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F#4 コーヒーと茶にまつわるエトセトラ

2025年5月10日。

5月の風はとことん気持ちがいい。ベッドからそっと抜け出して窓を開ける。カーテンを揺らすその風は、優しさを連れてくるようだ。家の後ろにある山からは小鳥のさえずり声が聞こえる。まるで天国にいるようだ。

いや、私にとってここは天国なんだ。

幸せな私は、いつものようにコーヒーを飲むためのお湯を沸かす。コーヒーのフィルターをセットしながらふと数年前の不思議な出来事を思い出した。

そう、あの『理想の幸せ』の画だ。

本を読んでいる私にパートナーがお茶を運んでくれるという、私の描く『理想の未来』。それは今、現実となって『理想の幸せ』から『日常の幸せ』になったのだが、実は、私にはどうしてもその『理想の幸せ』の画の中で解せないことがあった。

私はコーヒー派なのに、その画の中で私たちが飲んでいるのは必ずお茶だという点だ。

自分が描いているはずの画なのにコントロールができていない矛盾。もうその画はそれまで1年以上も自分で何度も何度も繰り返し見ていた画だった。

ある日、ふとした写真が目に留まった。

「あなたのコーヒーは?」と名付けられたそれは、1~8の番号が振られた8つのコーヒーが並んでいる写真だった。ブラックコーヒーから牛乳たっぷりのコーヒーまで、その色をみればコーヒーの濃さと牛乳の配分が一目でわかる。

当時はまだメキシコにいた彼に、その写真を送って彼の好みをきいてみる。この時は『理想の画』のことなんて考えずに。

「コーヒーは飲まないんだ。緑茶とか中国茶が好きだから。」

その答えをきいて、心臓が止まるかと思った。

あー、私がこの写真を見て彼に送ったのも意味があったんだ。あれにつながるんだ、と全身に衝撃が走ったからだ。

しかし、不思議はここで止まらなかった。

実はその出来事の半年ほど前に、コーヒーメーカーを購入した。「あ、彼に美味しいコーヒーを淹れてあげたい。」と妄想を膨らませ、密かなる明るい未来を渇望して買ったのだった。

しかし、購入してから気づいたことは、こいつは3杯からしかコーヒーを作ってくれないということだった。朝1杯だけ飲みたい私がそれを使ったのは半年の間でものの数回だ。

ある日、久々にそのコーヒーメーカーを使おうとしたところ、スイッチが入らない。何をどうやっても作動しない。説明書を見ても解決しない。

あ・・・

私は気づく。

彼のためにと買ったコーヒーメーカーだが、その彼がコーヒーを飲まないとわかった今はもう私には必要がなくなったんだ・・・なるほどだから壊れたのか。いやはや、宇宙は完璧である。

そろそろ、その彼が起きてくる。今朝は私が彼においしいお茶をいれてあげよう。

今日は2025年5月10日。永遠に一日しかない2025年の5月10日だ。


このお話はマガジンで#1から読むことができます。



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