#381 「X庁懲戒免職処分取消請求事件」東京地裁(再掲)
2015年3月4日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第381号で取り上げた労働判例を紹介します。
■ 【X庁懲戒免職処分取消請求事件・東京地裁判決】(2014年2月12日)
▽ <主な争点>
国家公務員に対する酒酔い運転を理由とする懲戒免職処分の取消請求など
1.事件の概要は?
本件は、X庁の職員Yが酒酔い運転を理由として、同庁長官から平成21年3月2日付で国家公務員法(国公法)82条1項1号および3号に基づく懲戒免職処分(本件処分)を受けたことから、本件処分の違法性を主張してその取消しを求めたもの。
Yは「本件酒酔い運転は飲酒による一過性の精神障害により、就寝後、何かに襲われ殺されそうになる感覚に陥り、パニック状態で部屋を飛び出し、駐車場まできたところ、さらにその場から逃げ出そうとして自動車を発進させた」と主張した。
2.前提事実および事件の経過は?
<Yについて>
★ Y(昭和40年生)は、昭和61年4月、農林水産技官として、農林水産省(農水省)の○○農政局に採用された者であり、平成19年4月、農林水産事務官として、農水省の外局であるX庁の地方支分部局である○○漁業調整事務所に転任した。この間、平成18年4月には農林水産大臣により勤続20年の表彰を受けている。なお、Yは○○農政局およびX庁において、本件処分以外に懲戒処分歴を有していない。
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<本件酒酔い運転に至った経緯等について>
▼ Yは平成20年8月15日(年次休暇取得日)、新潟市内の自宅から自家用自動車(以下「本件自動車」という)で福島県内の実家に帰省し、同月16日(週休日)、飲食する約束をしていたA(農政事務所の職員でYの友人)を迎えに本件自動車を運転してAが居住する福島市内の独身寮に向かい、同日午後5時20分頃、同所に到着した。
▼ YはAを同乗させた後、約1キロメートル離れた農政事務所の駐車場まで運転し、同日午後5時30分頃、上記駐車場に本件自動車を駐車して、農政事務所前でAの友人2名と合流した。
▼ Y、AおよびAの友人2名は農政事務所前から居酒屋まで徒歩で移動し、同日午後6時頃から9時30分頃までの間、飲食し、Yは生ビール3杯程度および酎ハイ4杯程度を飲んだ。
▼ Yらは別の居酒屋に移動して同日午後10時頃から11時頃までの間飲食し、Yは焼酎のお湯割り3杯程度および焼酎の原酒1.5合程度を飲んだ。その後、YおよびAはおでん屋に移動して翌17日午前0時頃までの間飲食し、Yは焼酎のお湯割り2杯程度を飲んだ。
▼ YおよびAは上記おでん屋を出た後、Aの部屋に到着し、コンビニで購入した缶ビール1本を飲んだ後、同日午前1時頃、就寝した。
▼ YはAの就寝中に徒歩で農政事務所の駐車場まで行き、駐車していた本件自動車に乗車して、約94メートルの距離を走行させた後、一方通行道路において、同自動車を進行方向左側の歩車道境界の縁石に乗り上げさせた。その状態のまま本件自動車を動かすことができずにいたYは同日午前2時46分頃、巡回中の警察官に発見され、呼気中アルコール濃度の検査を受けたところ、呼気1リットル当たり0.9ミリグラムのアルコール量が検出された(以下、Yの上記運転行為を「本件酒酔い運転」という)。
▼ Yは同日午前2時56分頃、道路交通法違反(酒酔い運転)の現行犯人として逮捕され、同月18日、釈放された。なお、Yは酒酔い運転の際に人身事故および物損事故をいずれも発生させていない。
★ 本件酒酔い運転の事実については、毎日新聞、読売新聞および朝日新聞の各朝刊地方版ならびに△△日報および××民報の各朝刊において、X庁職員が酒酔い運転容疑で逮捕された旨の記事が掲載された。
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<本件処分、国公法の規定等について>
▼ Yは本件酒酔い運転により、同年11月、新潟県公安委員会から運転免許取消処分を受けたほか、21年1月、道路交通法違反(酒酔い運転)の罪(同法117条の2第1号、65条1項)により、新潟簡易裁判所から罰金60万円の略式命令を受け、同年2月、上記罰金を納付した。
▼ X庁長官は本件酒酔い運転が国公法82条1項1号および3号の懲戒事由に該当するとして、同年3月2日付でYに対する上記各号に基づく懲戒免職処分(以下「本件処分」という)を発令し、同月6日、Yに対し、本件処分に係る懲戒処分書および処分説明書を交付してこれを告知した。
★ 国公法82条(懲戒の場合)1項は「職員が国公法等に違反した場合(同項1号)」または「国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合(同項3号)」には、当該職員に対する「懲戒処分として、免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる」旨(同項柱書)を規定する。また、同法99条(信用失墜行為の禁止)は、職員が「その官職の信用を傷つけ、又は官職全体の不名誉となるような行為をしてはならない」旨を規定する。
▼ Yは本件処分を不服として、同月30日、人事院に対して審査請求を行ったが、人事院は24年3月、本件処分を承認する旨の判定をした。その後、Yは同年9月、本件処分の取消しを求める本件訴えを提起した。
3.国家公務員Yの主な言い分は?
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