晩ごはんは おでんだよ
今日はおでんを仕込もうと思います。
「なるほど、寒くなってきたし おでんにいい季節ですよね」
というわけではない
おでんを仕込むわけ、それは
我が家に石仮面蒟蒻があるからダァッッ!!
石仮面とは私の愛する書『ジョジョの奇妙な冒険』に出てくるその名の通り「石で出来た仮面」なのだがそれを蒟蒻で再現し売ってしまおうという素晴らしい企業があり、私はまんまとそれに乗っかってしまって今に至る。
この石仮面蒟蒻が我が家にあることは私以外まだ誰もしらない。夫や子どもたちには おでんのその時、鍋の蓋を開けて驚いてもらおう。
さて、おでんの仕込みというのは世間的にはどうでしょう、私的にはなかなか気合がいることで気分が乗るまで蒟蒻は冷蔵庫に隠し仕舞っておいた。なんせ相手は石仮面なので軟弱な精神で手に取ろうものなら人間をやめることになりかねない。
取りあえず来たるべき時に備え、牛すじは先に準備し冷凍しておいた。
そろそろやろうかな、明日やろうかな、と長い時が過ぎいよいよ「明日っていまさッ!」と機が熟した(やる気が起きた)ので夫に
「おでんにこれは入れて欲しいという具材をちょっと挙げてよ」というと
「厚揚げ、大根は欲しいねぇ、あと玉子」
「だけど おでんならコンビニとかのでいいよ」などとのたまう。
そうじゃあないのだよ、今回の目的はおでんにしておでんにあらず。
石仮面蒟蒻を食すことなのダァッッ!!
とその存在も知らない夫を責めても仕方がないのでリクエスト具材などを買い集め、遂に仕込みを開始した。
おでんの何が私をここまで躊躇させるのかというと下準備として茹でなければいけないものの多さにある。
卵、たこ、大根、厚揚げ・薄揚げの油抜き、そしてさらに蒟蒻のアク抜き。
あらゆる鍋にお湯を沸かし下準備をしていると湯気がもくもくたち上がりキッチンだけでなく室内の気温も上がる。3歳の娘が
「ガラスにお絵かきができるー」
と閉じられ湿気で曇ったベランダガラスに指でネコのようなものを楽しそうに描き込んでいく。
それを横目に私は遂に石仮面蒟蒻と対峙ッッ!!
ちょっとこの面に切り込みを入れる勇気がないので裏側のみに切り込みを入れ「どうか味が染みますように」と祈る。
そうして茹でたり詰めたり焼いたりした材料を揃える。
これらを家で一番大きな鍋に入れ昆布と鰹節でとった出汁で煮込む。
実家の母曰く「練り物が入ってれば最終的にだいたい美味しい出汁になる」というので、今回はごぼ天の活躍に期待したい。
と、ここまでで午前を全て費やした。
疲れた。
この労力に見合うには三日三晩おでんを食べてもらうしかない。
そして皆のものには石仮面蒟蒻に感動、感嘆してもらうしかない。
仕事から早く帰宅する予定の夫にはラインで
「晩ごはんは おでんだよ」
とだけ伝え子どもが取りやすいように小さめの鍋に具材を移し石仮面蒟蒻をドンと据えた鍋をいよいよ家族の揃った食卓で
「さぁ、ご覧あれ!」
と披露した。
「おおきい、こんにゃくだねぇ」と子どもたち。
「ジョジョの何かだね」と夫。
夏のサイダーより爽やかで軽やかな反応。
…もっともっと驚きが欲しかったッ!!
まだまだ家族に対してジョジョ、いや石仮面の布教が足りなかったようだ。
ただ普段あまり蒟蒻を食べない6歳の娘が
「しゃきしゃきして、おいしい」と異様に石仮面蒟蒻を食べていたので、企業がアピールしていたように蒟蒻の質は良いらしい。
しかし味があまり染みていない。私は味染みの蒟蒻が食べたいのでいいところで娘を止めて翌日の分に回した。
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石仮面蒟蒻は今回の主役なのでなんとしても形を残したい。
その一心で面の裏を掘るように食べ、無事に二日目も石仮面蒟蒻を中心に添えることが出来た。そしてさすがに味もしっかり染みていた。
結局、家族4人でもりもり食べるには2日が限界で、3日目の夜は子どもたちが寝たあとの親の晩酌のおつまみとなり おでんは終了となった。その頃には石仮面蒟蒻は食べやすい大きさに小さく切られただの美味しい蒟蒻と化していた。
今後の課題はただ一つ、皆のものがあっと驚きひれ伏すように石仮面のその価値について周知すること。
それが出来たときこそ『第2回 石仮面蒟蒻おでんの晩餐会』が開かれるのである。開始の合図はもちろん
「晩ごはんは おでんだよ」
である。