10年目の2月17日、世界はどう伝えたか
こんにちは🕊
2011年2月17日。
北アフリカのリビアで人びとが40年以上続いてきたカダフィ体制に対して声を上げ、大規模な抗議運動が始まった日です。
そしてこの日からいま、10年を迎えます。
「アラブの春」としても知られる、同国をはじめとした中東・北アフリカ諸国で起きた一連の運動。
ただ10年を迎える現在も、多くの国で人びとが困難な状況に置かれています。
多くの国では政治に市民らの声が反映されない状況が続いているほか、抗議運動の引き金の一つとなった経済状況も好転していません。
リビアでは、体制崩壊後に新たな国づくりが難航。現在、国は分裂状態にあります。
そこで今回は、10年目の2月17日を世界がどう振り返っているのか、報道やNGO、ブログなどの記事から見てみようと思います。
「世界」と書きましたが、筆者の言語能力の限界から主に英語で書かれた記事などを扱っています。ご容赦いただければと思います。
■ 1年前の2月17日
■ 2020年のリビア
ヘッダーはリビアの写真家、ヒバ・シャラビさんの作品です。
リビアのこれまで
リビアでは40年以上続いたカダフィによる独裁体制が2011年に崩壊。新たな政府樹立を巡り、衝突が続いてきた。
現在は首都トリポリを拠点とし、国連の仲介で2016年に樹立した国民合意政府 (GNA)と、東部の都市トブルクを拠点とする政府 (HoR) が分裂している構図だ。
HoRの支持するハフタル将軍率いる勢力が2019年4月、トリポリへの侵攻を開始した。GNA側の民兵組織らが応戦し、武力衝突に発展。GNAにはトルコ、ハフタル勢力にはUAEやロシアなどがつき、軍事支援などを行ってきた。
6月はじめにGNA勢力がトリポリを奪還し、10月以降は停戦合意が実現。和平交渉の結果、今年12月に新たな政府樹立のための選挙を行うことが決定している。
ただ、現場では外国勢力の撤退などが進んでおらず、先行きは不透明だ。
今年も17日には首都トリポリ中心部の広場に多くの市民らが集まり、革命記念日を祝福した。
希望と不安
抗議運動と体制崩壊から10年。2021年のリビアに希望と不安の両方を見出す声が上がっている。
希望は、新たな統一政府へ向けた動きが進んでいること。
不安は、それが本当に実現するのか、疑問が残ることだ。
国内では17日、多くの市民らが祝福の声を上げた。ニューヨークタイムズ紙 (以下NYT) は「祝うだけの理由がある」という。
「毎年、状況は悪くなる。これまで樹立したどの政府も選挙まであと2年と言うが、実際に起きることはその真逆だ。唯一起きるのは戦争だ」
31歳のアル・ガモウディさんは話す。家の修理費用を稼ぐため、トリポリのカフェで1日14時間働いているという。
リビアでは分裂する政府を統一する試みが行われてきたが、2014年以降、国政選挙は行われていない。
NYTは「(アル・ガモウディさんの) 皮肉は経験に基づくものだ」と指摘する。
銀行には給料を受け取るため、ガソリンスタンドには燃料を確保するため、人びとが何時間も並ぶ。電気は数時間しかつかない。
リビアでは、こうした光景が日常が日常となっている。
今年12月の選挙により統一政府が樹立し、情勢が安定することでこうした状態が終わるのではないか。
人びとが2月17日を祝う背景には、こうした希望があるという。
ただ、課題も多い。
イタリアのシンクタンク、ISPI (Istituto per gli Studi di Politica Internazionale)は、リビアの現状や今後の展望を検討する特集「リビアの10年後: 打ち破れた希望と繰り返される交渉」を発表している。
この中で複数回、指摘されていることに一つに、武力・軍事力を誰が、どのように管理するのかということがある。
国内で現在、武力を持つ勢力は大きく2つに分けられる。東のハフタル勢力 (民兵組織「LNA (リビア国民軍)」と同組織に忠誠を誓う武装勢力などからなる) と西の部族などからなる武装勢力だ。ただ、それぞれも一枚岩ではなく、勢力内外での衝突が続いている。いずれの政府もこれらの勢力をコントロールできていない状態だ。
国連の仲介により先週、リビアでは首相を含む4人の行政トップが選出されている。ただ、4人がどこまで国の統一の実現に向け歩みを進めることができるかは疑問が残る。
専門家らからは、暫定政府のメンバーには「共通の政治的なビジョンがない」との声もある。
活動家をはじめ、多くの市民が犠牲に
この10年間で多くの命が奪われたことも忘れてはいけない。
中でもアムネスティ・インターナショナルなどが強調するのは、権利を訴える人びとが特に標的となってきたことだ。
人権保護を訴え、2014年に武装勢力により殺害された女性法律家のサルワ・ブガイギスさんのほか、第2の都市ベンガジで11月、武装勢力に銃撃された女性活動家のハナン・アルバラッシさんなどが含まれる。
情勢不安などに伴い、リビアの国内では司法が機能していない。国際司法裁判所 (ICC) も国内で調査などを行なっているが、その動きは遅い。
在外リビア人らが中心となり英国を拠点に活動する団体、ロイヤーズ・フォー・ジャスティス・イン・リビア (LFJL) もこうした人びとに焦点を当てている。
「この10年を振り返ると、大きな挑戦を前にしたリビアの市民社会の粘り強さと立ち直る強さに驚かされた。だが、これらが (ニュースの) 見出しになることはほとんどない」
LFJLの理事、エルハム・サウディは話す。
諦めない人びと
10年前のできごとを継承し続ける人びとに着目したのは、中東のメディア、アル・ジャジーラ。
リビア第3の都市、ミスラタには2011年に体制に対して声を上げ、命を落とした人びとのことを記憶するための施設、「アリ・ハサン・ジャバル記念館」がある。
館内には犠牲者の写真のほか、遺品などが展示されている。
ミスラタからは当時、特に多くの人びとが反体制派として戦った。
「2月17日はリビア人にとって大きな意味を持つ。ミスラタでは特にそうだ。自由と民主主義という意味だ」
そう話すのは、アブデルハミド・タイーブさん。子どもとともに来館したといい、自身も甥を2011年に亡くしている。
「自由には犠牲を伴うことを教えるために来た」
マラク・アルマジャーイさんは、10年前、内戦で右足を失った。
現在はミスラタでフィットネス用品を販売したり、トレーナーとして活動している。
「私たちは民主的な国を望んでいた。現在の状況は私たちが望んだようにはいかなかった。だが、時間がかかる。42年間のカダフィ体制を経て、今このような状態にあるのは当たり前だ。状況が良くなることを祈っている」
リビア出身の女性、マラク・アルタイーブさんは自身のブログで10年目の思いを綴っている。
2011年、アルタイーブさんは17歳だった。多くの同世代が声を挙げ、新たな国づくりに取り組んできた。
こうした人びとの動きに励まされてきた反面、懸念もある。
情勢不安に伴い、社会の分断が進んでいる。和解が本当に可能なのか、疑問に思うこともあるという。
それでも、信じる。
「10年を振り返るとリビアの人びとは、私たちの現実に今、どれだけの困難があっても、希望が残っていることを世界に示した」
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