届き続ける訳書と物語の力(『なぜ科学はストーリーを必要としているのか』)
7年前の訳書に新鮮な感想が届く
先日こんなことを書いたそばから、また『なぜ科学はストーリーを必要としているのか』(ランディ・オルソン著、坪子理美訳、慶應義塾大学出版会)の感想を読者の方からいただいた。
2017年に初版が出たこの本、最近になってもあちこちでご紹介いただき(研究者・大学教員の方から実業界の方まで)、企画を出版社さんに持ち込んで翻訳した私としてはありがたい限り。
非常勤講師を担当している学校で、新入生から「この本、何度も読んでました!」と教えてもらう嬉しい驚きもあった。
『なぜ科学はストーリーを必要としているのか』概要
ストーリーの基本構造:ABT
研究の最前線に立つ科学者たちは、現場の空気を肌でじかに感じ、そこで得られた最新の知見を誰よりも近くで目にしている。そして、自らの仕事について語る機会を得た際は、そうした「生」の情報をできるだけ多く詰め込みたいと考えがちだ。
しかし、この姿勢が受け手の側に消化不良を引き起こす。新鮮で正確な情報を示しているにもかかわらず、話の内容が相手に伝わらないのだ。
(例えば、食卓の上に土付きの生野菜をどーんと山盛りにされたら、食欲が湧くよりも先に困惑してしまうのでは…)
そこで本書の著者、ランディ・オルソン氏が提案するのは、「そして(And)」、「しかし(But)」、「そこで/したがって(Therefore)」という3つの接続詞を活用する方法だ。オルソン氏はこれらの接続詞をまとめて「ABT」と呼び、それを軸にした文章構造=ABT構造を、効果的なコミュニケーションの基礎として位置づけている。
この段落も、実はこのABT構造を使って書かれている。
ABT構造で「物語性の欠乏」を防げ
本書で紹介されているABT構造は、ライティングやプレゼンテーションなど、幅広い分野で使えるストーリーの基本構造。
日本の読者の方々になじみ深い「起承転結」のストーリー展開も、多くの科学論文誌に採用されているIMRaD形式(序論、手法、結果、考察からなる論文の構造。本書の冒頭で論じられている)も、ABT構造の例だ。
試しに、今日のnoteの投稿に迷ったら、身近な話題を使って下のABTテンプレートの穴埋めをしてみてほしい。このパターンを何度か繰り返すことで、ある程度まとまった分量の文章が書けてしまう。
① ______________
② そして(And)_______
③ しかし(But)_______
④ そこで/したがって(Therefore)_______
ストーリーに支配されないために
とはいえ、語るべき内容がなければストーリーは生まれない。そのことを忘れると、人はストーリーを利用する側から、ストーリーの力に支配される側へと変わってしまう。
(ジャーナリズムや研究における捏造、キャリアにおける経歴偽装などの問題もそこに起因しているのだろう)
創作と科学の間の差は、ストーリーの枠組みに収める素材をどう集めるかの違いにある。優れた創作者は想像力によって話の素材を作り出し、優れた科学者はそれを研究活動によって探し出す。
創作を行う際と、研究・解説・ジャーナリズムなどを行う際の違いを認識しつつ、自分自身の取り組み・歩みの中にある物語性を信じて、見出して、世界に届けていこうではないか。
本書の紹介記事
書評については出版社のページから。
また、noteでも言及してくださっている方が多数。
科学と人をつなぐ観点から…
ビジネスの観点から…
ストーリーテリングつながりで…
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