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泥を混ぜて漉く紙、名塩雁皮紙
谷徳製紙所
[ 概要 ]
凝灰岩の土や岩を泥にし、漉く際に混ぜることでできる名塩雁皮紙。混ぜる土により出来上がる色は変わり、白(東久保土)、青(カブタ土)、黄(尼子土)、茶(蛇豆土)、白土と黄土を混ぜた中間色の白茶(東久保土+尼子土)の5色となる。
泥を混ぜる紙を漉き始めた由来は諸説あるが、江戸時代の初め、名塩に生まれた東山弥右衛門は越前で結婚し、紙漉きを学んだ。やがて彼は妻を置いて名塩へ戻り、和紙づくりを広めた。後に妻は名塩を尋ねたが、里へ入れてもらえず、名塩川に身を投げてしまった。身を投げた妻の衣には花のような美しい色が付いていたという。弥右衛門は川の泥が衣を染めたと思い、泥を入れて紙を漉いたことが始まりとも言われている。
名塩雁皮紙をつくるのには非常に多くの工程がある。
和紙の原料の雁皮は、人工栽培が難しく成長するのに時間のかかる非常に貴重な植物。その雁皮をほぼ1日水に浸け、黒皮をはぐ ”雁皮みしり”、厚さを揃えながら和紙の繊維である白皮をはぎとる ”水より”、ソーダ灰を入れて繊維を柔らかくし、不純物を取り除くために長時間白皮を煮る ”煮熟”。さらに、雁皮の傷を取り除く”塵より”、薙刀ビーターという機械を使用し、雁皮をさらに細かくし、漉き草をつくる。
雁皮紙に加える土や岩は名塩のいくつかの場所でのみ取ることができる。他の場所の色土を試したが、名塩の土のような色は出ないという。その土を砕き、土捏ね壺に入れて徹底的に攪拌し、目の細かな木綿で濾すことで泥をつくる。
漉き草に泥とネリを加えて漉く。紙料液を簀桁(すげた)の上に溜め、水分が下に落ちるのを待って紙層を作る”溜め漉き”という手法で1枚1枚丁寧に漉いていく。
できた紙は、泥によって虫もつかず、燃えにくく、色褪せることもない。また、遮光性が強いという特性を持つ。
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伝統を繋いでいくだけでなく、名塩和紙の面白さを多くの人に知ってほしい
3代目漉き手の谷野さんは「間似合紙というと襖の紙というイメージが強く、江戸時代を代表する書画用紙であることが忘れられてしまっている。日本画など書画用紙としてもっと使用してほしい。また、羊皮紙に似ているという特徴もあるので、そのような新しい活用法なども発信していきたい。」と語った。伝統技術を繋いでいくだけでなく、紙の使われ方にも思いを持つ。
美術を学んでいた際に和紙に興味を持ち、紙を漉く加藤さん。彼女は名塩和紙の認知度を上げるために、はがきや封筒、ポチ袋など日常で使用できるものを積極的につくっている。谷野さん同様に、伝統を絶やさないために長く和紙を漉いていきたいと語る。
三椏の塵寄りの作業をしていた森本さんも京都で伝統工芸を学んでいた時からここで紙を漉いている。和紙は紙だけを渡されてもどうしたら良いかわからない方が多いという。「伝統を繋いでいきつつ、泥を入れた和紙というものをもっと知ってほしい。」扇子や和紙人形など様々なものをつくって発信し、和紙の多様な使い方や面白さを知ってもらうための活動に注力している。
名塩和紙という伝統を絶やすことなく繋いでいく、そしてその価値をより多くの人に知っていただくための発信をそれぞれの目線で行うことを大切にしている。
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