この本との出会い⑦ 『夜中の薔薇』
向田邦子著
先日NHK BSの『アナザーストーリー』という番組で、40年前に台湾旅行中に飛行機墜落事故で亡くなった、向田邦子の生涯を追っていました。向田さんは脚本家からエッセイスト、小説家へと転身し、直木賞を受賞した翌年に亡くなりました。享年51歳。亡くなって以降も、彼女は私の最も好きな作家の一人です。
直木賞受賞の記者会見で彼女が見せた、人生を達観しているかのような風貌を見て思いました。今の私より数年若い歳で既に身につけている、成熟と言えるようなものを、今後私にも備えることができるのだろうか、ということを。ただ歳を重ねるだけで、人間としての深さや重みは身につかないでしょう。
彼女と同世代の女性のマジョリティは、結婚して主婦になったのですが、彼女は「結果として」終生独身でした。独身主義を貫いたというより、彼女自身が自分の性格上、このようにしかいられなかったと思われる、徹底的な自己観察が、この本の『手袋をさがす』というエッセイに綴られています。
自分の欠点を挙げ、それに後ろめたさを感じながらも、人から好感を持ってもらえるように、慎ましやかであるふりをすることはできない、と語っています。そういう性質が大きな欠点だとしても、それを抱え続けていくより他はない、といった覚悟に至ります。シンプルに開き直ったというのではなく、「致し方ない」のだということを、ある種の悲しさを含んだ文章で書かれています。
ちょっと屈折した、でも、上品な強がり、といった感じでしょうか。
まさに、「昭和の女」の代表者。憧れと敬意をもって、彼女をそう評したいと思います。