#380 「渋谷労働基準監督署長事件」東京地裁
2015年2月18日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第380号で取り上げた労働判例を紹介します。
■ 【渋谷労働基準監督署長(以下、S労基署長)事件・東京地裁判決】(2014年3月19日)
▽ <主な争点>
中国ロケでの宴会の飲酒行為と業務上の死亡など
1.事件の概要は?
本件は、X(Yらの子)が雇用主である甲社の業務として行った出張中にアルコールを大量摂取した後に嘔吐し、吐しゃ物を気管に詰まらせて窒息死したことについて、労働者災害補償保険法(労災保険法)7条1項に規定する労働者の業務上の死亡に当たると主張して、S労基署長(本件処分行政庁)に対し、Yら2名が遺族補償一時金、葬祭料をそれぞれ請求したところ、本件処分行政庁がいずれも支給しない旨の処分をしたため、Yらにおいて両処分の各取消しを求めたもの。
Xは映像制作を業とする甲社に雇用され、照明、音声などの担当者として業務に従事していたところ、NHKのディレクターや従業員とともにロケのため約10日間の予定で中国へ赴いた。21年4月8日午後7時前頃から1時間ないし1時間半程度、ロケに同行していた中国共産党委員のFを招いて、日本人スタッフの主催による本件ロケ中締めの会が開催された(本件第1会合)。
本件第1会合の後、同日午後8時30分頃から、別の飲食店でFの主催する返礼の宴会(本件第2会合)が行われ、白酒(パイチュウ)と呼ばれるアルコール度数の高い酒が出され、Xを含む日本人スタッフはいずれも白酒を複数杯飲んだ。
Xは同日午後10時頃、宿泊先のホテルに戻ったが、翌9日午前2時頃、自室において、吐しゃ物を気管に逆流させて窒息死した。
2.前提事実および事件の経過は?
<X、Y、Zおよび甲社について>
★ X(昭和52年生)は、平成12年5月に甲社に雇用された者である。YはXの父であり、ZはXの母である。
★ 甲社は、映像制作を業とし、日本放送協会(NHK)からテレビ番組の制作を請け負った乙社から、上記番組制作に係る映像取材関連の照明・音声業務を請け負っており、Xは照明、音声等の担当者として、上記業務に従事していた。
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<本件中国ロケ、本件事故に至った経緯等について>
▼ Xは平成21年4月1日、ドキュメンタリー番組「NHKスペシャル 日本海軍400時間の証言」(以下「本件番組」という)の制作のため、NHKの従業員で本件番組のプログラムディレクターであるAおよびカメラマンのBとともに約10日間の予定で中国へ取材に赴いた(以下「本件中国ロケ」という)。
▼ 本件中国ロケには日本人スタッフのほか、中国人のスタッフとして、コーディネーター兼通訳のC、現地リサーチャーのDおよび運転手のEが同行した。このほか、中国共産党珠海市金湾区三灶鎮委員会の宣伝委員であるFがロケに同行し、現地での調整業務、通訳などを行った。なお、「鎮」は中国における行政区画の一つである。
▼ 同月8日までに予定していた現地住民へのインタビューは終了し、Fの同行が終了することから、同日、Fを招いて、日本人スタッフの主催による中締めの会が開催され、両国スタッフは午後7時前頃から1時間ないし1時間半程度、レストランにおいて飲酒(ビール)を伴う食事をした(以下「本件第1会合」という)。
▼ 同日午後8時30分頃から、別の飲食店でFの主催する返礼の宴会(以下「本件第2会合」という)が行われた。本件第2会合では、白酒(パイチュウ)と呼ばれるアルコール度数の高い酒が出され、Xを含む日本人スタッフはいずれも白酒を複数杯飲んだ。
▼ Xは同日午後10時頃、宿泊先のホテルに戻ったが、翌9日午前2時頃、自室において、吐しゃ物を気管に逆流させて窒息死した(以下「本件事故」という)。本件事故はXにおいて摂取したアルコールが中枢神経系に対し抑制的に作用し、咽頭反射の反応がない状態で嘔吐したことから、吐しゃ物を十分に吐き出すことができずに起こったものである。
★ Xは同年3月に健康診断を受診しているが、特段の異常所見は認められなかった。また、特にアルコールに弱い体質ではなかった。
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<本件訴えの提起に至った経緯等について>
▼ YおよびZは本件事故について、労災保険法7条1項に規定する労働者の業務上の死亡に当たるとして、22年5月25日付で本件処分行政庁に対し、労災保険法に基づき、遺族補償一時金の支給を請求し、Yは併せて葬祭料の支給を請求した。
▼ これに対し、本件処分行政庁は、本件事故はXが過度に摂取したアルコールの作用により嘔吐して窒息死したものであり、業務と死亡との間の因果関係は認められず、同法7条1項に規定する労働者の業務上の死亡とは認められないとして、いずれも同年12月16日付で支給しない旨の処分(以下「本件各不支給処分」という)をした。
▼ Yらは本件各不支給処分を不服とし、23年2月17日付で東京労働者災害補償保険審査官に対して審査請求をしたが、同審査官は同年8月4日付で同審査請求を棄却する旨の決定をした。
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