花椒之味
そろそろ冬の気配が近づいてくるこの季節、観てほしいイチオシの映画がある。
香港映画『花椒の味』だ。
香港、台湾、重慶にそれぞれ住んでいた異母姉妹が、父親の葬儀を機に初めて出会う。父親の経営していた火鍋店の再生をしながら、生前の父親、家庭や仕事の事情、各々が抱えるわだかまりと向き合い、自分の人生を見つめ直していく。
長女ユーシュー (如樹) は香港で会社員をしている。対立はすれど、3姉妹の中では最も父親と過ごした時間が長い。葬儀を取りまとめ、火鍋店の再生の中心になるのも彼女だ。
次女ルージー (如枝) は台湾に住んでいる。職業はビリヤードの選手。母親は再婚しており、ルージーとは父親や職業のことでよく言い合いをする。
三女ルーグオ (如果) は重慶に住んでいる。彼女の母親もまた再婚して今はカナダにいるため、祖母と2人暮らしである。オレンジ色のショートカットに独特なファッション、三女らしく天真爛漫で自由奔放な一面がある。
育った環境も、職業も違う3姉妹が初めて出会う。誰の母親を、父親は一番愛していたかなんて話題にもなる。私は当初少しヒヤヒヤした。女3人、しかも異母姉妹が一堂に会したときに予想される展開は怒鳴るような言い争いだったからだ。
しかし、この3人はそんなことはない。最初こそぎこちなさはあるが、すぐに打ち解ける。もう3人ともいい年をした大人だからだろうか。これが3人とも10代、20代だったらまた違っていたかもしれない。
3人で笑い合い、3人で涙を流し、父親の作っていた麻辣スープの味を再現することに奮闘しながら、自分のこれからの生き方も模索していく。過去と現在、そして未来の自分の交錯。香港、台湾、重慶に住む姉妹の交錯。それぞれの家族の絆、姉妹の絆。いつだってその中心にあるのは、父親が大好きだった火鍋である。
スクリーン越しにスパイスの香りが漂ってくるような、花椒のようにピリッと辛くてじんわりと温かい、そんな作品だ。ぐっと冷え込んでくるこの季節、火鍋を食べに映画館へ行きませんか。