寄り道時間旅行/madoromi diary 2020 summer #2風の道 旧児島駅舎
このマガジンでは、まどろみ文庫を運営するDENIM HOSTEL floatがある岡山県倉敷市児島唐琴町のまわりのとっておきの読書スポットとそこで読むのにぴったりな本を紹介していきます。
ちょっと時間を巻き戻してまずは2020年の夏から。
巻末にスポットと本の詳細をまとめています。
それではどうぞ、ごゆっくり📚
-DAY 2-
今日は、駅前まで散策に来ました。
児島ジーンズストリートは休日は県外からも多くのお客さんが訪れる街一番の観光スポット。ジーンズをコンセプトにしたテーマパークみたいな雰囲気と年季の入ったお店が残るレトロな街並みが魅力なのですが、今日の目的地は別の場所。お店で賑わう通りから少し歩いたところに今は使われていない昔の駅舎が残っていると噂を聞きて行ってみることに。
旧児島駅舎は、かつて岡山県倉敷市を走っていた下津井電鉄の駅。1991年に下津井電鉄線が全線廃止になった後は、駅舎だけが残り、現在は児島の隠れ観光名所となっています。
駅舎の天井は当時のまま、時代を感じさせるアーチ型の屋根が印象的です。夏だからなのか、かなり蔦が生い茂っていて、Youtubeで見た旧ソ連の廃墟を思い出してちょっとドキドキしました。天井から降りてくる光が幻想的で、市街地の真ん中にあるのにすごく静かで、ゆっくりとした時間が流れている場所です。
当時のものはほとんど撤去されてしまったみたいなのですが、ところどころに駅の名残りがあります。スマホどころか、PCメールも携帯電話もなかった時代、きっと駅は今よりもずっと、会いたい誰かを連れてきてくれる場所で、離れがたい誰かを見送る場所で、そこには今のSNSのタイムラインみたいにたくさんの人々の感情が飛び交っていたのかな。
なんて、つい当時の光景に思いを馳せてしまいました。
ちなみにこの旧児島駅、現在は一部が観光案内所が貸し出しているレンタルサイクル置き場になっていて、旧下津井電鉄線路跡は、終点の下津井駅まで
「風の道」と呼ばれるサイクリングロードになっているそうです。道中にはところどころ架電柱や駅名標が残っていて、当時の面影を感じられるとか。
涼しくなったら一度自転車で終点まで行ってみたいなと思いました。
今は、ただベンチがあるだけのホームは絶好の読書スポット。
当時も電車を待ちながらこうやって本を読んでいた人がいたのかな。
今は使われていない駅のホームで永遠に来ない電車を待ちながら読書をしていると、一瞬タイムスリップしているみたいな気分になりました。
束の間の時間旅行を終えて帰る途中、日本画家の東山魁夷さんが遺した言葉「古い建物のない街は、思い出のない人と同じ」の意味がちょっと分かった気がしました。この街には真新しいものはあまりないけど、きっと思い出がいっぱいつまっていて、そんなこの街の「思い出」を私はもっとたくさん知りたくなりました。
明日は何処へ行こうかな。
<DAY 3につづく>
book:「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」
文藝春秋 村上春樹 2013
「大学二年生の七月から、翌年の一月にかけて、多崎つくるはほとんど死ぬことだけを考えて生きていた。」
そんな冒頭の一節からはじまる村上春樹の長編小説。
主人公の多崎つくるは大学生の頃、親友4人から理由も分からないまま突然絶縁を告げられる。それ以降、ほとんど死ぬことだけを考えて過ごしていた彼はある時、かつての親友たちに会いに行く決意をする。
幼い頃のゆりかごの様な想い出、故郷に対する喪失感、不自由はないのに生きてる実感に乏しい毎日。地方から都会に出た経験がある人にとっては身にに覚えがある哀しい感情が美しく繊細に描かれている。
ちなみに多崎つくるの仕事は「駅」をつくること。小説には、駅や電車が重要なキーワードとして様々な場面で登場する。忙しい日常にふと虚しさを感じた時、そっと心によりそってくれるそんな一冊です。
location: 風の道 旧児島駅
model:haruki
text&photo:yuki
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