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イギリスの失敗はグローバル化の逃避だったのか

2016年、イギリス首相のキャメロン氏は頭を抱えていた.EU離脱を問う国民投票で離脱派が全体の51.89%を占め、残留派に僅差の差で上回ってしまったからだ.

当時のキャメロン首相の思惑にはEU離脱の予定は入っていなかった.EU残留派が勝利し、EU離脱派が多かった理由を使い、EUに対して優勢に働こうという考えがあった.

しかし国民投票の結果は離脱、キャメロン首相はEU脱退への道を進まざるを得ない状況に陥ってしまったのだ.

イギリスに流入する難民問題、それによる国内の犯罪件数の増加や収入の低下が国内に不穏な空気を放っていた.

つまりナショナリズムの崩壊危機が訪れようとしていたのである.

そのEU脱退の反応が顕著だったのが労働者層、プロレタリアの人々の悲痛な声だった、移民の流入は賃金の低下につながり、海外製品の流入は自国生産物の価格崩壊を起こしていると言った.そして保守的思想の強い中年層のEU脱退への意思は顕著なものだった.

この結果を受け、キャメロン首相は辞任しイギリスのEU脱退の問題を引き起こし国内を混乱の渦に残したまま無責任にも去っていったのである.
その後のメイ政権ではEU脱退の強行姿勢を示し、EUとの交渉を続けたものの失敗に終わり、退陣に追い込まれることになった.

退陣表明を出した時のメイ首相の目には涙がった.この時の涙は、EU脱退が絶望的な状況を示し国民の多くは混乱したに違いない.

その後、EU脱退を示していたボリス・ジョンソン氏が首相となり2020年2月2日に見事EU脱退に成功する.

しかし、EU脱退の問題は数多く残っていた.

イギリス(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)は4つの地域から成る連合王国であり、アイルランドの北、北アイルランドはイギリス領である.北アイルランドがイギリス領になったのは1998年のことで、それまでアイルランド軍との紛争が続いていた.
この紛争終結の際に北アイルランドの中心街、ベルファストという場所で和平合意を行った.(ベルファスト合意とも呼ばれる)

だが北アイルランドの中心地、ベルファストでは壁が作られた.

北アイルランド ベルファストに残る平和の壁

この壁は「平和の壁」と呼ばれる.
アイルランドの多数派のプロテスタントイギリスのカトリック教徒のコンフリクトを防ぐために作られ、この壁を隔て生活様式も教育も違っていた.

EUによってアイルランド内の国境は存在しなくなったが、イギリスがEUを脱退してしまうと国境が必要となり、税関や法律が変わる.
現在は「北アイルランド議定書」によって問題は解決しているが、アイルランド内で宗教による対立が激化し紛争の発端となる可能性は十分に考えらえる.

イギリスのEU脱退騒動の一連の流れはイギリスの国民国家への帰結、羨望が窺える.ボリス・ジョンソン氏が任期中に度々発せられたEU批判は物議を醸し多くの人から注目されることになった.

EU各国の中ではジョンソン首相を「隣にいるトランプ」と言っていたところからポピュリズムの強さを感じることができる.

2024年11月に控えるアメリカ大統領選で最有力候補となったトランプ氏だが、トランプ氏が初当選した2017年の大統領選ではヒラリー・クリントン氏が最有力候補としてメディアは発していた.

しかし結果はご存知の通りとなった.このトランプ氏を支えたのがラスト・ベルト(錆びれた都市)と呼ばれる人々だった.アメリカ産業がグルーバル化へ舵を切る中、産業の空洞化によって見捨てられ職を失った人々がいた.それがラスト・ベルトの人々であった.

トランプ氏の掲げる「アメリカファースト」の政策は彼らにどう映っていたのだろうか、

そして後押しするようにアメリカの保守系中年層(サイレント・マジョリティ)がトランプ氏に投票し見事当選を果たした.

アメリカ選挙史上に残る大逆転劇はよく考えれば必須の出来事だったのだ.アメリカ産業に取り残されたプロレタリアの逆襲、正にイギリスと同じ状況が2017年に起こっていた.

国家がグローバル化へ流れる中、国民はナショナリズムへの羨望が見えた結果だった.

以前、僕が書いたnoteに「『ポピュリズムとは何か』から見える日本の危機感」というものがある.

これは世界各国がポピュリズムによってナショナリズムの回帰を強行させていくが、それが本当に民意であって正しい動きなのか、という現状の問題を露呈させたものだった.

ここでの「本当に民意であって正しい動きなのか」は民主主義を確立させる上で必須の要項になる.しかし、イギリスのEU離脱騒動は民主主義の崩壊と言える問題が裏で起こっていた.

キャメロン首相辞任後、メイ首相がEU離脱を進める立役者となったが、その中でも力を付け、メイ首相の曖昧模糊な発言を批判してきたイギリス独立党党首のファラージという人物がいる.

イギリス独立党はEU離脱宣言下において急進的な議席数を獲得し、EU離脱の強行政党として知られていたが、選挙の際の不正な選挙金流入が明るみになった.この明るみなった不正な金の拠出がロシアではないか、という問題まで出てきてしまった.

確かにファラージ氏の明らかなロシアとの会談や傾倒ぶりはあったが、この拠出先がロシアであったならば、EU離脱は民意ではなくロシアの手によるものだった可能性が出てくる.

これは民主主義の崩壊と言える.

アメリカも同様にトランプ大統領によるCA社からの個人情報提供への送金があり、個人情報を利用してスパムや広告を打っていたことが問題になった.

このような民意の反映が正しい行動によるものだと言い切ることができない問題が近年発生している.

これ以上、問題に傾倒してしまうのも良くないので話を切ろうと思う.

世界各国がグローバル化によって一つになろうとしている現在、徐々にグローバル化の弊害が現れ始めナショナリズムの台頭を夢見る国民が増えた.自国の文化を再評価し、廃れないよう後世に残していこうとする動きは素晴らしいに違いない.

その一方、一度グローバル化を進めた場合の弊害も大きく、世界経済への大ダメージは計り知れず、人々の生活、文化に影響を与えてしまう.今の動きを的確に評価することは難しい.

しかし忘れてはいけないのは自分が国家に属する人間であり、国民国家の一部であるということであり、民意は国民国家の中で出されるべきである.他国から影響を受けることは断じて許されることではない.

今の世界の問題は「民意」が見えなくなっているところに他ならない.

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