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「真は真である」と語り合いたいだけだった

何かをわかりかけていたような
そんな気がしていた
何かを掴みかけていて
もう少しでわたしも大人の仲間入りをするんだろうと
そんな気がしていた

けれど、
何もわかっていなかった
掴みかけていたものはシャボン玉みたいなもので
握ると壊れてしまった
それがとても潔かった
高潔だという言葉はやっぱり高潔だなと思う

あやうく大人になってしまうところだった

久しぶりによく知らない人とよく話して
はじめは
たくさん聞いてとにかく紡がれる言葉に心を寄せて その何かを掴もうとしていた
次第に私の方が何かに縋るように言葉を紡いでいた
この場所では私という人間を誤解されたくないと思ってしまった
言葉を重ねて、補って、伝わらないもどかしさに敗北して
この人とはよく知らない者同士のまま話をするのがとても嫌だと思った
そして気づいた

私はわたしを誤解されることをいやに恐れている、嫌悪がある

間違って認識されるくらいなら
わからない人、掴みどころのない人でいることを望んでいる
他人にわたしをわかったふりはされたくない

わかろうとされるとわたしはとてもうれしい、喜んでしまう
だから尚更
それでも伝わっていないと感じるとき人間というもの全体にひどく絶望する
ああ、違うのに、そうではないのに
違うままにそういう事になって事態は進んでいく
誰も悪くはないのだから、終にわたしだけがそこに立ち尽くすことになる

そして今日もそんなことが起きて
止められない不快感の中でひとつ
私はそういう人間だ、ということがわかったように思う

それまでこの気持ちから“人間とは”をわかろうとしていたこと自体が見当違いで
この気持ちはわたしの中での話だったのだということがわかったのです
最近流行りの“主語がでかい”というやつなんじゃないか、と

絵を描けないと話したとき
評価されることを前提にして考えるから“できない”と思ってしまうんじゃないか
と言われたけれど
わたしという人間はわたしからの評価を逃れられないのだと思った
他人からの評価にはもっぱら興味がないけれど
自分からの評価が落第点であったときにそれを受け止めきれない
そして他人からの評価には興味がないせいでこの気づきは
あの場所で言葉にされることなく私の中にのみ残された

イデアの話を朧げに思い出す
わたしの中に見たその美しさだけが真であって
それを誰にでも見えるようにしたときのそれは複製でしかない
真の美しさはわたしの中にあるのだから複製など必要がなかった
この美しい事態を誰かと共有したいだなんて思ったこともなかったし
共有できるだなんて到底思えなかった

みんなが、各々の中に、美しいと思うものたちの真を持っているのだから
必要なのは

「これが真だ」ということの共有ではなくて「真は真である」ということの共有だと思う

きっとわたしはずっとこのことが言葉にできなくて
誰にも伝わらずにもがいて、何かをつかもうとして、違うものをつかみかけていた

違うものを掴もうとしていることに今日気がついた
そしてわたしはもう掴もうとしなくてよいのだと思った

こうしてわたしはまたひとつ
そのままのわたしでいることを受け容れられる
人間の性には時折、これは抗わなければと思うことがあるけれど
わたしの性に私が抗う必要は微塵もない
私はわたしの真を貫いていたい、いかにも高潔に

0829

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