#146 「引越社関西事件」大阪地裁
2006年7月26日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第146号で取り上げた労働判例を紹介します。
■ 【引越社関西(以下、H社)事件・大阪地裁判決】(2006年3月10日)
▽ <主な争点>
支給後に退職した場合の「奨励金」の返還/労働基準法上の賃金に該当するか
1.事件の概要は?
本件は、支払い予定日までに実際に勤務していない場合(支給日前に退職ないし年休を取得した場合)には返還することを条件に「奨励金」を前借りしたXがH社を退職したところ、同社がすでに支払った「奨励金」の返還請求権とXが有する社内預金請求権および共済組織退職加算金請求権とを相殺したとして一部金員の支払いを拒んだため、Xが「奨励金」は賞与ないしは労働基準法(以下「労基法」という)上の賃金に当たり、一定の場合に返還義務を定めているのは労基法第17条* または公序良俗に違反するとして、未払いの上記金員等の支払いを求めたもの。
* 労基法 第17条(前借金相殺の禁止)
「使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない。」
2.前提事実および事件の経過は?
<H社およびXについて>
★ H社は、引越の請負を業とする会社である。
★ Xは平成9年7月にH社に入社し、16年8月末に退職したが、退職当時H社の関西本部所属の支店長であった。
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<「奨励金」および本件相殺について>
▼ 16年5月、XはH社から50万円の支給を受けたが、その明細は賞与が12万5000円、奨励金(1)が18万7000円、奨励金(2)が18万8000円とされており、H社は前記50万円を基準として、同金員から社会保険料および所得税を控除した。
▼ Xは退職後の精算時である17年1月、H社に対し、社内預金約35万円およびH社が管理する共済組織であるH社友の会の退職加算金約25万円の請求権を有していたが、H社は16年7月・8月分として、前記奨励金(1)と(2)の合計37万5000円の返還請求権をもって、Xの前記各請求権とその対当額において相殺し(以下「本件相殺」という)、残金約23万円をXに返還した。
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<H社の就業規則(賃金規程)等について>
★ H社の賃金規程には以下の規定がある。
第3条(賃金の分類)
賃金の分類は次のとおりとする。
(1)給与 (2)賞与 (3)退職金
第25条(賞与・賞与の支払日)
会社は毎年1月、5月および9月に会社の業務を考慮した上、従業員の過去4ヵ月間の勤務成績等に応じて賞与を与えることがある。
2.賞与は支給日に在籍していない者には支給しない。
3.賞与の支払期日は原則として1月29日、5月29日および9月29日とし、業務上やむを得ない場合は、翌日とする。
★ H社においては、賞与の支給時期となると、以下の内容の「奨励金」前払い申込書を交付して、その内容にしたがい、「奨励金」の前借りを希望する従業員については、前記申込書に署名・押印するように求めていた。
(a)賞与に加算して、賞与支払日以降に支払われる予定の2ヵ月分の「奨励金」を貸し付けることを申し込む。その返還債務は、前記「奨励金」の支払時期に取得する「奨励金」支払債務と相殺する。
(b)途中退社した場合には、「奨励金」返還債務を社内預金や中退金から優先して相殺することに合意し、不足分は持参または送金して支払うことを確約する。
★ 前記申込書を提出した従業員には、賞与支給日に賞与・奨励金(1)・奨励金(2)の項目ごとに金額が明示されて、賞与等が支給されていた。
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