民主主義国家に必要なのは教養と支援(医学編)
最流流行っている「境界知能」という言葉.それ自体の言葉は最近作られたもので「頑張らない」「努力できない」は精神的なものより知能的な問題の側面があると提示している.その決定的な知能指数は明らかになってはいないもののIQ84〜70が境界知能とされ、それ以下は知的障害者というレイヤーに属する.さらに徐々にわかってきているのがZ世代に多いということである.これからの社会を支えていくZ世代に知的障害者が多いというのは何とも言えないことだが、僕が思うのは境界知能と同等の問題として正常な健常者の教養が低くなってきていることだ.
Z世代は生まれたころからインターネットが普及し、子供時代は電子機器に触れながら育ったことであろう.ミレニアルズやジェネレーションX世代といったデジタル社会の大きな転換点を経験せず、3DSを持ち寄って、外で遊ぶことをやめてしまった世代である.竹内洋が『教養主義の没落』で“10日に一冊の教養書を読み込み、読まない者は1.8%に過ぎなかった“と述べているが、その風景を今日の学校や社会では見ることはない.正に“バカになっていった”のである.今日の高校では大学受験のために誰が選書したのかも分からない本を読ませ、大学受験に活用するそう.正に教養のない世代である.
1960年代の日本の学生は日本改革を掲げ、天皇反対やマルクス主義なんかを熱心に読み込んだのだろうが、今ではそんな思想の形成はなされない.(60年安保を擁護するわけではない)
しかし社会で常に求められるのは正しく教養である.教養がない人間がポピュリズムに先導され国を崩壊、独裁者を産んでいくのは歴史が証明している.実際にトランプ政権を見れば嘘で固められた主張を批判するどころか擁護しているのがよくわかる.まだ救われるのがワシントンは反対を出していることぐらいかな笑
iPS細胞とES細胞とは
今の日本だけでなく世界中で引き起こされているのが教養のない人々によるポピュリズムへの台頭、これは世界の危機ともいえる.独裁国家は国民よりも政府の意見が尊重されるわけだから、主導者が優秀であれば大きな成果を生み出すことができる.(そんな優秀な国家は世界にあるはずがないんだけど)
部分的な面で見れば評価できる国はある.例えば中国はコロナ危機に直面するとすぐさま都市封鎖を行なってコロナの封じ込めに成功した.これは国民<国家の権力構造ができる技だ.他にも医療技術で中国の臨床実験のスピードは凄まじい.遠隔操作の医療を行う実験で実際に都市を何個も跨いだ先で心臓手術の実験を行うなど日本などの民主国家では安全性の観点から未だ実現していないことを可能にしている.他にもES細胞(胚性幹細胞)を用いた実験で中国は猿のキメラの誕生を実現させた.これは日本やアメリカが倫理的な問題で行き詰まっている中で中国が実現させた功績といえる.
ES細胞とは胚性幹細胞とも言われる幹細胞の種類の一種である.幹細胞は名前の通り幹のように細胞が分化し他の細胞に変化していくことを指す.人間の細胞は元を辿ると一つの受精卵から始まる.その受精卵が分化していくことで肺の細胞、心臓の細胞、皮膚の細胞などを作り出していく.そしてES細胞は正に人間になる前の受精卵から作ることのできる細胞でES細胞を操作することで様々な細胞に変化させることができる.説明の通り受精卵は分化していけば人間になるものであり、命の問題が関わってくるため当然、倫理的な反発が大きい.実際にNNI政策などアメリカのナノテクノロジー産業を大きく発展させたブッシュ大統領はES細胞の研究に反対し、ローマ法王もES細胞の研究に反発した.
その中で新たに発見されたのが山中伸弥教授によるiPS細胞の発見である.iPS細胞は人工多能性幹細胞と呼ばれる細胞で、人の皮膚から得られる細胞に6つの因子を加えることでできる細胞である.(元は4つだったが、研究を進めると6つの方が安定することが分かった)
まず多能性幹細胞というのは大体の細胞に変化できる細胞を意味する.この大体といのはiPS細胞からは胎盤が作成できないことを意味する.受精卵は全能性と呼ばれ、胎盤を作ることができるがiPS細胞では作ることができない.そのため全能性ではなく多能性という単語が使われる.このiPS細胞では人の受精卵を使うことがないため倫理的な問題を解決できる医療として大きな注目を集めている.
ES細胞の研究が進められるヨーロッパ
ヨーロッパの国々の中ではES細胞の研究が進み多くの情報を蓄積させている研究所がある.その中でも注目なのがスウェーデンとイギリスである.スウェーデンでは国の支援によるES細胞研究が活発でES細胞のもつ倫理的課題を解決しようと奮闘している.実際に胚から1つの細胞だけを取り出して胚そのものを破壊せずにES細胞を作る研究が進められるなどiPS細胞研究だけでなく同時に研究が進められている.イギリスではユーロ・ステム・セルという名で国民と研究を繋げ研究への理解を深めようとコミュニケーションが行われている.
やはりここには国民の研究への寛容さが顕著に見れる.スウェーデンでは国民への待遇が関あトップクラスとも言われ子供の頃から死ぬまで国のバックアップが大きい.最近では高校、大学の無償化が進められ、先進国の中でもトップクラスの支援を提供している.その甲斐もあるのか国民のES細胞への理解は深い.研究と国民が分裂しないようコミュニケーションが行われているのも大きい.(日本でも山中教授率いるCiRAでは研究の開放などを行い市民と研究のコミュニケーションを重要視している)
この倫理的な問題に寛容になれるのは教養があり、将来を見据えた判断ができるからだ.
医療研究支援
やはり研究に必要になるのは国による研究支援と環境である.アメリカではニューヨーク幹細胞財団やカリフォルニア再生医療機構といった団体が支援を行なっている.さらに驚きなのがアメリカのとトップ大学の多くは卒業生の寄付が支えているということである.日本では国による支援が大きいがアメリカでは違う.アメリカの大学の約9割が個人による寄付で、他が企業による寄付になっている.(日本では真逆)
正に寄付大国ともいえる大学システムが研究を支えている.その要因として大学の支援が充実していることが挙げられる.アメリカの大学では生徒に対し学費の支援だけでなく生活費の支援まで行うなど学生一人当たりの予算配分が圧倒的に多い.実際に寄付総額で見ると東大の6倍の金額がイェール大学の寄付されていたりする.これにより学生は自身の研究が学びに対し集中的なアプローチが可能になりプレゼンスを発揮することができる.その方々が卒業し社会で活躍するようになると大学の恩恵から寄付を行う好循環が生まれている.他にもアメリカでは大学に寄付する場合免税の扱いなるため、国へ税金を納めるくらいならば大学に寄付する判断もあるだろう.
先ほど紹介したニューヨーク幹細胞財団はその名の通りNPO法人の民間の支援団体である.こういった民間の支援により国の支援だけに頼らず安定的な支援を可能にしている.国による支援は政権が変わると予算が減少したり、長期的な研究は成果が予測できないため予算が通らなかったりする.そして何より研究における予算使用に厳しい目が向けられることだ.多くの研究者の声で聞くのは雑費を経費で落とそうとしても「本当に研究で使うのですか?」と聞かれるらしい.ペン一本経費で落とすのに毎回聞かれていては埒が開かない.そこには予算の厳しい現実があるのだろう.
こういった国民による支援によって充実した研究環境や人材の登用が可能になるのはアメリカだけでなく日本でも可能なはずだ.そのためにもいち早く国による大学基金の底上げが必要になる.
日本の中で引き起こされる対話の単純化
ここまでES細胞とiPS細胞の大まかな説明とアメリカやイギリスの研究環境に対して説明してきたが、今の日本の中で引き起こされている議論の問題についても追求したい.
一時期話題に上がったのがiPS細胞のガン化の影響である.実際にiPS細胞は細胞を操作するためガンリスクがあるのは否定できない.しかしそれも今では解決に向かっている.そのガン化のだろう問題となるのがレトロウイルスの使用である.iPS細胞を作成する際に細胞内の遺伝子にレトロウイルスが持っている遺伝子を導入するのだが、これにより細胞が傷つきガン化の原因になると言われていた.そこでレトロウイルスによく似たエピソーマルプラスミドに変更することで既存の細胞内遺伝子に関係なく、初期化に必要な因子を導入することができた.これにより大きくガン化リスクを低下させたことになる.
他にもガンに影響する遺伝子のC-MycからL-Mycに変更するなどより安全なiPS細胞研究が進められている.
ここまで紹介してきた通りiPS細胞然り、ES細胞の研究は世界各国が同時に進め今後の医療に大きく貢献する.しかしそこでは民主国家である以上国民の同意や長期的な研究に対する理解が必要になる.今の我々に必要なのは研究に対する理解と教養、そして情報の交換の流動化ではないだろうか.
正直、僕の主張が全て正しい自信はないし、反発や他にも素晴らしい意見があっていいと思っている.その上でiPS細胞研究に対する議論が活発になり医療に対する理解が進めば嬉しい.ここまで読んでくれた読者の皆様にお礼申し上げます.