納豆の川を越えて
田舎の親戚のうちでは、お正月にお餅をついて配ってくれる。
3歳も大分経ち、お餅解禁となった娘は細かく切られたそれを大層気に入り「ばくばくたべる!」の宣言通り、帰省中大いに食べて私の父母つまりは祖父母を沸かせた。
そんな年末年始を過ごし、自宅に戻って日常を過ごしていると田舎から冷凍で荷物が届いた。
餅である。
今までのうちの消費スピードだと2、3年は食べていけそうな量の餅である。
孫を愛してやまない祖父母が、ありったけの餅を送ってくれたのだ。
ありがとうございます。
冷凍庫では時が止まるので(個人の感想です) 2年でも3年でもかけて食べてもいいのだが、なんせ庫内では既に一度に炊いて小分けに保存された米と絶賛離乳食中の0歳児用のお粥と使い勝手の良い冷凍うどん等の白い民たちがし烈な領土争いをしている。
加えて禁酒中の私を支えるアイスが幅を取り、イザって時の為の冷凍肉や捨てに捨てれぬ保冷剤、などで一杯なのだ。
餅を小分けにし、隙間を埋めるように仕舞ったが、せめて1年分程は早々に消費してしまいたい。
ここに怒濤の餅祭り開催を宣言する。
と、朝に昼に夕に主食におかずに出していたらまずは娘が戦線離脱し、次に夫も餅はもういやだ、と言い出した。
私もどちらかというと餅は好きだが飽きはする。何か新しい食べ方はないかと日曜日ネットの海をさ迷っていると
「納豆餅」
なるものを発見した。
焼いた後、茹でて柔らかくした餅に納豆を加えて食べるものらしい。
いいじゃん。
簡単な上に、私は納豆が凄く好きだ。
むしろなぜ今まで試さなかったのだろうか。
納豆は食パンでサンドしたり、オムレツにしたりチャーハンやパスタにしたり、何にでも合う(個人の感想です)。
早速明日のお昼ごはんにしようと納豆を買い揃えた。
本来ならばその日の晩ごはんにでも試したいくらいなのだが、うちの夫は納豆を憎んでおり、それを隣で食そうもんなら初期のベジータのようなキレのある視線を寄越してくるのである。
オムレツやチャーハンなど火が入り香りが強くなる食べ方など論外らしい。食べるのは自由だが自分の居ないときにしてくれ、と通達が出ている。
その昔、納豆に彼女を寝取られでもしたんだろうと私は納得しているのでそのルールを受け入れている。
他人と共に長く生活するのは譲り合い、思いやりが大切だとどこかの賢人も言っていた、かもしれない。
そして今日、月曜日 楽しみにしていた「納豆餅」をお昼にいそいそ用意していた。
3歳の娘もその雰囲気を察したのか「わたしもなっとうもちたべる」と言い出した。
良い。
餅が減るのは、とても良い。
娘も私と同じく納豆好きなのだが、いわゆる「離乳食」時にはあのネバネバが事件を起こすことを恐れて与えていなかった。
先人たちがSNS等で語る その悲惨な事件の数々に戦慄し「現代日本で納豆で摂らなくてはいけない栄養などない」とある程度上手く食事が出来るようになるまで封印していたのだが、無事納豆好きとして育っている。
そうしてお昼「いただきます」を3歳と0歳と共にした。
0歳に納豆などもっての他なので、もちろん別メニューだ。
細かくしたとはいえ、3歳児が納豆とコンビを組んだ餅を上手に食べれるか見ながら0歳児に「あーん」と離乳食を与え、自らも納豆餅を食する。
なかなか難しい。
なぜ、こんなに食べるのが難関なメニューを…と、心が折れそうになったその時
「おかあさん、おちゃちょーだい」
3歳児の要求。
素早くお茶を取りにキッチンへ向かいテーブルへ戻ると
そこはもう
机とカーペットをつなぐ
納豆の川が
立ち上がった0歳児が私の納豆
を鷲掴みにしテーブルから下のカーペットへ、たらりと落としその手を自らの頭へ
叫ぶ私に
驚き泣く0歳に
なんか盛り上がってる3歳
人は滴る納豆という大きな力の前では為す術なく、その流れに身を任すしかない。
「餅が固くなってもかなわんしな」
私はそのまま納豆まみれで泣く0歳児を抱きしめ、食事を続けた。
愛である。
娘と納豆と餅への。
美味しかったとかそんなことは、もう語る次元にない。
こんなことになるとも知らず」初めて作った料理を写真にでも撮るか」等としていた私に油断大敵、と忠告をしてあげたい。
とはいえ、まぁ、下に敷いていたレジャーシートのおかげでカーペットへの被害は最小限に抑えられた。
と思うが漂う香りはいまだ隠しようがない。
夫が帰ってきたらさぞかし驚くだろう。
ネットで
納豆 カーペット こぼした
で検索をすると水で薄めたお酢を吹き掛けると良いとあるが、今、信じて良いのか凄く迷っているところである。