キノの旅について振り返る
昔好きになった作品って不思議なのだ。好きなシーンは一部覚えてるけど、あんまり展開や作品から伝わるメッセージみたいなのを具体的には覚えているものが少ない気がする。
だけども心の奥底にはずっとあるような、今はその作品自体を追って無くても目にするだけで嬉しいようなそんな気持ちになる。
そんな中でも一番覚えている作品ってなんだっけ?と考えると、いつもキノの旅が必ず出てくる。
短編連作といえはキノの旅であるといえるほど、若い自分にとっては思い出がある作品だ。
軽くwikiでも見てみると丁度20周年記念まで1年切っているみたいだ。個人的にも昔はまっていた作品に、原点回帰して考えを深めたいと思っていたので。アウトプットの練習という意味でも、思う事をまとめて書いてみた
キノの旅はライトノベルで、キノという凄腕のパースエイダー(銃)の使い手の少女と言葉を話すモトラド(空を飛ばない二輪車 バイク)が壁に囲まれた様々な文化レベルを持ついくつもの都市国家を渡り旅していく物語だ。
全体的には中世ヨーロッパのような雰囲気の作品だが、現代より先に文明や技術が進んだ都市国家も出てくる。非常に自由な雰囲気の作品でもある。
構成は短編連作、きっちりと一つのお話を短編で終わらせたものが集まって一冊の本となっている。大ヒット作としては珍しい方式だ。
数日間国に滞在して起きる出来事が描かれるのが基本の流れである。そう書くと軽やかなあっさりした作品に思えるが、各短編では明確なテーマが描かれている。そのお話毎に大きく違った世界が広がるような独特の世界観を表されているのだ。
具体的なお話の内容は、国ごとにそれぞれ全く違う様相が見られる。
武装集団に襲われて激しい銃撃戦をするのがほとんどを占めるお話もあるし。争いが無いような理想的な国家に訪れ永住も考えるが、実態を知り旅を再開することもあれば。訪れた国家が科学技術や制度の発達していて、私たちの世界より先に進んでいるような国家を体験することもある。
キノはそれぞれバラバラの性質を持った国家で、ピンチに出会えば自力で切り抜け、時には周りの人と協力したりもする。また依頼による報酬があれば積極的に脅威に自分から近づいていく事もあるし、約束は守る義理堅さもある。
物語はある種の教訓めいたお話になってはいるのだが、語り口がシンプルでいてユーモアを伴っているので説教臭くも無い。必要以上に語らず皮肉めいた最後で締めくくり、余韻を残すことが多い。そのクオリティの証明は、20年前から新作が出続けている事からもいえるだろう。
この作品が傑作なのは、世界観の素晴らしさや教訓めいたお話とともに、主人公であるキノが魅力的なのが大きな一つである。
魅力的ではあるはずの旅人キノだが、世界そのものに大きく干渉することを出来るだけ避けている(単にめんどくさがりなだけ、とも言う)。
彼女は危険な旅路(都市国家の問題だけでない。都市国家の壁の外には盗賊が跋扈しており治安が存在していない、恐ろしい中世仕様である)で脅威に近づかないためにそうしている。
消極的とも言える主人公然としていないキノ、実際大きな問題が都市国家に近づいていても何も問題を解決せずに、あまり感慨も無く旅立ってしまう事もままあるのだ。
それは世界と個人の間にある明確なズレをイメージさせる、文字にしてみると非常に合理的な女の子だ。自分の出来る事には限界があると、しかし現代の人間の多くの感情に寄り添っている姿でもある。
現代的とも言える現実的な価値観を通して、読者は様々な思想や世界を見る。
しかしキノは作品中にこうも言っている
世界は美しくなんかない。そしてそれ故に、美しい。
この言葉は彼女が思っても居ないような事を言った言葉ではなく、彼女はどんなに恐ろしい事を何度も劇中に見て関わっても、そう思ってきた感情豊かな女の子であることを表している。
確かに合理的ではあるのだ、現代より遥かに危険で理不尽な世界という現実に向き合うために。
しかし昔の自分や恩人と似た人物が気になったり、過去に見た悲劇に現在を被らせ感傷的にもなる。
彼女を現実的にしたそれらのできごと、それを思い起こさせる事があれば利益が無くても誰かを救ったり何かに怒ったりもする。合理的な性格と時折見せる脆さや頑固さ、そんな人間性──少女性も持っているのがキノの魅力である。
そんな魅力的なキノが旅をする。その不思議さと美しさと残酷さが詰まった教訓めいた童話、それがキノの旅である。
10年程新刊を読んでいないので、また読みたくなりました おわり