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Bravo ! Mo. 反田恭平

 8月31日 秋田県由利本荘市カダーレ大ホール。反田恭平(pf & 指揮)とジャパン・ナショナル・オーケストラの公演。開演前に、ステージ風景を撮りました。申し込むのが遅くて、2階の後ろ側で端っこの席でした。

 オーケストラの配置は、指揮台向かって左が第1ヴァイオリン8名で、右が第2ヴァイオリンも8名。そして、通常とは逆側にコントラバス2名。ピアノ用椅子にチェロ4名でその右がヴィオラ6名。以上が弦楽合奏メンバー28名でした。

 次は管楽器。最前列左にフルート2名。右にオーボエ2名。2列目左にクラリネット2名。右にファゴット2名。3列目左にホルン2名。左にトランペット2名。そして、ティンパニ1名。総勢41名の小規模オーケストラでした。

 25名を超えると交響楽団、25名以下だと室内楽団と呼ぶようですが、この小編成でオール・ベートーヴェン・プログラムを演奏するとのこと。曲目は以下のとおりです。

序曲「コリオラン」 (1807)
交響曲第2番    (1803)
ピアノ協奏曲第3番  (1809) 「皇帝」

 この距離だと、ピアニッシモが聞こえないのではという不安がありました。しかし、その心配は杞憂に終わりました。カダーレは、音のいいホールだというのは、知っていました。2階席が前のめりになっていて、恐怖感を抱く人もいるとか。優秀な音響のホールでは、音は微小でもきちんと響き、自席まで届きました。

 オーケストラのチューニングが、終わりました。袖から反田さんが入場。拍手をしながら、やはり俳優の六角精児さんに似ているなと思いました(失礼!)。そして、構えたタクトが下ろされた瞬間、目を閉じました。

 豊かなファンファーレ音と同時に、若いエネルギーも2階まで飛び込んで来ました。そもそも、200年以上前の古典です。それが、21世紀にタイムスリップしてきたように、瑞々しい音色に心底驚きました。

 ベートーヴェン節は、ひとつのテーマをあれこれ変奏していき、最後に元に戻るというワンパターンな印象でした。今回の演奏も同じようなフレーズの連続ではありました。しかし、1回たりとも「飽きる」気持ちは起きませんでした。アンサンブルの音のひとつひとつが、美味しかったのです。

 反田さんが、全身に力を込めて指揮していてオーケストラはそのパワーについていこうという絵面でした。後でピアノ弾くのに、体力的に支障なければと、心配するほどでした。

 コリオランに続き、交響曲2番。4楽章としては短い曲ですが、これも全力指揮、ノリノリ演奏が展開されました。ただし、楽章が終わった時、万雷の拍手。これは、タブーの極みなのです。知らないのは、本当に困るのです。

 楽章ごとに、アレグロの次にアンダンテというふうなテンポ以外に、曲想も大きく異なります。つまり、演ずる者たちの気持ちの切り替えが必要。こんな観客に背中を向けて肩を震わせて耐え忍び、気持ちを切り替えようとしている反田さんの姿が、本当に気の毒に思いました。

 交響曲第2番は、今まで聴こうとも思わなかった無縁の曲でした。有名どころは、3番「英雄」からです。いつものApple Musicで予習してきました。ベートーヴェン節なれど平凡な曲という印象でした。しかし、マイナーな曲でもその本気度が違う演奏だと、全く印象が違いました。ガッチリ聴かせてもらいました。正直に感動しました。

 2曲終わり、休憩10分間。ピアノを中央に据えなければならないのです。指揮の支障になるのか上のフタは外され、ピアノを直に転がしたせいなのか、調律のやり直しが入りました。初めて見た光景です。

なぜリフティングの車を使わないのか?

 一目瞭然。残念ながら、スタンウエイのセミコンでした。カダーレには、ヤマハのフルコンもありますが、音が問題外です。なんとショパン・コンクール第2位の世界的ピアニストが、公の演奏会でセミコン(低音弦の向きを斜めに配置したピアノ)を弾くなんて屈辱でしょう。それとも、以前にソロリサイタルで来ているから、とやかく言わないのでしょうか?

これがフルコンです。長いでしょう?

 休憩中、妙な勘繰りは続きました。楽章間の拍手にセミコン・ピアノ。この貧しく不毛な文化は恥ずかしく、悲しいことだと思いました。しかしながら、彼はジャパン・ナショナル・オーケストラ株式会社の、社長でもあります。まだ29か30歳なのですが、演奏者たちを雇用している身です。その社員たちの生活を気遣いきっと我慢しているのでしょう。そんなふうに思い込んで、無理矢理納得しました。

 それでも「皇帝」協奏曲は始まり、その響きに圧倒されました。反田さんの指の動きをつぶさに見たかったのですが、この距離では2個のゲンコツが左右に行ったり来たりするところしか見えませんでした。彼は、全力で指揮して、全力でピアノに向かい素晴らしい音を奏でていました。ピアノを歌わせていました。しかし残念ながら、セミコンはその超絶技巧や音楽性に負けていました。

 彼を含めて、42人全員が、楽しんで演奏しているのが、ビンビン伝わってきました。彼等は、真の意味での「音楽」をしているのです。下手な当て字の「音が苦」とは、全く無縁のステージでした。やっぱりこうでなくちゃ!と思った次第です。

 この曲は有名なので、いろいろな指揮者、ピアノ演奏者による演奏を事前に聴き比べてきました。ピアニストは、ポリーニ、アシュケナージ、グールドまで。指揮者は、トスカニーニ、カラヤン、ショルティなど豪華メンバーによる演奏の数々でした。どの演奏でも思ったのは、「さすが!巨匠たちよ!」でした。

 しかし、この有名人たちは、既に過去の人なのです。仰々しくもデラックスなカラヤンが振る演奏も、録音でしか聞けません。しかし、今を生きる演奏家たちの音をここで聴いている幸せは、別物なのです。同じ場で一緒に音楽しているのが、幸福感の極みでした。

 彼等は、ほぼ20代の若者たちです。演奏して、音楽するのが仕事の人たちです。羨ましさが、爆発しそうでした。もし、自分がここのコントラバス奏者だったらと思うと、私の魂は、そこに飛んでいきそうになる感じも味わいました。そんな欲望に、火が着いてしまいました。

 演奏終了。カーテン・コールが、鳴り続きました。こうした場合、通常は全員を立たせてから、指揮者だけお辞儀をします。しかし、2回目の登場時には、反田さんが、両手を広げると全員お辞儀をしたのたのでした。これは、若い日本人だからこそできる、素敵なことです。

 アンコールは、誰の曲かわからない弦楽器と木管楽器が4人ずつの8人による合奏でした。これも上手な仕掛けが用意されていて、コンサート後にHPで、ニュース速報として紹介されていました。これも上手な方法ですね。

ベートーヴェン: 七重奏曲変ホ長調Op.20より第4楽章Andante con Variazioni

 その後、反田さんのピアノ・ソロで、小品を1曲披露しましたが、当初HPには、載っていませんでした。大きな変化のない、この短いピアノ・ソロは、誰の曲なのでしょうか?

 その夜、入眠儀式の YouTube で検索してみたら、偶然にも同じ曲を弾く反田さんを発見しました。あの曲が、わかりました。

ショパン:ラルゴ 変ホ長調

 粋なことをするわいと、ほくそ笑んでいましたが、後でHPを見たら、ちゃんと載せられていました。単なるミスだったようです。「してやったり!」の気持ちは消されつつも、ショパンの「遺作」を聴かせたことには、意味深な思いを抱きました。もしかして、HPには、後から意図的に載せたのかもしれませんね。

 コンサートには夫婦で行きました。全席指定で、¥8,000。2人で合計¥16,000。いい値段でした。価値ある音楽への代金でした。

 観客は、お年を召した方々が多く見られました。大人数が「若者浴」を満喫したことでしょう。今日、ステージ上で演奏した皆さんはとにかく若い!これから、音楽演奏を末長く続けていけるでしょう。人の心を癒し楽しませる仕事は、本当に素敵です。また来年、来てもらえることを切に切に望みます。

 さて、こだわりっているピアノについて。スタンウェイのフル・コンサートで、約2300万で、セミコンが1900万。国産フルコンで約1900万。その差が、400万。手作りと大量生産の違いだそうです。ピアノという不動産に近い物品ですから、2台同価格というのは実に残念な裁定だと言うことが、わかります。だから、ここには「一流どころ」が来ないのです。おわかりですか??

 最後に、心の栄養満点状態にしてくれた、反田恭平さんとジャパン・ナショナル・オーケストラに、Bravo ! 「本物」をありがとう!

奈良市ふるさと納税のチラシより

🌠題名の「Mo」は、イタリア語、スペイン語の「Maestro(マエストロ)」の略語で、指揮者、巨匠という意味です。

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