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100年後あなたもわたしもいない日に | 感想

とある田舎の本屋さんで発見しました。
装丁に惹かれた1冊。

自由闊達にして緩急自在の線を引く寺田マユミのイラスト。そして抽象と具体のあわいを妙と詠む土門蘭の短歌。
そんなふたりが出会って、歌集でもあり、画集でもある本ができました。

文鳥社

「トリミング」がテーマの短歌とイラストの本です。表紙も、このとおり。

この仕掛け、素敵……!
表紙では、前の人の顔と奥の人の手しか見えなかったんですね。

本の中にも、トリミングされている箇所が多くあります。前のページから文字や絵が続き、切り取られ、世界観が造られています。

肋骨が 開いて 羽になればいい
その身ひとつで 空に呑まれる

雨が風船へと変わったり、孤独に佇む人が前を歩く想い人へ変わったり。

凝った装丁、余白の美しいイラストも素敵なのですが、ひとつひとつの短歌がテーマのとおり「日常の風景を切り取る」もので、いろんな世界を角度を変えて見せてもらえるものでした。

特に私が好きな歌をいくつか。

友達の定義について   話す午後
ゆっくり君が   友達になる

        君の吐く
        言葉を固めて
        飴にして
        ときどき舐める   悲しいときとか

どこまでも   ひとりであるのは知っている
時々うっかり   忘れるだけで

イラストと文章、余白で完成されているのであまり説明するのも野暮なのですが。
些細な日常の欠片がきらっと光る、そんな内容でした。

恋人、友人、家族、想い人、過去、未来。
読んで思い浮かべるのは誰か。
いつの思い出なのか、未来に思いを馳せるのか。
読むタイミングによって変化するであろうそれを楽しむのも、またおもしろいのかなと思いました。

最後の一句では、タイトルの「100年後あなたもわたしもいない日に」の句を読むことができます。こちら心にくるので、ぜひお手に取った際に確認してみてください。

文 : 土門蘭
絵 : 寺田マユミ
「100年後あなたもわたしもいない日に」
文鳥社、2017年

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