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珍虫(?)シラキトビナナフシ

立秋がやってきた。

毎年、10日前後はおじいちゃんの命日ということもあって、本格的な撮影に行くことは無い。

しかし今年はもう、祖父が死んで7年になる。

夏も佳境のこの時期に、
昆虫を撮影に行かないのは、
とても勿体無い。

じいちゃんもそう言ってくれると信じ、
大学生の頃からの友達と撮影地へ赴くことにした。

絶滅危惧種、アカメイトトンボを観察するために、カヤックに揺られながら湖の真ん中へ。

だが、
どうやら完全に時期を外してしまったらしい。
むなしくも、しばらく風に任せて湖上を漂う。

朝につまんだ七飯町のりんごパウンドケーキがお腹から無くなり、そろそろ戻ろうかと思っていた頃、湖の縁で猛禽類を観察していた友達から「そろそろ雨が降ってくるので、引き上げませんか?」と連絡が来た。

こういうときに息が合うのは、自然観察をする上でとても大切なことだなと思う。

湖からカヤックを引き上げている時、湖を管理している人に「水草さえなければ、良い季節なんだけどねぇ」と言われた。

「確かにそうですね。
でも美しかったです。ヒシの花。」

この湖に来る人のほとんどは''カヌーやカヤックを楽しみに''来るだろうから、おじさんにとっては、言い慣れた夏の世間話だったと思う。

だけども僕は、カヤックなんて本来は乗らない。ただトンボが見たくて、湖の真ん中まで行ってしまうような人間だ。

危ないとは思うが、ヒシが繁茂するような赤茶けた湖の方が、僕は好きなのだ。

(案の定、おじさんは神妙な顔をしていた)


「雨の日は車が綺麗になるからいいですね」

「そうだね。虫も飛んでないし。」

僕がこの時期心を痛めるのは、
車にぶつかって死んでしまう虫の多さ。


あるオオヒカゲの死


絶滅危惧種を探しに来ていながら、大量の生命を殺しているという事実と言えば大袈裟かもしれないが、僕にとっては忘れてはいけないことだなと思う。

そういった矛盾を抱えることが、生きるということなのだ。

オオミズアオのオス。


カメラをセットして車を降りると、

「毛のある動物が好きなんです。」

そう言いながら、友達は蛾を眺めていた。

彼女曰く、
毛のある動物の中には蛾も入るらしい。

普段野鳥をみている彼女にそんなことを言われるとは思わなかったので驚いたが、確かに広義では蛾もモフモフの生き物だ。

「もうあと二週間くらいで、クスサンが飛び始めるね」

「今年は少なそうですけど撮るんですか?」

「色んな角度から撮りたい。クスサンのモフモフを表現したいな」

「もふもふクスサンってタイトルで写真展やってください」

「いいね。それでいこう。」

昔の僕だったら、きっと返事に渋って
「もっと野生的なものがいいな…」なんて言っているだろう。

今はそれくらい自由な発想で、
ものごとを観たいと思っている。


シラキトビナナフシ
(Micadina conifera)。

本当に美しい。背中の赤いラインに、長い触角。
アカメイトトンボが撮れなかったら、この虫は必ず…と思っていた、もう一つのターゲットだった。

北海道にナナフシがいることを知らない人は多いと思う。僕もさっきまで、その一人。

(北海道の日高地方と、南部に断続的に分布しているという)

コナラやミズナラ、クリの木が沢山生えるこの森は、北海道の森の中でもトビナナフシの棲みやすい環境なのだろう。

太陽の光で照らされるトビナナフシ。
枝になりきっているようす。

写真家にとって、
自分の眼で観ていないことは恥だ。

誰かに対してそう思うのではなく、
僕から湧いてくる自信の一端には、
「今まで見てきた」という過去がある。

たとえ写真が使われなくても、その過去を積み上げていくことにもちゃんと意味があると、最近は思えるようになった。

映えない写真だとしても、
とにかく撮るべきだ。

真下からも撮ってみる

この昆虫は他のナナフシと同様、
単為生殖で子孫を残す。

こんどは持って帰って卵を産ませてみたい。

こんなに不思議な虫が、
この世にいることに感謝したい。

ナナフシをみていると、
そんなことを思う。

*トビナナフシについてアドバイスをしてくださったgeckoさん。大変お忙しい中、ありがとうございました。geckoさんは北海道生物図鑑というホームページを運営されています。

北海道の小さな生き物についてより詳しく知りたい方は、ぜひこちらからご覧になってください。

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