人たちであり、誰でもできるわけではないのが実態です。ミドルになって転職できるような人たちは軒並み新卒から大手企業に勤め着々と実績を伸ばしてきたか、ベンチャー企業に入ってとりあえず実践!を繰り返して経験を積んできたかのどちらかです。

いずれも、努力を積み重ねてきたという部分は同じと言えます。でも、学生から社会人になりたての最初の一歩を「勝手にやれ」「見て盗め」というにはかなり酷だなと思うのも事実。教えてもらったほうが、独学で学ぶよりも何倍も早く覚えます。ただ、企業にその余裕がないから即戦力を、という話になる。

学生が社会に出たばかりで「即戦力」になれるわけありません。プロ野球でもよくある育成枠で採用されながら育成されずに引退するパターンです。プロ野球選手も当然そうですが、引退したからって人生も引退するわけではなく、社会人になったからには何かしらで食べていく必要があります。

今の若手人材は、RPGのキャラの育成のように、自分はどんなスキルを手に入れていくのかを考えながら生きていく必要があるのだと僕は思います。

会社に期待しないで生きる

会社は社員を育ててくれないという現実を受けてどうするかを考えなければいけません。「何とかなるっしょ」と思考停止に陥ってしまう方はOffice365への道しか残されていません。

会社はステップ

企業回りをする一方で20〜30代の若手社会人に話を聞く機会もありました。多くの方は転職に対して好意的に捉えており、「会社はステップ」だと語っていたのが印象的でした。つまり、会社は自分がやりたいこと、なりたいものを目指すにあたってのツールだということです。

会社にとって従業員が育てる対象でなくなった反面、従業にとっても会社は命をかけて守る、貢献する対象ではなくなったのです。ある意味これはフェアなのではないかと思います。お互いに利害関係が一致しているから手を組み目的達成をめざしますが、目的が異なってしまった段階で関係を解消するという合理的な関係です。ある種欧米的で、次世代のビジネスセンスなのだろうと感じます。

会社選びも自己投資の一環

会社も脱ぎ着自在なファッションの一部というような感覚なのでしょうか。したたかな若者は自分にとって学びがあるか、必要かどうかに着眼点をおいて会社選びをしているように映ります。

そこには自分としての軸があると僕は思います。自分としての軸があるから能動的にスキルを取りに動きます。一方で何となく働いていると何となくなスキルが身につくだけであり、それがどんな価値を持つのか何と組み合わせたら良いのかがわかりません。

会社選びも自己投資の一環として考えることをおすすめします。会社に合わせて自分を成長させるのではなく、自分がどうありたいのかをまず考えて仕事や会社を選ぶ。会社が育成というミッションを放棄したこれからの社会では組織よりも個人。自分自身でどのように成長したいのかを考えて行動して学んでいくことが重要なのです。

ありがとうございます!これを励みに執筆活動頑張ります!