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腹鳴論
腹が空くから食べるのではない。腹が鳴るから食べるのだ。
妙なことを言うようだが、教育現場で長時間の着席を強いられる学生諸君には痛いほどよく分かるはずだ。朝食を十分食べたところで昼休み前に腹は鳴る。だから、授業中に朝食を消化し尽くした胃が大胆に鳴る予防策として食べるのだ。胃の中の内容物が消化され底が尽きてくると、誰しも腹が鳴る。これを腹鳴と言うが、腹鳴には実はもう一つある。こちらの腹鳴はあまり知られていないが、胃が音を鳴らす腹鳴より明らかにたちが悪い腹鳴である。胃が鳴る腹鳴は何かしらの食べ物を腹に詰めれば鳴る前に完全に防ぐことができる。甘いチョコレートは時間のない時に有効で即効性がある。しかも上手くいけばバレない。休憩時間に食べれば授業1時間分は余裕で快適に過ごすことができる。
そこで突如として頭角を現すのがもう一つの腹鳴である。胃が空でもないのになる腹鳴。
腸の腹鳴だ。
これは前触れもなく腸内のガスが移動することによって発生する。便秘でガスが溜まったり、緊張して腸の調子が悪くなったりすることで頻繁に発生する。
今回の私らの代を最後に幕を閉じた大学入試センター試験。それでも自習という名目での午前授業は続く。自習と言うと生温く聞こえるかもしれない。しかし、教壇で45分間芝居を続ける教師はもういない。
沈黙の自習時間は生徒を地獄に追い詰める。自習では読書、問題演習、課題など自分の好きなことをできるが、実際は制約が多く、ほとんど自由はない。
まず、着席してできることに限られる。それは仕方がないにせよ、もう一つかなり重大かつ残酷な制約がある。
静かにすること。この暗黙の了解なる制約が教室にただならぬ空気感を生み出す。生徒40名が一挙に集う教室。沈黙を保ち続ける40人45分間。これほど、張り詰めた空気に浸ることは生徒にかなりの負担を強いる。沈黙教室を持つ教師さえもこの沈黙をおそれているようだ。
沈黙は口を閉じていればできるというほど単純ではない。たとえ口は塞いだとしても、私たちの体は生理現象に伴うさまざまな音を生み出すのだから。