#321 「杉並区事件」東京地裁(再々掲)
2012年10月17日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第321号で取り上げた労働判例を紹介します。
■ 【杉並区(以下、S区)事件・東京地裁判決】(2011年9月6日)
▽ <主な争点>
嘱託員の再委嘱拒否、定年後の再雇用法理など
1.事件の概要は?
本件は、S区の嘱託員であったXが(1)同区とXの関係は私法上の労働契約関係であり、S区がXに嘱託員の職務を再委嘱しなかったことは解雇権濫用法理の類推適用により無効である、(2)仮にS区とXの関係が公法上の任用関係であるとしても、本件の事情に鑑みれば、権利の濫用、権限濫用禁止に関する法理の適用があるというべきであるから、再委嘱しなかったことは違法である、(3)S区は井草地域区民センター協議会(以下、I協)との共同不法行為、またはS区の単独の不法行為によりXの権利を侵害した、などと主張し、同区に対し、嘱託員としての地位確認、未払賃金および慰謝料の支払いを、I協に対し、慰謝料の支払いを求めたもの。
なお、XはS区の職員として採用され、平成18年に退職後、I協に2年間勤務し、20年4月からはS区の非常勤職員である嘱託員として勤務していたが、同区は21年4月以降、Xに嘱託員としての勤務を委嘱しなかった。
2.前提事実および事件の経過は?
<S区、I協およびXについて>
★ S区は、地方公共団体であり、東京都の特別区の一つである。
★ I協は、地域の活性化を図る目的で、地域区民センターなどの集会施設を使用して、祭りや学級講座などの事業を実施する任意団体であり、S区からの補助金によって運営されている。
★ X(昭和21年生)は、昭和51年4月、S区の職員として採用され、国民年金課長、課税課長などを歴任後、平成18年3月31日に同区を定年退職した者である。
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<Xの定年退職後、嘱託再任用拒否に至った経緯等について>
▼ XはS区定年退職後の18年4月、I協の事務局長に就任した後、19年4月、同事務局長に再任された(Xの任期は20年3月31日、満了した)。
▼ Xは20年4月、S区教育委員会から、中央図書館嘱託員を委嘱された(Xの任期は21年3月31日、満了した)。
▼ Xはシニアユニオン東京に加入し、以後、S区またはI協との間で、複数回の団体交渉を行った。
▼ S区はXに対し、21年2月25日付で任期満了通知書を交付した。同書面には「貴殿のS区嘱託員の任期が21年3月31日をもって満了し、次年度の更新は予定しておりませんので、通知します」と記載されていた。
▼ XはS区に対し、同年3月2日付で「雇止め(再任拒否)理由書の交付請求について」と題する内容証明郵便を発出したところ、S区はXに対し、同月11日付で「雇止め(再任拒否)理由書の交付請求について(回答)」と題する書面を送付した。同書面には「21年2月25日付、任期満了通知書により通知しましたとおり、21年度においては新たに任用する職務はないため通知しました」と記載されていた。
★ XのS区中央図書館における勤務状況の評価は、(1)出欠状況(欠勤・遅参等)、(2)業務遂行・接客・区民対応等(態度・言葉遣い等)、(3)勤労意欲(積極性・主体性)、(4)職場内協調性の4項目について、いずれも5段階の「C」(良好)評価であったが、職務報告書における所属長判断は「D」(更新不可)であり、その理由として「次年度任用する業務が現職場には存在しないため」と記載されている。
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<I協の人事規則、S区教育委員会嘱託員取扱要綱等の規定について>
★ I協の人事規則には、以下の規定がある。
(任用期間)
第5条 職員の任用期間は1年とする。
2 特別の事由がないかぎり、次の各号に掲げる者を除き1年を超えない範囲内で再任することができる。
(1)満65歳以上の者
(2)勤務成績が不良と認められる者
3 略
★ S区教育委員会嘱託員取扱要綱(以下「要綱」という)には、以下の規定がある。
(任用期間)
第5 嘱託員の任用期間および再任は、次の各号に定めるところによる。
(1)任用期間は、4月1日から起算して1年間とする。(後略)
(2)教育委員会は、嘱託員を再任することができる。ただし、その者に係る最初の任用の日から6年を超えて任用することができない。
(3)略
(4)教育委員会は、嘱託員の再任にあたっては、別に定める更新基準およびその者の勤務実績等に係る所属課長(中略)の意見を勘案して決定する者とする。
(身分)
第6 嘱託員の身分は、地方公務員法(昭和25年法律第261号)第3条第3項第3号に定める非常勤の職とする。
★ S区教育委員会嘱託員取扱要領(以下「要領」という)には、以下の規定がある。
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