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掌編小説 『うそ虫集会』

 うそ虫のみなさん、ごきげんよう。今月も元気よく嘘を喰べていきましょう。

 それにしても最近の我々は、でっぷりと太りすぎですね(笑)。昔はみなさん、もっとスマートだったはず。みんながみんなモデル体型でした(一同笑)。私もご覧のとおり、腹まわりがずいぶん立派になりました。

 最近の人間たちは、よく嘘をつくのでしょうね。昔よりも、ずっと。若い世代には信じられないかもしれませんが、昔はひもじい思いをすることも、いっぱいあったのですよ。人間が嘘をつかないかぎり、我々はその嘘を喰べられないのですから。ただただ人間が嘘をつくのを、腹をかせながら必死に待ったものです。

 昔の人間たちは潔癖で誠実だったのかって? どうでしょうね。昔から本音と建前はよく使い分けていましたからね。けれど今ほど小さな嘘を、それこそ息を吐くようにつくことは、なかったはず。

 顔写真も、経歴も、自慢話も、日常のあれこれも、面と向かってでなければ、さほど良心の痛むことなく嘘がつけますからね。匿名での発言は、人間を無責任にするようです。嘘をついている自覚もなく、むしろ当然のように、つけるのかもしれません。詐欺の電話、偽りの勧誘、まがいもののニュースの発信……。子どもだって容易に出来る時代ですからね。全くインターネット様々、スマートフォン様々です。我々が毎日べても喰べても喰べきれないほどの嘘が、今の世界には満ちあふれている。

 すこぶる良い時代になりましたね。人間も、我々うそ虫も、大変裕福になりました。ですが一点だけ、気をつけなければなりません。我々うそ虫のなかにも、人間のように生活習慣病になる者が出てきました(一同ざわめく)。今後さらに増えていくことでしょう。これまでは見られなかったことです。

 おそらく人間のつく嘘の質が、以前とは変わってしまったのでしょう。近頃の嘘は、お菓子のようにカロリーばかりで肝心の栄養が無い。そりゃあおいしいですけれど、何だかつまらないように感じます。年寄りの云い分ですが。

 このところ、しばしば大戦中のことをおもい出します。あの時は巨大で栄養価の高い嘘を、みなでたらふく分け合ったものでした。当時もよく太っていましたが、今はそれ以上です。一人で際限なく喰べられるようになったからでしょうね。寝転んでいても、手を伸ばせば嘘が落ちているのですから。何の苦労もない。しかし私にはあの頃べていた嘘の味が懐かしい。みなで分け合うことも、とてもたのしかった。

 もしあの頃味わったような嘘を、我々が再び口にするようになったら、その時はとうとう人間も終わりかもしれませんね。まあ、人間が終わったら我々うそ虫もおしまいですから(一同笑)、あの頃の嘘の味は記憶の彼方に押し込めて、いま豊富にあるスナック菓子のような嘘を、困ることなく暢気のんきに喰べて生きるのが良いのでしょうね。くれぐれも、お互い健康には気をつけて(一同頷く)。

 それでは、解散。


【 終 わ り 】

*ギャラリーより素敵な作品をお借りしました。どうもありがとうございます*

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