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書籍『安心な認知症』抜き出し無料公開(5)――「アデュカヌマブについて」p88コラムの全文

認知症の「新薬」との正しいつきあい方

新薬「アデュカヌマブ」で、認知症の不安は解消される?


2021年6月、アメリカのFDA(食品医薬品局)がアルツハイマー病の新薬「アデュカヌマブ」を治療薬として承認しました。

アルツハイマー病ではアミロイドβと呼ばれる異常なたんぱく質が脳にたまって神経細胞を壊すとされていますが、この新薬はアミロイドβを取
り除いて神経細胞が壊れるのを抑える作用があるとされています。この薬が承認されたことで、治療薬の開発が加速することが期待されています。

日本では2021年秋現在、承認されていませんが、このあと承認されたとしても、「治療費が高額になる可能性が高い」「面倒な検査を受ける必要があり、どれだけの人が対象者になるか不明」「薬の効果に限界があり、副作用がよくわかっていない」など、課題もあります。

新薬のニュースは明るい話題ではありますが、認知症の本人や家族はその話題にあまり振り回されないほうがいい、と繁田医師は言います。

「のんだら立ちどころに認知症が完治するような薬は、現時点では期待できません。認知症から起こる生活の困難や不便に向き合おうとしていた人が、新薬の情報のせいで認知症と向き合うことを止めてしまうことは避けなければなりません」

医療者は、新薬についての正しい情報を本人と家族に提供し、支援しなければなりません。
新薬の治療を望むかどうかは、本人と家族が相談して決めるべきものですが、どんな結論を出すにせよ、自分を見失わず、今までの生活をできるかぎり続けていくための工夫をすることは、今までどおり忘れてはいけないようです。


<担当編集者の 補足メモ>

新薬「アデュカヌマブ」について日本での承認がどうなるのか、いま(2021年12月20日)の時点ではわかりません。

2021年6月の米国内での承認時にマスコミ報道がたくさんあり、よく理解できないことがたくさんあったので本書の制作時に繁田医師に質問(取材)をしてこの記事が出来上がったのですが、繁田さんが教えてくれるように、いま認知症に向き合われている方々にとっては、新薬の情報に一喜一憂はせず、目の前のいまの暮らしを大事にする工夫を続けるほうが、“良薬” だといえそうです。

マスコミ側が、新しい情報(ニュース)なのでキャッチーな話題として取り上げたい気持ちは、同業者としてとてもよくわかります。
ただ、そのニュースを切実な思いで読む人たちの日々の暮らしを想像し、“希望と現実を、じょうずなバランスで伝える工夫” が非常に大事なんだろうなとも思います。

日々、ニュースを出さなければならない記者の方々の苦労は想像ができるので、それをどうこう言いたいわけではなく、しがない書籍編集者としては、せめて自分たちが発信する情報は、一次情報を精査した形で、大事なことはなんなのかを理解する努力をして出していかなければ……と思う次第です。


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