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我慢の2024を振り返る

 エッセイでもブログでもSNSでも動画配信でも何でもそうなんですが、何らかのコンテンツを不特定多数へ発信している人たちというのは、この時期になると一年の総決算的なアレをやろうとしがちです。
 
 かく言う僕もその一人なんですが。
 ほんとはこんなもん自分からやるようなものじゃないんです。
 心の中へ静かに留め置けばよろしいの。世界に開陳してどーすんだ。
 
 だってホラ、たとえば音楽業界。米津玄師さんとかこっちのけんとさんとか、今年著しく活躍した人たちをご覧なさい。天下の公共放送NHKが頭を下げて「すんませんうちの紅白に出てもらえませんかね」っつってお願いしてくるうえ大晦日の夜中ギリギリまでお仕事をしていらっしゃる。呑気に一年を振り返って駄文を綴るようなヒマなんかありゃしませんわ。
 あるいは、将棋の藤井聡太さんとか野球の大谷翔平さんを挙げてみましょうか。どちらも年末年始にお呼ばれするような業界じゃありませんけど、この時期は自分で振り返るまでもなく「今年はどのような一年でしたか?」って記者のみなさんが訊いてくださるでしょ。そしたら「まァそれなりにいい感じでしたかね、来年も変わらず頑張ります」くらいのコメントは返しますでしょ。それがそのまま記録に残り、歴史になる。
 
 本来は、このどちらかであるべきなんですよ。忙しくて振り返ってる間もないか、自分以外の誰かが記録してくれるか。
 逆に言うとね。一年の総決算をわざわざ自分からコンテンツにするような手合いはせわしないはずの年末に時間を持て余した暇人に過ぎないんですのよ。
 ぶっちゃけ誰からも求められてないし必要ともされてないけど、この時期に一年の振り返りをしておけば何となく格好がつくから、一人で寂しく裸踊り同然の真似をしてるだけ。
 
 ああ畜生め! 俺も12月31日の夜中までスケジュールが埋まってる感じの売れっ子になってみたかった! さもなくば「永元さんにとって今年はどのような年でしたか」って誰かにインタビューされるような立場になってみたかった! どっちもとうてい無理そうだから俺は今年も自分からno+eの片隅で一人寂しく記事を書いて今年一年を締めくくるぜ!

 さあ、くらいやがれ!
 永元千尋による2024年最後の裸踊りを!!!!

 


まずはお仕事方面から

 
 冷静に考えると今年って、僕にとってそんなに悪い一年ではなかったんですよ。むしろ上出来だったのではなかろうか?
 
 たとえば来年初旬には、浅からぬ縁で開発に関わり続けることになったゲームのリリースが控えております。
 そう、Nintendo Switch版〔Wizardry外伝:五つの試練〕がね!

 開発内部にガッツリ噛んでいたわけではないものの、スタッフのひとりとしてCreditに名を連ねる程度にはちゃんとお仕事してました。
 発売前なので詳しいことはまだ申し上げられませんが、無事に発売日を迎えた暁には、ちょいとCreditで僕の名前を探してみてください。その「肩書き」を見たら、うん、まあ、ちょっと驚くかもしれません。「オイオイオイオイ永元てめェ一体なにやってたんだ?!」という感じで。
 
 で、このSwitch版〔五つの試練〕の関係で。
 実は今年の5月ごろ、ドリコムさん(現在Wizardry関係の権利元になる企業様)のところにお伺いする機会がありまして。

これがどこかと言いますと ↓ ここなのよ

 このインタビューが行われたとき、カメラの「こっち側」に僕もいたんです。つまりワタクシ、かのトレボー閣下にお目通りが叶ってしまったのだ。
 世界中にいるWizardryのファンの中で、トレボー閣下にお会いできた人がどれだけいるか。僕なんぞがこんな栄誉に浴して良いものかと自分でも疑問なんですが、どうかご容赦いただきたい。いくつかの巡り合わせがたまたま重なりまして、本当に僥倖ぎょうこうだったんです。

この日より我が家の家宝となったサイン

 この一事だけでも「永元千尋の2024年は上出来であった」と結論付けたくなってしまうのですが。
 本人の感覚としては、実は、そうでもなくて。

 「俺はこれをやったんだぜー!」とか。
 「こんな結果が出たんだぜー!」とか。
 そんな達成感や開放感の類はほぼ皆無。
 
 むしろ、きわめて主観的には「今年はなんかずっと地味な作業を続けて我慢してた感じしか残ってない」んですわ。
 このあたり、迂闊に口を滑らせて「匂わせ」みたいになった時点でどこかの誰かに叱られる可能性が大なので全面的に省略しますけど、敬愛すべき閣下にお会いできた上でなお当記事タイトルについた言葉が「我慢」の二文字ってどういうことよ。我ながらイミフが過ぎるぞ2024年。
 
 ただまあ、強いて言うなら。
 
 我慢してるってことは、そこに理由があるわけです。少なくとも「なんにもない」ところで「我慢」をする必要はまったくないので。
 それが将来的に全くの無駄になるか、花を咲かせ実を付けるかは、まだ何とも言えないけれど。できれば来年は後者であって欲しい。それを公言できるような形になればなおいいなと、そう願うばかりです。
 

次は個人的な課題など

 
 ここでお仕事から離れて、私的な領域へ。
 ちょうど一年前、2023年の振り返り記事を見てみましょう。

 この中で、
終焉しゅうえんのパラベルム〕
 という個人作品について、けっこうな尺を割いて語っておりますね。
 
 それは、巨大迷宮を舞台とした剣と魔法のファンタジー。22年12月にマガジンを立ち上げたのち、23年中に小説本編の連載を始めるつもりでした。
 ところが同年から〔五つの試練〕関連のお仕事が割り込むようになってきて、自作品に費やせる可処分時間が激減。さらに23年末から翌24年にかけて〔葬送のフリーレン〕や〔ダンジョン飯〕が大ヒット。世間的にもファンタジー作品は百花繚乱の様相を呈しており、いまさら自分が参戦したところで致命的に出遅れた感しかない。モチベーションの維持すらも難しくなって、23年12月19日をもっていったん本作を畳み、マガジンも削除。
 これによって、永元千尋は「書きたいもの」を見失ってしまうのです。

 そんなこんなで、2024年へ向けての抱負としては、
〔書きたいものをまず見つける〕
 ということになりますか。うん。これが最優先課題。

(中略)

 その上で、あわよくば、
〔自身の代表作を更新しうる作品を書き始めている〕
 という状況になってくれていれば最高なんですけどね。

2023/12/31:マグレの2023を振り返る

 そんなわけで、僕は今年、2024年の年明けから、
〔俺は今、何を書きたいのか? 何を書くべきか?〕
 ということを、真剣に考え始めたんですよ。

 そして、2月23日。
 ひとつの結論に達しました。
 それが ↓ こちら。

〔終焉のパラベルム:テイザー01〕

 なんにも畳んでねえじゃん!!!!
 
 と自分でツッコミを入れる他にないのだけれども、まあ待ってくれ、落ち着いて聞いてほしい。
 一時は本当に畳む気でいたんです。なんか全然違うSFモノとか考えてたの。短編の連作とか、長くても中編くらいでさ。書く方も読む方もそんな構えなくていい感じの軽いヤツで。
 
 んが。折悪くというか何と言うか、〔葬送のフリーレン〕とか〔ダンジョン飯〕がヒットしたおかげで、SNSのタイムラインに中世~近世西欧ファンタジーの関連情報がじゃかすか流れてくるようになっちゃった。
 
「お、おでも……ふぁんたじー、すき……だいすき、かきたい……」
 
 みたいな心の疼きに悩まされ始めたのね。
 するってぇとさ。もうさ。どうせならさ。マジでガチで壮大なヤツをさ。大作をさ。大長編をさ。やりたくなってきちゃったわけよ。アハン。
 
 仕事としては〔五つの試練〕の開発にも関わり続けているし、ちょっと前にはSwitch版への移植も視野に入れて制作された新デフォルトシナリオ〔偽りの代償〕のテキストリライトもやらせていただきました。どっちも立派な「ファンタジー作品」ではあります。なのでこれをもって「満足」としても良かったんだ。もう充分すぎるくらい光栄なことだしね。

 でも、これらはあくまで「お仕事」なのです。
 そして、Wizardryはどこまで行っても「僕の作品ではない」のです。
 生涯にわたって強く影響を受けてきたオリジンのひとつではあるけれど、僕が思い描く理想のファンタジー像がWizardryと完全一致しているわけではない。
 
 その辺りのアレコレ含めて「いま自分なりのファンタジーを書かなかったら次いつやんの?」という気持ちも湧いてくるようになりまして。
 自分の心情的な内圧とかを考えても、今この時に書かないと、もう一生ファンタジーで創作することはないんじゃないか?
 
 もっと言うなら。
 
 個人で手がけた物語が何らかの結果につながるのか、趣味で終わるとしても完結まできちんとやりきれるのか、そんな話は全部脇に退けたとしてもさ。次に書いた長編小説が永元千尋の最後の作品でしたみたいな可能性はわりと考えられる話なんです。自分の年齢と健康診断の各数値がそう語りかけてくるのだ。
 別に「ボクもうじき死んじゃう!」なんてことは微塵も思ってないけども、60代、70代になっても精力的に創作やってる人は基本的にド健康か若い頃からタフネスおばけか二者択一。今年から50代に突入した自分は残念ながらどちらのルートにも乗ってない。これは客観的かつ冷静にそう思うわけ。
 
 「これが最後(かもしれない)」という覚悟で書き始めるなら、今の流行り廃りとか関係なしに、ド王道のファンタジーで締めくくるのはわりとアリかもしれない。そんな風に考えるようになっていったんです。
 だって、創作者としての自分の原点は〔聖戦士ダンバイン〕即答ですからね。そこから〔ハイドライド〕、〔ドラクエⅠ・Ⅱ・Ⅲ〕、〔WizardryⅠ・Ⅱ・Ⅲ〕、〔Dungeons & Dragons〕って感じで順当に踏んできたんだよ我が人生。〔隣り合わせの灰と青春〕や〔ドラゴンランス戦記〕は作家としての僕の礎。むしろなんで今までファンタジーをやってこなかったのか我ながら不思議なくらいだわ。
 
 そうして、今年の2月から12月にかけてざっくり10ヶ月間、〔終焉のパラベルム〕という物語を再起動すべく、ほぼゼロベースで世界設定を見直していきました。
 物語世界の成り立ち。神話。宗教。世界情勢。軍事的なドクトリン。架空の度量衡に至るまで。がっつりしっかり考え直し。
 
 ただ、がっつりしっかり考え直しすぎたせいで、物語世界の設定作業がいくらやっても終わらなくって。本当は6月にはスタートを切るはずが、今夏スタートになり、今秋中になり、今冬になり、ずるずるずるずる伸び続けまして……。
 そういう意味でも、今年はひたすら我慢しながら地味な設定作業を続けていたという印象が強いんですよね。

主人公:シオン。設定を見直した結果、去年の画像とは所々変わっています。

 そんなわけで。
 2024年の抱負だった〔書きたいものをまず見つける〕については無事に達成。もう少し正確に言うと〔書きたいものを再発見〕って感じかな。
 で、あわよくばもうひとつの〔自身の代表作を更新しうる作品を書き始めている〕のほうも成し遂げたかったんだけど、今現在、物語のプロットを捏ね回している最中です。執筆は年明けからになろうかと。
 
 一度は畳んだ作品だけれども、もはや昨年とは「ケタが違う」と言っていいくらいに生まれ変わっているはず。
 この冬の間には始まると思うので、どうかもう少しだけお待ちください。
 

まとめ

 
 公私ともに、地味な作業をコツコツやって、やって、やって、やり続けて、それでもまだ芽は出ないし葉も開かない、花はいつごろ咲くのやら……みたいな感じの一年でした。

 まァでも、さすがに2025年にはいろいろと「始まる」はずです。
 乞うご期待!
 

2024/12/31

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