#493 「エボニックジャパン事件」東京地裁(再々掲)
2019年8月21日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第493号で取り上げた労働判例を紹介します。
■ 【エボニック・ジャパン(以下、E社)事件・東京地裁判決】(2018年6月12日)
▽ <主な争点>
定年後再雇用について労使協定に定める基準を充足しないことを理由とした雇止めなど
1.事件の概要は?
E社の元正社員であるXが平成27年3月末日付で60歳の定年により退職し、雇用期間を1年間とする有期雇用契約により再雇用された後、「定年退職後の再雇用制度対象者の基準に関する労使協定」所定の再雇用制度の対象となる者の基準(本件再雇用基準)を充足しないことを理由として、28年4月1日以降は同契約が更新されず、再雇用されなかった(本件雇止め)。
本件は、Xが本件雇止めについて、実際には本件再雇用基準を充足していたことなどから、労働契約法19条2号により、同一の労働条件で同契約が更新されたとみなされること、27年分および28年分の業績賞与の査定等に誤りがあることなどを主張して、E社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに本件雇止め以降の未払基本給(バックペイ)ならびに前期業績賞与の未払分の支払を求めたもの。
2.前提事実および事件の経過は?
<E社およびXについて>
★ E社は、有機化学工業製品、無機化学工業製品、医薬品、農薬、農業用肥料、触媒、特に貴金属を含む触媒およびこれらに関連する製品の輸出入ならびに製造および売買等を目的とする会社である。
★ X(昭和30年3月生)は、平成20年3月、E社との間で期間の定めのない雇用契約を締結後、27年3月末日付で60歳の定年により退職し、同社との間で同年4月1日から28年3月31日までの1年間を雇用期間とする有期雇用契約(以下「本件再雇用契約」という)を締結した者である。
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<本件雇止めに至った経緯等について>
▼ E社は28年2月、Xに対し、「定年退職後の再雇用制度対象者の基準に関する労使協定」(以下「本件労使協定」という)所定の再雇用制度の対象となる者の基準(以下「本件再雇用基準」という)のうち、「過去3年間の人事考課結果が普通の水準以上であること」(以下「本件人事考課基準」という)を充足しないことを理由として、本件再雇用契約が同年3月31日をもって終了し、同年4月1日以降はこれを更新しない旨の通知を行った(以下「本件雇止め」という)。
★ なお、E社は個人業績分および部署業績分からなる業績賞与の制度を有していたが、Xに対して、27年分および28年分の業績賞与について、それぞれ部署業績分しか支払っておらず、個人業績分は支払っていなかった。
▼ Xは、本件雇止めは本件再雇用基準を充足しないことを理由とするが、実際には同基準を充足していたことから、労働契約法19条(有期労働契約の更新等)2号により同一の労働条件で同契約が更新されたとみなされるとして、E社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認および本件雇止め以降の未払基本給(バックペイ)の支払いを求めるとともに、27年分および28年分の業績賞与の未払分の支払いを求め、提訴した。
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<E社における就業規則等の規定について>
★ 就業規則16条(定年)は、1項において「定年は60歳とし、定年に達した月の末日をもって退職とする」と定め、2項において「1項の規定に関わらず、以下の各年齢(25年4月1日から28年3月31日まで:61歳、など)までは、14条退職・17条解雇の事由に該当しない者であって、本人が希望する場合については、定年後再雇用するものとする。なお、同年齢以降はE社と従業員の過半数を代表する者との間で締結された本件労使協定の1項の基準(本件再雇用基準)を準用する」と定める。
★ 本件労使協定は、18年4月、24年の改正前の高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年法)9条2項の規定に基づき、就業規則16条に定める定年退職後の再雇用制度の対象となる者の基準(本件再雇用基準)に関して、E社と従業員代表者の間で協定されたものである。
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