ユメノ

小説を書いています。 ◇Twitter:https://twitter.com/lemon_cake333 ◆プロフィール:https://lit.link/lemoncake333

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架空掌編小説集 『ユメノハコ』

思い描く掌編小説集のご紹介。その都度、編集していきます。 *掌編小説集『ユメノハコ』について ・シリーズに『ユメガラス』『ユメノマキ』があります。(さらに続編刊行予定) ・イラストがたくさん使われており、アートブックのように眺めているだけで楽しい小説集です。 ・一冊に25〜30編収録されています。幻想的なもの、シュールなもの、ホラー、ヒューマンドラマ……さまざまな味わいの物語が詰まっています。 ・ページの余白は多め。文字は大きめ。行間はやや広めで読みやすいデザインとなって

    • 掌編小説 『外では……』

       外では洪水により、家々が流されたり沈んだりしている。しかし彼女は悠々と、我が家の屋根の上で編み物をしている。  外では未知の怪獣が暴れ回り、次々と街を破壊している。しかし彼女は悠々と、お気に入りの揺り椅子で編み物をしている。  外では兵士たちが烈しく戦い、無数の銃弾が飛び交っている。しかし彼女は悠々と、パイの匂いのするキッチンで編み物をしている。  外では巨大な隕石が迫ってきて、人々が恐慌し逃げ惑っている。しかし彼女は悠々と、あたたかな暖炉のかたわらで編み物をしている

      • 掌編小説 『置き忘れ』

         よく晴れた休日の昼下がりの公園に、ベンチで肩を落とす男の姿はふさわしくない。天気とはうらはらに、彼の人生はいつも薄ぐもりだった。誰にも誇れない、薄暗い人生。外の世界はこんなにも申し分なく晴れているのに、自分の人生にはまるで日が差さないのはどうしてなのか。男は一人、思い悩んでいる。  予期せぬ彼女の妊娠に、する気もなかった結婚をあわててした。双方の親から大反対を受けたが強引に籍を入れ、翌年にはもう一人子どもができた。あっという間に月日は経ち、上の子は今年中学生になった。成長

        • 掌編小説 『おばけのはなし』

           本日もまっしろけ。魂の宿る前の原稿用紙は、憎らしいほど眩い。難攻不落の、少女のように。 「まだ万年筆に原稿用紙とはね。出版社もいい迷惑じゃないのか」  手前が休みだからと鮭とば持ってのこのこやって来た悪友が、机の上のまっさらの原稿用紙を不躾に取り上げる。捲って、何だ、一行も書いていない。安息日もなく熱心に机に向かっていると思ったら、何も書いていないじゃないかと、笑う。 「煩い。いいか、こう云うのは、気分が肝心なんだ」  私は貴重な原稿用紙の束を取り返す。今やどの会社

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        架空掌編小説集 『ユメノハコ』

          掌編小説 『玉どめ』

           どうしても玉どめができない。  縫い終わりに糸を結んで留める、あの玉どめだ。どれだけ先生に教わっても、どれだけ練習しても、できない。他のみんなのように、綺麗な玉が作れない。  不器用なたちなのだ。しかしお針子仕事をしなければ、家族を食べさせてはいけない。学の無い娘が一人前に働くには、他に仕事が無いのだから。  だから懸命に、お針子仕事をおぼえた。睡眠時間を削り、他のみんなの何倍も練習して、ようやく人並みに縫えるようになった。今では縫い目がこまやかで美しいと褒められるほ

          掌編小説 『玉どめ』

          掌編小説 『猫のスープ』

           別居している妻に電話をかけた。飼っている猫がスープになってしまったと。  何の冗談? 彼女は怪訝そうに返した。何の冗談でもない、事実だ。僕が冗談下手のサプライズ嫌いだってこと、君が一番よく知っているだろう。予定外のことは、苦手なんだ。 「だって、どうやってあの子がスープになるの。あなた、もしかして……、」 「ばかなこと言うなよ。それこそ冗談じゃない」  僕はやや本気で怒る。 「そうね、ごめんなさい」  彼女は素直に謝る。「訳が判らなくて」  そうだよな、と、僕

          掌編小説 『猫のスープ』

          掌編小説 『 絶滅博物館』

           父さんに連れられて、絶滅博物館へ行く。此処には絶滅した生きものたちの、模型や化石や剥製が、たくさん展示されている。  とても巨大な施設だ。まるでひとつの街のよう。複数のエリアに分かれていて、一日では到底回りきれない。だから去年の夏休みも、一昨年の冬休みも、此処へ来た。きっと来年の春休みも、此処へ来るのだろう。  探検気分で、僕らは館内へと入る。まだ訪れたことのないエリアに向かった。 「ほら、マンモスだよ」  父さんが分厚い毛皮で覆われた模型を見上げる。ぐるんと巻いた

          掌編小説 『 絶滅博物館』

          掌編小説 『僕たちは大人になる』

           その朝から人々は実年齢ではなく、精神年齢どおりの姿で生活するようになった。これからは飲酒も、煙草も、車の運転も、選挙も、結婚も、精神年齢によって制限される。  この国にはびこる幼児虐待や違法運転、飲酒による迷惑行為や国会議員による不祥事といったさまざまな問題を解決する為である。そうした問題が頻発するのは、未熟な精神を持つ大人に、本来なら扱いきれない権利を許しているからではないか。ならば権利を与えるのは、実年齢ではなく精神年齢を基準にしよう。と、いうことになったのである。

          掌編小説 『僕たちは大人になる』

          掌編小説 『 月の友』

           古い友人が月で死んだ。ともに書物を愛する無二の友であった。彼が月の都に移住をしたのは、今から十年も前のことだ。酷く用心深い性格で、人工知能の所為で事故に遭うのは厭だからと車も運転しない奴だったのに、大胆にも月へ渡ることを決意したのには驚かされた。幼少のみぎりに読んだ竹取物語による月世界への憧れは、成人してもなお金剛石のように彼の内にあったようだ。  その彼が月の都で、事故に遭って死んだ。自分が運転しなくても、事故には遭う。人生とは、つくづく思いどおりにはならない。  無

          掌編小説 『 月の友』

          掌編小説 『未来のカレー』

           社員食堂の端の端の席に座り、買ってきたコンビニのカレーライスの蓋を開ける。店員に温めてもらったばかりなのに、すでに冷めてしまっていた。蓋に貼られたシールには、「代用肉と代用野菜のカレー」と商品名が書かれている。原材料の表示部分を確かめると、米も代用米と識れた。  つまりこのカレーライスは、ほぼほぼ代用品で作られている。イチ押しだの大ヒット商品だのと陳列棚のPOPでしきりに謳われていたので、つい選んでしまった。他に食べたいものが、思いつかなかったのだ。  十年以上前に、「

          掌編小説 『未来のカレー』

          掌編小説 『バケモノ喰らい』

           起き抜けの決まりごとである廁へ行くと、中から見たことのないバケモノが出てきて、 「や、これは失敬。お先に」  涼やかに挨拶をして、澄まし顔で去ろうとするので、 「待て待て、手前は一体何者だ」  肩らしきあたりを摑んで問うたところ、 「何者だとはご挨拶だな。昨夜お前に喰べられたものじゃないか。忘れたのか、せつないな」  などと、妙に哀しげに答えられたので、ううむと唸った。  私はこんなバケモノを喰べたのだろうか。喰べたのだろう、私はゲテモノ食いなのだ。この世のあ

          掌編小説 『バケモノ喰らい』

          掌編小説 「しみ抜き』

           すずらんクリーニング店の鈴原さんは、しみ抜きの達人だ。  何十年という長年の経験と幅広い知識を持ち、あらゆる技術を駆使して、どんな不可能と思われるしみでもすっかり元どおりに消してしまう。それはもう、人の技を超えている。まさに神技と呼べる。その奇跡の腕前を頼って、全国からも、さらには海外からも依頼が舞い込んでくるほどだった。  どんな小さなしみでも、お気に入りのものや、思い入れのあるものについてしまうと、とても残念な、悲しい気持ちになってしまう。日々の色が、ちょっとだけ、

          掌編小説 「しみ抜き』

          掌編小説 『炬燵が飼う』『「同じ月を見ている」』

          #140字小説として、Twitterに投稿したもの二篇。 『炬燵が飼う』 友達の家に行くと、炬燵に知らないおじさんがいた。「この人炬燵から出られないの」と、友達。「ある日突然、炬燵が飼いだしたんだ」無理に引きずり出そうとすると、炬燵が噛みついてくるらしい。私たちはうとうととしているおじさんを無視してウノをやった。おじさんからは餌である蜜柑の香りがした。 『「同じ月を見ている」』 「同じ月を見ている」と偽りの安心を恋人たちに与えてきたことを月は反省する。使い古された台詞

          掌編小説 『炬燵が飼う』『「同じ月を見ている」』

          掌編小説 『由緒正しきサンタクロースの』

           由緒正しきサンタクロースの一族に、私は生まれた。  知らない人が多いだろうが、サンタクロースというのは我らが一族が代々受け継いで着た家業だ。世界各地に一族の者が住んでいて、クリスマスの日に皆で大仕事をする。普段はその大仕事の準備で忙しい。各家庭の子どもの調査や、プレゼントの製造や手配、本番の際の道順を考えたりしている。クリスマス当日しか働いていないように見えるかもしれないが、実は一年中サンタクロースとして密かに走り回っている。  十二月になるとや街なかにサンタクロースが

          掌編小説 『由緒正しきサンタクロースの』

          掌編小説 『彼女の色』

           彼女はなんでもピンクにしたがる。口紅の色、アイシャドウ、ネイル、髪の毛、コンタクトレンズ、洋服や靴や鞄、ノートに傘に歯磨きコップに自転車、そして僕の着る服まで。  はじめてTシャツをピンクに染められた時は仰天した。即座に彼女のところへすっ飛んでいった。お気に入りの一枚だったわけじゃない。セール品のイケてないプリントのTシャツだ。けれど断りもなくど派手なピンク色にされたことに、おおいに腹が立った。いくら付き合っているからって、勝手にこんなことをするなんて。  しかし彼女は

          掌編小説 『彼女の色』

          掌編小説 『童話 奇跡の雪』

           彼は実によく笑う少年だった。彼のことを知る者はみな……ひと目見かけただけの者も……、万物を照らすようなあのくったくのない笑顔を褒めたたえた。彼の笑顔にはつねにこの世界への感謝と喜びがあふれていた。それは寸分の疑いもない純粋のものであり、見る者の心を率直に打った。  彼にはかけがえのない弟がいた。三つ年下の弟は、まだ赤ん坊の頃から重い病と運命をともにさせられていた。小さな躰で、苦い薬とはげしい痛みに日々耐えている。彼は弟の前ではことさらよく笑った。自分が笑うと、病気疲れの弟も

          掌編小説 『童話 奇跡の雪』