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#159 「新国立劇場運営財団事件」東京地裁

2006年11月1日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第159号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【新国立劇場運営財団(以下、S法人)事件・東京地裁判決】(2006年3月30日)

▽ <主な争点>
合唱団メンバーの出演契約は労働契約に当たるか否か

1.事件の概要は?

本件は、S法人との間で1年とする出演基本契約を締結・更新し、合唱団のメンバーとして同法人の主催するオペラ公演等に出演していたが、同法人から次シーズンの出演基本契約を締結しないとの通知を受けたXが「出演基本契約は労働契約であり、その更新拒絶は労働基準法(以下「労基法」という)第18条の2* 、労働組合法第7条(不当労働行為)1号に違反し、無効である」と主張して、S法人に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認および契約期間満了後の賃金の支払いを求めたもの。

* 労基法 第18条の2(解雇)
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」

2.前提事実および事件の経過は?

<S法人およびX等について>

★ S法人は、新国立劇場の施設において現代舞台芸術の公演等を行うとともに、同施設の管理運営を行い、もって我が国現代舞台芸術の創造、振興および普及に寄与することを目的とする法人であり、この目的を達成するため、現代舞台芸術の企画、制作および公演その他の事業を行っている。

★ X(昭和24年生)は、二期会オペラ合唱団のソプラノ担当として演奏活動を続けた後、平成10(1998)年以降はS法人との間で出演契約を締結して、新国立劇場合唱団のメンバーとして演奏活動を続けていた。なお、Xは二期会当時から音楽家の個人加盟による労働組合「日本音楽家ユニオン」に所属している。

★ 新国立劇場のメンバーには、契約メンバーと呼ばれる者と登録メンバーと呼ばれる者とがあり、前者はS法人との間で契約メンバー出演基本契約を、後者は同法人との間で登録メンバー出演基本契約をそれぞれ締結している。

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<XとS法人との間の出演契約について>

▼ Xは9年7月、S法人が実施したオーディションに応募して合格し、10年3月から11年7月までの間、個別公演ごとに同法人との間で出演契約を締結して、同法人の主催する公演に合唱団員として参加した。

★ この契約では、「(1)各人の業務内容につき、合唱団契約メンバーとして、公演および稽古等に参加すること、(2)報酬について、稽古は1コマごと、本番等は回数ごとに定められた単価に基づき算出された額を支払うこと、(3)契約当事者は、契約から生じる自己の権利義務を第三者に譲渡したり承継させたりすることはできないこと、(4)契約に基づく出演義務の遂行に支障がないかぎり、契約メンバーが他の音楽活動をすることができること」等が定められていた。

▼ S法人は1999/2000シーズン(11年8月~12年7月)以降は毎年、契約メンバーとの間で期間を1年間とする出演基本契約(以下「本件出演基本契約」という)を締結するようになり、Xとの間でも11年から14年まで計4回、契約を締結した。

★ 2001/2002(13年8月~14年7月)シーズン以降の出演基本契約から、「S法人は再契約に先立ち試聴会を行い、契約メンバーの技能について審査の上再契約の申し出をするか否かを決定する」という趣旨の条項が付加された。

▼ 15年2月、S法人は試聴会(以下「本件試聴会」という)を実施した後、Xに対し、「試聴会の結果、Xが次シーズンの契約合唱メンバーとしての合格水準に達していないと判定したが、登録合唱メンバーの手続を申し込む用意がある」旨を文書で通知した。これに対し、Xは登録メンバーとなる申込みをしなかった。

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<出演契約等に関するその他の事実について>

★ S法人は契約メンバー出演基本契約締結に先立ち、各メンバーと面談を行って、予定する公演に出演可能か否かを確認し、スケジュール調整ができないメンバーに対しては、契約メンバー出演基本契約の申し込みをせず、登録メンバーとしての出演基本契約を申し込んでいた。

★ S法人との間において出演基本契約を締結した契約メンバーは、2000/2001シーズン以降、出演する個別公演ごとにS法人との間において、個別出演契約書を取り交わしていた。

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