星を狩ってくれたあなたのおかげで
素敵な物語を書いてくれた月山六太さんへ
どうもありがとうございます♪
書かずにはいられなかった
トラの物語番外編、六太ちゃんに捧げます。
🐅
ある森にトラが一匹住んでいました。
そのトラはごくごく普通のトラでしたが、大きくなるにつれて、心が少しづつ右に向いたり左に向いたり、くるんと回ったりしていました。もちろん、特別なわけではありません。どんなトラだって、いやいや、りすだって、かわいいコマドリだって、心って右や左は向くんですから。けれど、トラはいつの間にか、そのことが当たり前になりすぎて、少しだけ幸せを見失っておりました。この大きな森にはたくさんの動物たちが眠っているのに、まっくらな夜にたったひとりぼっちで眠っているような、そんな気持ちになることがありました。友達だっているのにおかしいですよね。
そんな夜が折り重なっていくうちに、トラは自分の気持ちをだれかに伝えることがおっくうになりました。だからだれかに優しくされても、ついぷいっとそっぽをむいたり、話しかけられても素直に返事ができなかったりするようになってしまい、だんだんみんなに怖がられるようになりました。
そんなある日のことです。人間の仕掛けた罠に脚を取られてしまいました。天邪鬼なトラは誰にも助けてといえません。意地を張っている間に、だんだんと気持ちも身体も弱ってきてぐったりと横たわって、このまま星になってもいいかなとちょっとだけ思っていました。
ぽとん ぽとん
ん?ほっぺに冷たい水が落ちてきます。トラが目を開けると、女の子が覗き込みながら、両手で掬った泉の水をじゃーっと勢いよくトラの口めがけてこぼしました。
ぐほっぐほぐほ
トラは思わず飲み込んでむせました。
きゃーごめんなさい。手が滑って。
くるしい?本当にごめんなさい。
女の子は大慌てです。トラはあっけにとられました。だってトラのことを全く怖がっていないんですから。そのうえ、トラに水をかけてわたわたとしています。
女の子に助けられたトラは傷が塞がるまでの間、お世話になりました。女の子があっちにぶつかったり、こっちで転んだり、お鍋を焦がしたり、ケーキをひっくり返したりするので、トラは忙しくなりました。だって放っておいたら、けがどころではなく、家が火事になりそうですからね。トラは不機嫌にがおがおいいながら助けたのですが、トラが助けると必ず女の子はにっこりと笑ってくれました。そして、トラの毛皮にもふっと触ってくるのです。
そうしているうちにけががよくなっていきました。それと同じように、トラは不機嫌ではなくなっていきました。それどころか、女の子を助けるたびに、力が湧いてきて、心がぽかぽかとするのでした。トラはこのままずっと女の子と暮らしたかったのですが、家にトラがいることが周りの人間に知られる前に女の子を守るためにそっと家をでていきました。
トラは泣いていました。女の子がもふっとしてくれることや、にっこり笑ってくれることがなつかしくて仕方がありません。トラと女の子はことばではなく、心で話していたので、離れるとどうすることもできませんでした。
そんなある日、みみずくのホーホーさんが星を狩ってきてくれました。星のことばがでてくる星のカプセルです。そのことばは誰にでも伝えることのできる魔法のことばでした。森のみんなはトラが落ち込んでいることを知っていましたから、カプセルをゆずってくれました。トラは星の手紙を作って、忘れな草の小さなブーケと一緒に女の子に届けました。
トラは自分の心がとっくに枯れてしまったのだと思っていましたが、自分の心に種を蒔いて、毎日少しづつお水をくれたりお日さまをあててくれた女の子のおかげで、新しく芽吹き育っているものがあることに、その時ようやく気付きました。ホーホーさんが星を狩ってきてくれたおかげでした。ひとりぼっちだと思っていたけれど、そんなことなかったのです。
「走れるようになったら、彼女を背中に乗せて、次に訪れる流星群を見に行くのが、ぼくの新しい生きる理由だ」
トラはそうきりっと心に決めました。
今夜もホーホーさんはほっほーと鳴きながら、誰かのもとへ星のカプセルを届けているかもしれません。夜は静かに更けていきます。
〇
Marmaladeがほろり泣いてしまった
月山六太さんの物語はこちらから。