ヤクルトレディをつかまえて
ヤクルトレディを探しています。
4月。
我が家は夫の仕事の都合で神奈川から大阪へ引っ越しをすることになった。
新しい地では役所で各手続きが必要になる。
転入届や子どもの手当等。
転出の時にも3時間ほどかけて役所の各窓口をまわった。
そういえば運転免許証の住所変更もまだ行っていない。
更に日々の暮らしに必要な場所も探さなくてはならない。
子どもの病院
大人の病院
美容院
歯医者
それから美味しいパン屋さん
最寄りの本屋さん
ワイン屋さんがあればとってもいい
花屋さんもあれば嬉しい
そしてヤクルト。
職場でヤクルトレディに出会い飲み始め迎えた昔の春、私の「酷い花粉症」が「やや酷い花粉症」になったと感じたあの日から私はヤクルトを飲み続けている。
効いているのかどうかなんてもうわからない。ただ
「ヤクルトを飲んでいる、というのがいつか大きな財産になる」
この思いだけでやっている。
花粉だけではない。
風邪の予感がある時だって
「だけど私はヤクルトをのんでいる」
と己を鼓舞することができる。
その後仕事を辞めて、故郷も離れヤクルトとも距離ができたかと思っていたらある日、住んでいたアパートのチャイムが鳴りヤクルトレディが「ヤクルトどうですか」とやってきた。
即、契約をした。
その時のレディのNさんとはヤクルトのお仕事を始めたばかりということ、うちの子どもより少しお姉さんのお子さんがいること、出身が同じ九州だということを受け渡しの合間に話をして、お互いの言葉に故郷のアクセントを見つけてはいつまでも抜けない訛に苦笑いを交わした。
そこから引っ越しが決まった時にはお互いに
「残念です」と言い合いながらさようならをした。
次の地、横浜では、うちの前をヤクルトバイクで走り宅配しているレディを
「うちにも来てください!」
と呼び止め、付き合いがはじまった。
レディのKさんは売れっ子らしくあちこちで見かけたが配達の途中すれ違うといつも元気に声をかけてくれた。
うちへの配達時間は留守が多い時間帯だったのでボックスを置いてもらってそこにヤクルトを配達してもらっていた。
伝えたいことがあるときはお手紙が入っていたり、入れたりしながらやり取りをして、大阪への引っ越しが決まりお別れとなったときはやはりお手紙で
「お元気でいてください」
と言葉を渡しあった。
ヤクルトさんは球団が頑張ったシーズンには子どもたちに、とノートやシールなどのおまけをくれる。
年末にはいつもカレンダーをくれる。おかげでうちのキッチン用カレンダーは何年もヤクルトカレンダーだ。
引っ越しでお別れのときには寂しいけれど私たちは出会いと別れを繰り返してきた。今更出会いもカレンダーも変えられない。
そして今、大阪。
この町、このマンション。全然ヤクルトレディがいない、見当たらない。
正確には一度だけ家から自転車で10分くらいの横断歩道で信号待ちをしているとき、後ろに自転車のヤクルトさんがいたことがある。
声をかけようか迷ったが家から微妙に離れている。
縄張りが違うかもしれない、と思い踏みとどまってしまった。
後悔している。
スーパーで買えばいい、と思うかもしれないが『ヤクルトレディのみが扱う宅配限定商品』というのが謳い文句の品を飲んでいたのでスーパーの品ではもう納得がいかないのだ。
違い?
分かりやすいところでは、内容量が違う気がするし、もしかしたら目に見えないシロタ株のなにかが違うのかもしれない。
正直、違いなんて分からないもっと言えばどうでもいい。
とにかく私は新たなレディと出会い、ヤクルトを手にしたいのだ。
何だこの欲求。
ある夜、もう仕方ない文明の利器、ネットでなんとかしようと『ヤクルト 申し込み』で検索をかけた。
すぐに『ヤクルト届けてネット』という目的のページが見つかったので届けてほしい、いつもの商品『ヤクルト400LT』を検索すると
大変申し訳ございません。
対象の商品は、現在、新たな注文の受付を休止しております。
の文字。
ヤクルトを売ってくれないの?
ヤクルト屋さんなのに?
じゃあ、何を売ってくれるのかとスクロールしていくとどうやらミルミルは私のようなポッと出にも売ってくれるらしい。
ミルミル。
そうじゃないんだよ。
神奈川のヤクルトレディKさんの推薦状でも用意しとけばよかったのか。
しかしヤクルトレディだって新規客は必要なはずだ。とくに新しく就職した人ならば。
彼女らは今、ミルミルだけで営業をかけているというのだろうが。
カードが弱すぎやしないか。
営業用に個人で融通できる分があるかもしれない。
なんとかヤクルトレディを捕まえて、直接お願いしてみたい。
無理は言いません。道理も通します。
だけど万に一つの可能性にかけて私は今日もヤクルトレディを探しています。