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言葉の渦に 呑まれながら

『街場の文体論』を完読した。

両手の空いている時間すべてを内田樹に捧げてしまった
毎秒 続きを摂取したかった その時を渇望していた

お昼休憩で残り三分の一まで読み
仕事終わりの夜風はあまりにも心地よくて
どうしても
読み終えてから帰りたいと思った

夜の大濠公園へ
走る人々を横切り ベンチに腰を下ろす
4時間近く読み続けた
そして 読み切った

頁は夜露を含みやわらかくなっていて
日付は変っていた

近ごろ、
「ほんとうにこの道は山頂に向かっているのか」と不安がっていた私に
前をゆく内田樹は 振り返り 目を合わせて頷いてくれた
大丈夫 君はついてきているよ、と

やろうとしていることは やりたいと思っていることは
わたしのやるべきことであった
わたしたちの、やるべきことであった

わたしは悠悠たる足取りで この山を登りつづけることができる
彼が 間違いなく この山で私の前を登っているのだからと確信できる

またひとり 前を歩く大人を見つけた、この喜び

私は読後 あまりの充足感に
どうしようもなく
“このままどこか澄みわたる場所に身投げしてしまいたい”とすら思った

でも。

それでもやっぱり
“この先もずっと 言葉の渦に呑まれながら生きていたい”と思いなおした

こうして私は 偉大なる先人・先達らに 生かされる

他者と仮想的に同一化することは、ある広がりの中で自分をとらえることを可能にする。それによって自分はいったいこの世界において何なのか、どこで何をなすべきなのかがわかってくる。そういうふうに集団に機能的に統合されることで、自分自身のアイデンティティを基礎づけているんです。

『街場の文体論』内田樹


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