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P#15 雨の足跡

そうして、あれからまた1年、2年、そして3年が過ぎた。

16歳になったパムは、新しいことへの好奇心・探究心が止まらない。

父親の狩りにお伴するふりをしては、ひたすら空を眺めてはメモを取ったりスケッチをして時間を過ごすことが多くなった。

行き帰りは馬に身をゆだね、風をきって野原を疾走する。まるで勝利を収めたかのような最高の気分に酔いしれる。

リエベンはというと、厩舎係のトマスみならず屋敷の使用人たちみなにとって、頼もしい存在に成長していた。

昔から動物の扱いは人一倍うまいリエベンだ。彼が厩舎にやってくると馬たちの呼吸が整う。厩舎の空気が一瞬で変わるのだ。

屋敷には客車のための馬2頭と乗馬のための馬が2頭いる。たまに馬の運動不足解消のため、リエベンがこれらの馬にまたがって屋敷内をぐるりと一周することもあったが、近ごろはパムの外出が増えたため、そうすることも少なくなった。

その日の朝も、勢いよく呼び鈴が鳴った。

リエベンは、厩舎の小さな窓から空をのぞき込む。今日も一面の青空だ。リエベンは、パムがいても立ってもいられず部屋の中をうろうろしているところを想像してくすりと笑った。

厩舎は土埃でいつも黄土色だ。リエベンは軽く服をはたき、シャツをきちんとズボンに入れ、まずは自分の身なりを整えてから、馬に鞍を取り付け始めた。

つい数日前からパムはリエベンを乗馬の伴に命じるようになった。父親である主人に空の話をしてもつまらないからだ。リエベンなら、感想を述べた上で律儀にも毎回質問や疑問を投げかけてくる。その場で答えられなかったことはパムにとっての宿題だ。そのやり取りのおかげで新たな知識がさらに身についていくことがパムはまた嬉しかったのだ。

屋敷から少し離れた丘に到着すると、リエベンは馬を近くの木につないだ。パムは背負っていた麻の袋から例の分厚い革張りの本を取り出す。小高い丘は雲と空の観察の絶好の場所だ。

リエベンは馬たちをなでながらパムの様子を眺めるのが好きだった。もちろん、パムにはそんなリエベンの姿はまったく眼中に入っていない。

自分の求めていた情報が見つかると、まるで水を得た魚のように、目を輝かせて意気揚々と話し始める。パムは息をするのも忘れているかのようだ。リエベンはそんないつものパムの調子に微笑んで、話にしっかりと耳を傾けていた。

さっきから遠くの黒い雲がこちらに近づいてくるのが気になっていたパムは、講義を早めに切り上げることにした。まだまだ話したいことはたくさんあるが仕方がない。2人は急いで屋敷へと馬を走らせた。

あと少しというところで、雷がゴロゴロと大きな音で鳴り始めた。と同時に横なぐりの雨が2人の行く手を阻むかのように降り始める。雨は2人の顔や体を容赦なく叩き続けた。

かろうじて敷地に戻ったはいいが、2人は厩舎で雨宿りをせざるを得なかった。トマスはその日の用事を終えて部屋に戻っているようだ。

リエベンは、厩舎の奥から自分の上着を取ってきてパムに羽織るように言った。

パムはリエベンから差し出された上着を手で振り払おうとした。が、その時、クシュンと小さなくしゃみが出た。あまりのタイミングに、リエベンが笑いをこらえながら、「ほらね。」と言わんばかりにパムの肩にジャケットをかけた。

窓を見ては雲と雨の観察時間が延々と続いた。リエベンは文句も言わず、パムの話にじっと耳を傾ける。厩舎の中は時が止まったかのような静けさだ。

毎日数時間、こうして雨が降ってくれるといいのにな―

パムは雲間からのぞく太陽をみて心の中でそう呟いた。

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