#60 「パソナ事件」東京地裁
2004年10月27日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第60号で取り上げた労働判例を紹介します。
■ 【パソナ(以下、P社)事件・東京地裁判決】(1996年6月24日)
▽ <主な争点>
派遣先会社から派遣元会社に対する損害賠償
1.事件の概要は?
本件は、人材派遣会社であるP社から基礎地盤コンサルタンツ(以下、K社)に派遣されたAが、その派遣先であるK社において契約業務を行うに当たり、金員を不正に領得したとして、K社が不法行為に基づく損害賠償請求、ないしは派遣元であるP社に対し、K社との間で締結した労働者派遣基本契約(以下「本件契約」という)に基づく損害賠償請求をしたもの。
2.前提事実および事件の経過は?
<本件契約の締結に至った経緯等について>
▼ K社は本社総務課で社会保険手続事務を担当していた社員Cが産休に入るため、その代替要員としてP社に人材派遣を依頼することにした。そこで、K社の総務課長であったSは、平成5年9月、P社の人材派遣担当者であるOに社会保険事務を独力で担当できる人員を補充したいと伝えて人材派遣の申し出をした。
▼ CとSはOに対し、派遣業務のうち社会保険手続の内容は、健康保険組合(以下「健保組合」という)からの各種給付金の受入れ仕分け、支払い手続であることを説明した。その際、現金取扱業務が含まれることの概要も説明したが、Oから特に現金取扱いについての確認や現金取扱いはさせないで欲しいとの申し出はなかった。
▼ K社はP社との間で同年10月1日、本件契約を締結したが、契約書には「派遣社員には金銭の取扱いをさせないこととする」趣旨の条項は規定されていなかった。
▼ P社は派遣希望者登録名簿から社会保険業務ができるということでAを派遣社員とすることにし、Aと雇用契約を締結して、同年11月2日から翌6年12月1日までの間、K社に派遣した。その際、業務内容は「ファイリング、給与計算、社会保険手続」とされた。
★ P社はAを登録名簿に登録する際および雇用契約を締結する際、Aから履歴書の提出を求めて面接したが、戸籍謄本や住民票の提出を求めて確認する等しなかった。
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<K社におけるAの業務内容等について>
▼ AはSから派遣業務内容である社会保険手続について説明を受け、手続の一環として、各種給付金の受入れおよび支払い事務(以下「本件現金取扱業務」という)を担当したが、Aから本件現金取扱業務が契約外業務であるとの申し出はなかった。
▼ OはAが派遣されて後、しばらくは週一回程度、その後は月一回程度Aの仕事ぶりを見に来ていたが、OからK社に対して、Aが現金取扱業務を行っていることが契約外業務であるとか、現金取扱業務をさせないで欲しい等の申し出はなかった。
▼ Aは健保組合からK社本社の銀行口座に各種給付金が振込送金されると、あらかじめ健保組合から送付されている個人別内訳書から本社受給者分と支社受給者分に分けて転記して、それぞれの内訳書を作成しておき、月一度銀行に行き、内訳書に基づき、各支社への送金分はまとめて本社経理の口座に振り込み、直接受給者に交付する残りを口座から引き出して本社に持ち帰っていた。
▼ Aは隣に経理の担当者もいる中で、自分の机の上で本社分の給付金を内訳書に基づき振り分け、受給者各人に配布して領収印をもらっていた。Sは健保組合からの振込金額とAの引き出した金額を確認していたが、具体的な支社分の送金金額および本社の受給者に対する配布金の合計額の確認はしていなかった、
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<Aによる不正の発覚、その後のK社とP社の対応等について>
▼ Aの派遣終了後、K社は従業員から各種給付金の不支給の苦情が出たため調査したところ、健保組合からの個人別内訳書から、本社分および支社分の各内訳書が作成されるにあたって、一部の者の転記がなされず虚偽の内訳書が作成され、それに基づいて、受給者に保険金が支給され、総額で266万6703円が不支給の各種給付金の不明金として発覚した。K社はAの不正領得によるものと判断し、支給を受けなかった従業員に対して直ちに補填して支給した。
▼ K社が上記調査を踏まえ、7年2月3日付の書面でP社に対し、事実関係の確認を求めたところ、P社は同年3月4日付の書面で、不明金の半額を同年3月末までにとりあえず立替え、半分はAに確認の上、Aから返金させる旨の回答をした。
▼ これに対して、K社から全額支払いの申し出がなされ、P社はK社に対し「Aとの連絡がとれないことから、事実関係を明らかにするため、K社に刑事告訴を求め、その手続で有罪となり横領金額が確定すれば本件契約第7条* に基づき、損害賠償の責任を負う」旨の回答をした。
* 本件契約第7条
「派遣労働者が派遣業務に伴い、故意または重大な過失により、K社に損害を与えたときは、P社は誠意をもって解決にあたる」
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