読書記録 vol,6 『クジラアタマの王様』
突然だが…
昨年の春頃からとある女優さんを好きになった。推しができたのである。
好きなものや気になること、はたまた知りたいものなどについてはちょこちょこと調べてしまう私。
そして、その女優さんがある作家さんの大ファンで本にコメントを寄せていた記事を発見する。
それがきっかけで、出会った本。
それが、『クジラアタマの王様』である。
昨年の春といえば、「はじめに」にも書いたように私の中で読書熱が再熱した頃。
好きな方が好きだと言うものに、ハズレはない!という謎の確信と共にいざ駅前の書店へ!
と意気揚々と出掛けたにも関わらず、在庫なし。
あぁ、無念…と思いながら、その時は気がつけば他の本に手が伸びていた。
それから度々書店を訪れるも、状況は変わらず。
コロナ禍ということもあり、本を買うためにわがわざ大型書店に行くのもなんだかなぁ…となり。
いつしか、文庫化されたら読もうと…本棚もパンク寸前だし。と自分に言い聞かせ、Amazonで購入もせず月日は経った。
それから季節は巡り…今年の春の頭。
いつもの駅前の書店にふらり立ち寄り、本棚を前に気になる本を探していると、あったのだ。
『クジラアタマの王様』が!!
これもう、手に取らないという選択肢はないと思いレジへ。
そしてついに手元にきたのである!
しかし、手元に来て嬉しいはずなぜか積読へ。
(その時読んでいた本が、なかなか読み進められず…)
と…紆余曲折?を経て、先日やっとこさ読み終わりました。
* * *
夢を、見ないか
製菓会社に寄せられた一本のクレーム電話。広報部員・岸はその事後対応をすればよい……はずだった。訪ねてきた男の存在によって、その平穏な日常は思わぬ方向へと一気に加速していく──。
不可思議な感覚、人々の集まる広場、巨獣、投げる矢、動かない鳥。打ち勝つべき現実とは、いったい何か。巧みな仕掛けが張り巡らされた、ノンストップ活劇エンターテインメント!
(NHK出版 クジラアタマの王様 特設ページより引用)
伊坂幸太郎作品は二作目。
一作目は『アイネナハトムジーク』
いろいろ人が僅かに関わり合い、物語が展開され、伏線回収されていくのが好きだ。
今回、本書を読む上であらすじは全く知らない状況で読んだ。
その結果、驚愕の一言である。
読んでいる途中、すぐ最後のページの出版年を確認した。
【2019年7月】
とある…。コロナのコの字もなく、マスクなしで夏を謳歌していた時期ではないか。
偶然の賜物?とでも言うのか、予知とでも言うのか。
伊坂幸太郎さん、恐るべしである。
製菓会社に勤める岸という男。出産を控えた妻とのち生まれる娘の3人暮らし。
勤める会社でのとあるトラブルから、池野内議員という都議会議員とタレントの小沢ヒジリの年齢も職業もバラバラな2人と出会う。
この3人の共通点は、「夢」。
この共通点が物語のキーになる。
物語は現実と夢のと2つが折り混ざって、また挿絵というか物語をより想像させてくれるコミックパートで構成されている。
そのコミックパートがあるからこそ、読み手側の想像力をより豊かにしてくれているような気がした。
ラストの現実と夢とが繋がり合うところがまたいい…!
そして、伏線回収が本当に巧み。さらりと、物語上で散りばめられた物事を最終的に一箇所にまとめる。本当に読んでいて楽しいし、回収された時のこうだったのかというなんとも言えぬニヤニヤ感が癖になる。
また、「新型インフルエンザ」が物語として取り上げられている。
先に書いたように出版年を確認した理由はこれである。
昨年のコロナウイルス発生時の得体の知れない、未知のウイルスとしてのただただ漠然とした不安の中で生きていた頃と、物語上でのインフルエンザが猛威を振るう状況がそっくりだったためである。
得体の知れないものに対しただただ恐れ、その恐れが時に暴走してしまう様が…。
『人間を動かすのは、理屈や論理よりも、感情だ。同じ罪を犯した人に対しても、感情が左右すれば、まったく違う罰を平気で与える。理屈は後からつける。
パニックを起こすのも感情だが、罪を大目に見ようというムードを生み出すのも、感情、というわけだ。』(p,368より引用)
実際に、先月コロナを身近に感じる機会があった。今でこそ、昨年の頃と比べどう対処すればいいのかが明確になっているものの、いざ目の前にすると不安という感情が押し寄せてきた。
結局、人間は感情の動物で喜怒哀楽で生きているのだと読んでいてつくづく思い知らされた。
現実に池野内議員がいたらよかったのにな…なんて思ったりもして。
またこの『クジラアタマの王様』を昨年、読んでいたら見える世界も少し違っていたのかも知れないな。
ぜひ、今こんな世の中だからこそ手にしてほしいなと思う一冊でした。
タイトルでもあり、物語の重要な役割となるハシビロコウを…。
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