STEP1.擬律
政教分離規定は①20条3項「宗教的活動」、②20条1項後段「特権」、③89条「公金その他公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、…これを支出し、又はその利用に供してはならない」である。
また、②の金銭的援助が89条であり、これらは「国(の)…宗教的活動」に該当する。すなわち、20条3項>20条1項後段>89条という関係に立つ。
さらに、20条3項は「宗教的活動」の客体を特定していないのに対して、20条1項後段は主体を「宗教団体」、89条は客体を「宗教上の組織若しくは団体」と限定しているため、まずは主体ないし客体の宗教団体性の有無で擬律を考えることになる。
※箕輪忠魂碑訴訟では、宗教団体性を定義するために、目的効果基準を用いている。しかし、大石眞は「宗教に係る公的機関の行為の合憲性を判定する目的効果基準を、その行為の相手方たる私的団体の性格や活動内容を判定するのに用いることは、判断すべきポイントを見誤ったもの」と批判しており、学説上も同調している。それを受けてか、その後の愛媛玉串訴訟では修正されている。
宗教団体性を肯定した判例として、
・愛媛玉串訴訟(最大判H9.4.2)
・空知太神社訴訟(最大判H22.1.20)
※直接の相手方である町内会ではなく、あえてその内部組織の氏子集団を客体と特定したことには批判もある。もっとも、孔子廟訴訟があるため、仮に宗教団体性を否定しても20条3項により違憲となることに変わりはないと考えられる。
宗教団体性を否定した判例として、
・大阪地蔵像訴訟(最判H4.11.16、町内会)
・箕輪忠魂碑訴訟(最判H5.2.16、遺族会)
(・孔子廟訴訟(最大判R3..2.24)、一般社団法人【久米崇聖会】)
STEP2.政教分離原則の解釈
α.厳格分離説(愛媛玉串訴訟における尾崎行信裁判官の意見)
※国家と宗教とのかかわり合いを認定した上で、それが許容されるか否かの判断基準は、「政教分離原則の除外例として特に許容するに値する高度な法的利益が明白に認められる場合、具体的には、①実際上国家と宗教との分離が不可能で、②分離に固執すると不合理な結果を生ずる場合には、例外的に許容される。」
※厳格分離説を否定して、相対的分離説を採用するためには、結局、津地鎮祭事件の法廷意見に乗るのが最も容易であるから、津地鎮祭事件の前半部分を論証した上で、上記の厳格分離説による帰結を端的に示しつつ、同事件後半部分を論証するのが良い。
β.相対分離説(法廷意見)
※孔子廟訴訟の判示が最も端的に政教分離原則の趣旨を示している。これはその他の判例群が国家神道の事案であったことから、そのまま流用することができない部分が存在することに起因する。但し、より完全解を目指すのであれば、儒教の歴史的条件も論じると津地鎮祭事件の論証に近づく。
STEP3.政教分離規定の解釈
※目的効果基準と総合考慮基準とに優位な差はなく、双方共に諸般の事情を総合的に考慮する。その違いに敢えて言及するのであれば、“問題となっている行為の開始時点において、その目的に宗教的意義が認められるか否か”である。ある場合は目的効果基準、ない場合は総合考慮基準である。宗教的意義がない場合には目的効果基準の第1要件である目的要件を突破しないおそれがある(ただし、抽象的な危険にすぎず、客観的に諸要素を考慮すれば目的要件をパスできると考えられる)ため、客観的要素に焦点をあてた基準の定立がなされる。
α.目的効果基準(要件検討型)
目的効果基準とは、判例上は、「宗教的活動」の意義としての要件要素であり、その内容は、①行為の目的が宗教的意義をもち、②その効果が宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になるような行為である。もっとも、どの類型であっても用いることができると考えても良いだろう(判例は「宗教的活動」該当性で論証している点にいは触れること)。
※STEP4.の内容ではあるが、(d)当該行為者が当該行為のを行うについての意図、目的及び宗教的意識の有無、程度において、判例は神職を基準に判断している。しかし、国家と宗教とのかかわり合いの有無の判断対象は、国家の”関与行為”、すなわち、市が宗教的性格を有する起工式を主催等することにより、国が宗教と関わり合いをもった、という点のはずである。神職が行った起工式は、”関与対象行為”であり、両者は区別すべきであるとするのが学説の理解である。
渡辺康行は、「津地鎮祭判決が目的効果基準の判断要素として挙げていたものの一部は、実際には『かかわり合い』の審査の要素として用いている」と指摘する。
β.総合考慮基準(要素検討型)
※空知太神社訴訟では、重要な考慮要素として、①(a)当該宗教施設の性格や来歴、(b)無償提供に至る経緯(c)利用の態様、②神社の土地につき、もともと私人が市に寄付したもので、「寺社等に無償で貸し付けてある国有財産の処分に関する法律」の適用があるはずという要素が挙げられている。
※なお、同日に出された富平神社訴訟(最大判H22.1.20)は、まさに「寺社等に無償で貸し付けてある国有財産の処分に関する法律」の適用(譲渡行為)があったものであるから、政教分離原則の趣旨に則した行為であるため、合憲となっている。
※孔子廟訴訟では、重要な考慮要素として、(a)当該施設の性格、(b)当該免除をすることとした経緯が挙げられている。
STEP4.政教分離規定違反の有無の検討
α.「かかわり合い」の有無の審査
※外形的側面から客観的に「かかわり合い」を認定している。ただし、後述のように、その「かかわり合い」は間接的であるとして、目的効果基準の簡易な適用を導いている。
※前述のとおり、「かかわり合い」の有無は、政教分離原則の趣旨からすると、(d)「当該行為者」とは、本来は、かかわり合いをもたらす行為(関与行為)の行為者である市長以下の関係者を指すべきである。
※ここでも、関与対象行為である例大祭や慰霊大祭などが考慮の対象となり、外形的側面と神社の宗教的意識を検討している。こうすると判例にしたがって書く場合には素直に関与対象行為の「行為者」としての認識を検討しても問題ないだろう()。
※津地鎮祭は「宗教とのかかわり合い」と認定したのに対し、愛媛玉串訴訟では「県が特定の宗教団体の挙行する重要な宗教上の祭祀にかかわり合いを持った」とより具体的に認定している。これは起工式のように世俗性の高いものと対比する趣旨であろう。答案で違憲筋を書く場合にはこのように特定する方が良い。
※孔子廟訴訟では「かかり合い」の有無を認定していないが、同様の事案類型である空知太神社訴訟の趣旨と同じであるとすることから、「かかわり合い」の存在を前提としている、と考えるべきであろう。なお、空知太神社訴訟の判示事項(関連部分)は「市が連合町内会に対し市有地を無償で神社施設の敷地としての利用に供している行為」であり、孔子廟訴訟の判示事項(同)は「市長が市の管理する都市公園内に孔子等を祀った施設を所有する一般社団法人に対して同施設の敷地の使用料の全額を免除した行為」である。
⇒答案で「かかわり合い」を認定する際には、「国又は公共団体が、国有地に後述するような宗教性を有する施設を所有する一般社団法人に対して、敷地の使用料の全額を免除する行為は「宗教的活動」として憲法20条3項との抵触が問題となる行為である」となるか。もっとも、そこまで判例の論証に拘泥せず、端的に「かかり合い」がある、と認定する方が綺麗かもしれない。
β-1.目的効果基準の厳密な検討
β-2.目的効果基準の簡易な検討
γ.総合考慮基準の検討
参考文献
・蟻川恒正「政教分離規定『違反』事案の起案(1)〜(3)」法学教室434号108頁以下,435号111頁以下,436号90頁以下(有斐閣,2016)
・蟻川恒正「裁判における事実の解像度」蟻川ほか『憲法の土壌を培養する』(日本評論社,2022)
・渡辺康行『「内心の自由」の法理』325-365頁(岩波書店,2019)
・赤坂正浩「10.孔子廟訴訟」辻村みよ子『憲法研究 第10号』99頁以下(信山社,2022)
・高瀬保守「判解」ジュリスト1560号76-84頁(有斐閣,2021)
・判例の引用の一部は、京都産業大学の基本判例集(http://www.cc.kyoto-su.ac.jp/~suga/hanrei/hanrei-top.html#shinkyou)を利用させていただいた。