原因帰属理論と動機づけ
モチベーションについてよく考えることがあります。
とくに、来院される方の症状を良くしてゆこうとするときにです。
おたがいが協力して、良い結果に向けて、前向きに進んでいくことが理想ですが・・
すぐに良い結果が出るケースばかりではありません。
ワンチャン、逆転満塁ホームランのような結果を求める気持ち、とてもわかります、共感します。しかし、難しい症状であればあるほど、粘り強く、希望をもって、適切な努力を続けることが必要となってくると感じます。
また、セラピストばかりモチベーションが高く、「頑張ろう」をクライエントに無理に押し付けてしまっても、かえって逆効果になってしまう、みたいなことも、反省となりますが少なからず経験してきました。
そんな時、現在の状況(結果)を
「どのように受け止めるのか」
に注目してみることは、無駄ではないかもしれません。
心理学者のワイナー(Weiner)による原因帰属理論というものがあります。
ワイナーはある出来事が生じたとき、人はどのような原因を求めるのか、という問いに対して
①自分のせい ②自分のせいではない
③変化しにくい原因 ④変化しやすい原因
という4つの原因帰属のスタイルを提唱しています。
たとえば、なかなか膝の痛みが良くならない中年の女性Aさんの場合で考えてみると
「私が悪いんです・・・」
私の努力が不足している/運動をさぼったから
①×④(自分のせい×変化しやすい原因)
「どうせ私には無理なんです・・・」
もともと努力する能力が欠けている/運動、リハビリがそもそも苦手
①×③(自分のせい×変化しにくい原因)
「選択や運が悪かったかも・・・」
たまたまよくない治療者にあたった/たまたま厄年だから
②×④(自分以外のせい×変化しやすい原因)
「どうせもう無理なんです・・・」
・難治性の病気だから
②×③(自分以外のせい×変化しにくい原因)
次にセラピスト側からでは
「腕がまだ未熟だから・・・」
①×④(自分のせい×変化しやすい原因)
私の努力が足りないから/勉強不足だから
「この仕事向いてないかも・・・」
①×③(自分のせい×変化しにくい原因)
セラピストに向いていない/才能がない
「患者の努力が足りないから・・・」
②×④(自分以外のせい×変化しやすい原因)
たまたま治らなかった/患者側の不運な要因
「そもそも難治性でよくならない」
②×④(自分以外のせい×変化しにくい原因)
難治性の病だから
と、このような現状や結果に対する原因を抱く場合があるかもしれません。
ところでクライアントもセラピストも両者がモチベーションを高く持ち続けていくための障壁に「学習的無力感」というものがあるように思います。
「学習的無力感」とは簡単にいうと、失敗や上手くいかないことが続き、どうせ何をやってもなおらない、自分には能力がないといった思いが強くなり、その状況から抜け出す努力ができなくなってしまうことです。
では、そのようにならない為に、どうしたらよいのでしょうか?
原因帰属理論では、うまくいっても、失敗しても、努力のせいにすることが、その後のポジティブな動機づけへとつながりやすいことが示されているようです。
つまり自分のせいにするケースでは、才能がないから(変化しにくい原因)と考えるのではなく、努力が足りないからと受け止めた方が、「次はもっとうまくいくかも」と前に進んでいくことができるからです。
また、自分以外のせいにするケースでは、結果が悪くても落ち込みにくいのは良いのですが、いつもまわりや環境のせいにしていると、自分の努力や能力が低く見積もられて、その人自身の成長がストップしてしまいます。
学習性無力感に陥らずに、モチベーションを保ちつづけるには
・目標設定を「できる程度」に定める
・現在の結果を「自分の努力×変化しやすい原因」に求める
・うまくいく体験を増やして自信をつけてゆく
という風に言えるのではないでしょうか。
膝の動作時の痛みを抱えたAさんについては、痛みが少ない動きを工夫することで、運動量を少しづつ増やしていったり、少しの痛みの変化(好転)にも大きくフォーカスすることで、良い変化への期待をうながすことなどが考えられます。
また、セラピストとしては、結果の原因を自分の才能の無さや、患者だけのせいにせず、高すぎる目標設定を避けて、焦らずじっくりと、できる工夫から行い、着実に少しでも良い結果を重ねて、セラピスト自身も自信を養いながら進んでいくことが望ましいといえます。
本日は以上となります。最後まで読んでいただき感謝いたします。