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なぜ怒ってしまうのだろう

大病を抱えているわりに毎日穏やかに過ごせていたが、今日「カーーーッ!」と怒ることがあった。コジコジのやかん君みたいだった、私。何が起こったかは重要ではないから書かないでおこうと思ったけど、やっぱり書かないとな。
これは「私はなぜ怒ったのか」という話です。

職場である案件を任された。
たまにくる他人の提案書を作るという謎仕事である。Hディレクターは、イラレもパワポも触れない。私は「自分で企画する提案書は自分で作れよ」と思ってしまう(てかその方が早くない? 体裁だけカッコつけたいだけなら後からそれだけやるからさ……と)しかし、そういうことは言ってはいけない会社の空気。

10:00
今日はパワポで作れという。はい、かしこまり。「明日までに30ページ、ベースは作ってあるから」とのこと。普段触らないパワポを開くと会社のマシンはOffice契約がされておらず、クレジット登録が必要だが、決済権を持つ社長は昼過ぎに戻るという。仕方がないから資料整理して待つ。素材はまとめられてないし、ファイルの在処はぐっちゃぐちゃだしリンク切れてし、ああもう、別にいいけど。

11:00
社長戻る。急いでOffice契約する。社長は、Office契約をケチって「一ヶ月の使用期間内に解約してね」と言う。

12:00
一旦会議が開かれる。原稿に加えて新たな指示書が加わる。「ここはこういうアニメーションにして」など、新たな注文が入る。そして「あなたのセンスで(括弧ワラ)」と言うおじさん構文が本当にきらいだな、と思う。

13:00
明日は休みを貰っているから、一日でパワポを仕上げなければいけない。お昼はおにぎりで済ませる。
Hディレクターは修正ごとに毎回30ページフルカラーで印刷してくる。
(普通に紙がもったいないしかさばる!)
Aの指示はメールで、Bはチャットで、Cの指示はプリントに手書きで、おまけに字が汚ない。
(文章はテキストで打ってまとめてくれ!)
素材のダウンロード先は五月雨式に、上司Cc付きで送ってくる。
(仕事やってます感出すな!メールて!)
むかむかいらいらしながら、作業を進める。
くそう。やってやんよ。

14:00
「一旦見せて」と言われた箇所に修正が入る。うちの会社は、文言修正ごときで毎回小さな会議が開かれる。どうせChatGPTで作ったのだろう、馬鹿みたいな内容を難しそうに言うパワポ構文を読み上げるH。中身のない口八丁の内容。私は制作時間がうばわれて怒っている。

15:00
「どう、出来そう?」Hディレクターの上司がPCを覗いてくる。言い方がキツくて、ニ対一で責められているような気分になる。
私は瞬時に「ぼけ、カス、しね」と、心の中でつぶやいてしまう。本当によくない。
潜在意識には主語はないらしいから、こういうことは心でも思わない方がいい。私は今まで散々これをして、自分を傷つけて病になったのだと思う。いけない、いけない。ホ・オポノポノだ。自分に対しても、相手に対しても「ありがとう愛していますごめんなさいゆるしてください」と心に呟く。しかしそこには「嘘」があるから、葛藤の実は風船みたいに膨らむ。パシンッ!

16:00
思わずマウスを投げてしまう。周囲のビクついた空気に机から落としたフリをするが、バッドモードはダダ漏れしている。ごめん。拾いながら思う。
私は相手の仕事が雑でむかついているのか?
相手のものの言い方にむかついているのか?
あの人とは仕事はしたくないなんてわがままは許されないだろうか。我慢。今日、一日のがまんだ。

17:00
上司に呼び出される。5対1の古参対私で、急きょ会議が行われる。
H「明日、休みだって?それならこの仕事、振らなかったのに早く言ってよ」
私「言いました!」
H「聞いていない!」
社長「で、どのくらいで進んでいるの?」
私「あと一時間ほどでできます」
ぽかーんという沈黙が流れる。
だから、このクソみたいな会議がなければ仕上がってんだよ!お前ら5時間で30ページ作れんのか!

……分かってる。これは「明日は休み」と言ったかどうか問題ではなく、<仕事中いらいらしているあいつに集団でお灸を据えましょう会>である。社長も上司も腕を組み、誰も守ってくれそうにない。やばい。ここは古参であればあるほど正しい磁場空間。声のでかい人だけが勝つってことでいいのか。言い返す力もなく「はい」と言って心腐らせる。いけませんよね、こういうの。でも周りを見渡せば、同僚は皆そうやって生き抜いている。

18:00
残業しパワポは仕上がったものの、結局明日も修正が入るからと、他の人へ引き継ぐ。帰宅。

自分の能力を過信して、染みついた口癖のように
「辞めてやる!」と投げやりに言ってしまいそうになるが(実際、私はマウスを投げた)考えてみよう。私は何に怒っているのだろうか。

怒っている時、私は大概「ナメるな」と怒っている。馬鹿にされて怒っている。大切にされなくて怒っている。人生の時間を無駄に扱われて怒っている。怒りの原因は根本的に幼少期にあるというが、実は親に怒っているとかそうい話は今はなしだ。怒るのは傷ついたから。悲しいから。
事なかれ主義的な会社の空気に怒っているのは、独りよがりに期待しているから。

しかし、私はそんな「命をかけて仕事をしています」なんてつもりは一ミリもない。何十年も同じ仕事を続けて、修正なんてわりとホイホイとやってしまう方だ。長く働き続けるには「無」にすることも心得ているつもりだった。だけど私はなぜかこのHディレクターにだけ強く心が反応をしてしまう。

会社の事情ではあるが、Hディレクターの提案がクライアントに通っているのを、私は2年在籍して見たことがない。このチームは終わってる。そして私もその一員である。私は「くだらない仕事をさせられてむかつく。こんな経歴と能力があるのに」と、子どもみたいに怒っているのか。
相手が無能で、上から目線だからではなく、私がもっと論理的に説明ができれば? 私が率先していいチームにすることができれば? それも出来ない無能な自分に怒っている。いい人間関係を築けなかった自分に怒っている。

私も会社という組織に甘える卑怯な人間であることは認める。そうするしかない選択肢のない自分が情けない。だからこそ毎日平穏に、皆と同じように事なかれ主義的に、根っこの部分だけは腐らせないように、やんごとなき毎日を乗り越えないといけない。

「自分で企画する提案書は自分で作れよ!」というのは私の正義だ。他人の仕事に「口八丁だなぁ」とジャッジしてはいけない。いや、思うのは心の自由だけれど「口八丁はいけないことだ」とジャッジして、自分の中を白黒に色をつけてもいいことがない。私も権利だけを主張して「私は間違っていない、お前は間違っている」と言っているようなものだ。自分を正当化するのに必死になってはいたのは私のほうだ。

だからと言って怒って、自分を責めるのも体にわるい。怒っても、もうどうしようもないのものは、「状況」や「システム」や「世界」が、そういうものなんだ〜と思うしかないのよね。大人になって随分経つけれど、瞬時にクリア出来ていないってことなのよね。

病のわりに毎日穏やかに過ごせていたのは、目の前のことだけに夢中だったから。今飲むジュース、今食べるごはん。カーーーッと怒ってしまったのは、ただ疲れが溜まっているだけなんだろう。

「怒る」も肉体があるからできること。ホルモンバランスのせいか更年期なのかは知らんが、まっとうな体の反応。そんなことに周囲を巻き込んでごめんだけど、何か体の細胞がそうさせているだけ。今後、怒りが沸いても、自分の正義を持ち出すな、それに尽きる。

夜ベッドに入って、二時三時になっても寝付けられなかった。
「平穏に地球のしごとができますように」と手を合わせて祈った。
病むことなく、ごきげんで仕事しよう。
ほんとほんと。

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