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つないだり 離したり

つないでいた手を離すのというのは
さまざまに込み上げる想いをひとつずつ掬うための
勇気がいる
力がいる
愛がいる

込み上げるひとつずつのかけらを誠実に
見つめ
認め
満たし
昇華する

そうして人は少しずつ強く優しく侘しくなり
満ちてゆく

つながれていた手はぬくもりから離れ、余白となる
それでも
一度繋がった心はいつまでもそのあたたかさを忘れないと思う
丁寧に誠実に手をつないでいた 物とは、事とは、人とは
この先もきっと ずっと そばにいられるんだと思う

星の王子さまにキツネは教えていた

「でもきみは、金色の髪をしている。そのきみがぼくをなつかせてくれたら、すてきだろうなあ!金色に輝く小麦を見ただけで、ぼくはきみを思い出すようになる。麦畑をわたっている風の音まで、好きになる」

「同じ時間のほうが、よかったんだけど」
「たとえばきみが夕方の四時に来るなら、僕は三時からうれしくなってくる。そこから時間が進めば進むほど、どんどんうれしくなってくる。そうしてとうとう四時になると、もう、そわそわしたり、どきどきしたり。こうして幸福の味を知るんだよ!でも、きみが来るのが行き当たりばったりだと、何時に心の準備を始めればいいのか、ちっともわからない…ならわしって、大事なんだ」



小麦畑を見て、手をつないでいた幸福を想う
四時になると、そわそわどきどきしていた日々を想う

そうして
まだ見ぬいつかまたつながれる手にひとつの新しい幸福をあずける

つないでいた手を離すというのは簡単ではないけれど
誠実に紡いだ絆はすべてをなかったことにはしない

手をつなぎ“費やしてしまった時間”こそが私の薔薇をかけがえのないものにしていく

手に余るほどなんて必要ない
キツネにとっての 王子さまと小麦のように
ほんの ひとつか ふたつ そんな薔薇が見つかれば
この先もわたしは暮らしてゆける

そうしていつか
心にはいくつかの薔薇を咲かせ、小麦を想い
片方につながれた手は互いにあたため合い
もう片方にはいつしか
ちいさな手がつながれ、その手をそっとあたためられる
そんな大人でありたいと思う

人でも、仕事でも、物でも
ぜんぶおなじ つないだり 離したり


0903

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